第180話 康太は冒険者になる:その29「遺跡攻略4:謎の兵士達!」
「全員、無事に『門』を潜ったか? 曹長、点呼を!」
「サー、イェッサー」
完全武装した男達が遺跡内で整列する。
男達の向こう側には「門」が見え、その向こうには茶色の砂ばかりの風景が見える。
「今回の目的はブリーフィングで説明したとおり、遺跡内の探査・偵察及び調査隊の護衛、おまけで怪物退治だ。各員、気合を入れていけ! 調査隊をなんとしても守れよ! 我ら海兵隊武装偵察部隊第六武装偵察中隊の力を見せろ! 以上!」
「サー、イェッサー」
指揮官が命令を下すと、各員速やかに行動を開始した。
米軍海兵隊武装偵察部隊とは、海兵隊が独自に所有する威力偵察部隊で、アメリカ特殊作戦軍の管轄外にある部隊である。
陸海空全ての環境に対応し、敵地への威力偵察・監視・斥候をこなし、要人保護・監視・人質奪還強襲など様々な状況に投入できる優れた兵士達から構成される。
「大尉、この遺跡、どうもイラク内ににあるとは思えません。気温がかなり低いのですが」
中隊副官の中尉が中隊長に疑問をぶつける。
「そういうのは学者さん達に任せて、オレ達は学者さんを守る事に専念だ。粘液状のバケモノが出るという報告がある以上、油断はするな。まあ、最悪オレの『鉄腕・鉄脚』でバケモノ共をぶっ飛ばしてやるさ!」
大尉は、右腕で力瘤を作るように腕を曲げて左手で右腕を叩く。
すると何故か金属音がする。
「経験豊かな隊長が来てくれて安心です。この部隊は新設再編成されたばかりですから、中隊といいつつ一個小隊半くらいしか人員がいませんから。」
中尉は精悍な顔つきを綻ばす。
中隊と呼称しながら定数(200人程度)はおろか1個半小隊弱(70名)しか人員が存在しないからだ。
「なんでも魔術だの科学だのの合体で、傷痍軍人として退役していたオレが現役復帰出来たんだ。せっかく失った手足が戻ったからには、国に奉仕するのは当たり前さ。まあ、こんな遺跡程度、70人もいりゃ十分さ。さあ、ムダ話をやめて探索だ!」
「サー、イェッサー!」
今回の任務、イラク・バビロン郊外で発見された「門」から続く遺跡調査隊の護衛任務である。
少々荒事になっても対応できる能力と優れた情報収集能力から彼らフォース・リーコンが投入されたのだ。
きびきびと完全武装の兵士達が動く。
その後ろから、おっかなびっくりの作業着を着た調査隊がついてゆく。
「さあ、行くぞ!」
「イェッサー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「どんな戦況なの?」
俺は状況を注意深く見ているチエちゃんに聞く。
「そうじゃな、圧倒的に兵士達の方が優勢じゃ。もう時間の問題じゃが、なんとか幻影呪文で時間稼ぎをしているところじゃ!」
俺達は急いでナナ達のところへ帰還し、今はチエちゃんの作った次元気泡の中から状況を把握しているところだ。
「この装備、M4とSCAR-L。米軍海兵隊系のモノじゃな。部隊章は見たことがないヤツじゃから新設の特殊部隊と見た。これはワシらが手出しせねば皆殺しじゃな。しょうがない、ワシと朧で行くのじゃ! 他の皆はここで待機? なんじゃナナ殿?」
ナナが手を上げてチエちゃんに意見する。
「意見具申イイ? ボクの九十九神達なら、銃相手でも暴れられるよ。ボクはここから遠隔操作できるし。コトミお姉ちゃんもいける?」
「はい、アタシでもお役に立てそうです」
意見具申とは上官に下士官などが意見をいう事。
どうも軍事系アニメで用語を覚えたらしいナナ。
せっかく知った言葉を使いたいのだろう。
他にも今日は出番なしなのを面白くない感じだったし。
「うむ、ではナナ殿、コトミ殿。宜しく頼むのじゃ! 騎士団と海兵隊の間を開いたら、そこにタクト殿が炎の壁を作るのじゃ。騎士団の方は、朧が次元迷宮を作って、他の団員と合流するようにするのじゃ! 海兵隊の方の説得は、また後じゃ!」
さあ、騎士団救援作戦の開始。
今回は、俺はしょうがないけど観戦モード。
では、チエちゃんのお手並み拝見!
◆ ◇ ◆ ◇
「おい、コイツら何者なんだ! さっきからいくら撃っても死なないぞ!」
「そんなの分からねーよ。くちゃべっている間に撃て!」
海兵隊員達は、口で言うほど慌てもせず、的確にターゲットを撃つ。
ムダ弾にならないよう、連射ではなくバースト(3発づつ)射撃で制圧射撃をする。
「確かに不思議だな? いくら防弾されていても.223喰らって倒れないはずはないぞ」
「はい、マークスマンがMk-17(FN SCAR-H)で撃っていますが、一向に効果なしです」
大尉は、横に居る副官の中尉に確認する。
M4やMk-16(FN SCAR-L)は口径0.223インチ5.56×45mmNATO弾、Mk-17はバトルライフルが使う口径0.300インチ7.62×51mmNATO弾を使う。
威力の差は口径以上、倍近く違う。(5.56mm 1700J、7.62mm 3275J)。
腐ってもライフル弾、5.56mmでも喰らえば人体はボロボロ。
更に強力な7.62mmなんかはオーバーキル。
近年では戦闘距離が伸びてきたので、遠距離射撃に向いた7.62mmが復権してきている。
「いくら当っても何の反応も無いのはおかしいぞ。曹長! 一度遠回りして確認してこい!」
「サー、イェッサー!」
しばらくして斥候活動をして確認してきた曹長からの連絡が来る。
「隊長! ここには誰も居ません! コイツらおとりです。どうやっているか分かりませんが、立体映像の様です」
「なにぃぃ!」
隊長は建物の影から飛び出してターゲットの方を見る。
すると白い衣装を着た敵の横で、曹長が手を振っている。
「総員! 射撃中止だ! Shitt!、一体どういう事かよ!」
隊長が愚痴ったその時、目の前に何故か漏斗が現れた。
その漏斗は細くなった方をこっちに向けて、ふわふわと飛行している。
「What?」
隊長が首を捻ったとき、漏斗から光が飛び出した。
一応補足説明、フォースリーコンには第五武装偵察中隊までは存在します。
第六は実在しない……、はずです。
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