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功刀 康太の遺跡探訪、時々お祓い ~女難あふれる退魔伝~  作者: GOM
第一部 第三章 功刀康太は家庭教師をする
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第18話 康太の家庭教師:6日目「逆恨み」

 蒼井宅に案内されて入っていくカオリちゃん。

 俺は、屋内での会話を聞き逃さないようにスマホに繋いだイヤホンに聞き耳を立てる。

 今どきの「盗聴」はスマホにアプリをインストールすれば簡単に出来る。

 今回は盗み聞きじゃないから、普通に俺のスマホとの通話を継続してもらっているだけなんだけどね。


「恵子、松坂さんが見えられているわ。ドアを開けても良い?」


「イヤ! 絶対ドアを開けないで。誰が来ても部屋に入らないでって言っているでしょ! それになんでカオリが来るのよ!」


 蒼井恵子さんはすごく興奮状態の様だ。かなり精神が不安定と思われる。

 また、探知系の術も使っていないらしく、家の中にカオリちゃんが入ったのすらさっきまで分かっていなかった。

 おそらくだが、恵子さんは蟲毒(こどく)以外の術を全く知らないと思われる。

 しかし、呪詛(じゅそ)の規模から考えて普通はあり得ない。

 明らかに黒幕が居て恵子さんを(そそのか)したに違いない。


「恵子、どうしてそこまで部屋に誰かが入るのを拒むの? もう10日も貴方の顔を見ていないの。お母さん、心配でたまらないの。頼むから私に顔を見せて」


 母親なら心配して当たり前。

 この反応を見るに、恵子さんのお母様は至って普通の愛情ある母親に見える。

 家族関係に問題がある人が「呪い」に(はま)るのは悲しいかなよくある事だけど、今回は違う気がする。


「どうしてもイヤ。だってワタシ……」


「だってってどうしたの? 何があったの? お母さんにも言えない事なの?」


「もう誰にも会いたくないし誰にも会えないの! 特にワタシを酷い目にあわせたカオリになんて絶対会えない! 早く出ていけ!」


 完全な逆恨みだ、自分が先に呪っておいて呪詛返し喰らったら恨むなんて酷いったらありゃしない。


「松坂さん、これは一体どういう事なのですか? 貴方が恵子に何かしたのですか?」


 厳しめの声だけどお母様としては自分の娘を守る為に、こう言うのは当たり前。

 しかし、事実は全くの逆。

 俺は念話でカオリちゃんに指示を送った。


「すいません、お母様。後で詳しく説明致しますので、少しだけ恵子さんとお話しさせて頂けますか?」


「はい。ですが恵子を害する事だけはやめてもらえますか?」


「それはもちろんです。それでは」


「ケイコちゃん。貴方がやった事は全部知っているわ。私を呪ったのよね。その呪いはもう壊したわ。壊れた呪いがケイコちゃんに帰ってきてしまったのよね。ごめんなさい、でもああしないと私が死んでいたの」


 カオリちゃんは自分が全て知っていると、恵子さんに告げる。


「私が気に喰わなかったのでしょ。だったら直接言って欲しかった。喧嘩してもいいじゃない。それとも私の事無視してもらっても良かったのに。でもね、私はケイコちゃんの事少し怒っているけど、恨んでいないよ。だって私が高校に入学したときに助けてくれたの、ケイコちゃんだもの」


 声を聞くとカオリちゃん、泣きそうになりながら話しているっぽい。


「だからね、出てきてよケイコちゃん。私を助けてくれた人がケイコちゃんの事も助けてくれるって言ってくれているの」


「そんなのウソよ! 呪いをかけられた人が呪った相手を許すなんてあり得ない! どこにそんなバカがいるの!」


「そうね、私ってバカよね。これだけ言われてもまだケイコちゃんの事助けたいって思っているんだもの」


 ああ、なんて穢れなき心なのだろう。

 これが青春、友情。

 こんな子たちを引き裂くように(そそのか)した黒幕がますます許せない。


「もう手遅れなの! 早く出ていけ! みんな死んじゃえ! うわーぁぁぁん」


 恵子さんの激しい泣き声がイヤホンから聞こえてくる。

 自分の逆恨みという自覚、少しはあるんだ。

 じゃなきゃ泣かないよ。


「呪いとか一体どういう事なのですか? 恵子が何を貴方にしたのですか?」


「それは詳しい人がいますので、場所を変えてお話しします」


 ああ、俺としても恵子さんのお母様には説明したい。



  ◆ ◇ ◆ ◇



 俺とカオリちゃんは近くの喫茶店に蒼井さんのお母様を連れ出した。



「俺は松坂さんの家庭教師兼ボディーガードをやっています功刀康太(くぬぎこうた)と申します。今回、松坂さんのご両親から依頼を受け、彼女を守っています」


 俺はお母様に自己紹介をした後、状況を説明した。


「彼女に最近不可思議な現象が多発しており、無人トラックによる事故など命の危機すらありました。そこで俺が調査した(ところ)、恵子さんから送られたペンダントに呪いが仕込まれている事を発見し、対処破壊致しました。そこで行先を失った呪いが術者である恵子さんに帰っていき、恵子さんは現在心身に異常をきたしてしまっています」


「それはどういう事なのですか? 呪いとかそんなオカルトなんて現実にあるはずは……」


 お母様がそう思うのも当たり前。

 科学技術発達した現代では、呪詛や魔法なんて誰も信じてはいまい。

 しかし、あるところにはまだ残っている。


「そう思われるのも当たり前だと思います。では、この映像をご覧ください」


 俺はスマホを操作してペンダント開封からの映像をお母様に見せる。

 あの時、証拠を残すべく動画録画しておいたのが役にたった。


「なんですか、この百足(むかで)は! え、貴方が退治したのですか? これは特撮でしょ、まさかこんな事が現実にあるなんて」


 映像を見ても信じないよね、普通。


「はい、私もその場にいて驚きましたけれども現実です」


 ナイスフォロー、カオリちゃん。


「これは蟲毒(こどく)という呪詛(じゅそ)です。恵子さんが最近虫等を集めているのを見たことはありませんでしたか?」


「そういえば害虫駆除するから虫を捕まえるって言っていました。殺虫剤は、と聞くと死んじゃ意味が無いからとも言っていました」


 これで恵子さんが犯人で間違いないね。


「蟲毒とは、毒虫等を一か所に集めて共食いをさせ、最後に残った虫を媒体として使う呪いです。呪いとしては藁人形に釘打ちするのと同じくらいポピュラーではありますが、準備が大変なのと失敗すれば呪詛返しが帰ってくるので、使いにくい呪詛です。しかし、恵子さんは呪いや術とかには詳しいとは思えません。お母様の反応を見ても身内に術者や拝み屋とかが居そうもないですし」


「はい、私の実家筋にも主人の実家筋にもそのような方はいません」


「ですので、おそらく最近恵子さんに接近して(そそのか)した黒幕がいると思われます。黒幕に関してはいずれ対処する必要があるかと思いますが、今大事なのは恵子さんの事です」


 俺はまずお母様を味方にすべく、また本当に恵子さんを救いたいから真剣に説得する。


「呪詛返しで精神的にも身体的にも不安定になっていると思われます。せめてご家族の前に出てきて頂き、自分の犯した事を打ち明けるかして頂ければ精神的には安定するかと思います。お母様には大変かと思いますが、恵子さんに対して普通に接して頂き心配している姿を見せてあげてください。そして助けてくれる人がいる事もお話しして下さい」


 俺はお母様に頭を下げて懇願(こんがん)する。


「俺も全力をもってご協力致しますので、宜しくお願い致します。そういえばご主人は恵子さんが閉じこもっている事はご存じですか?」


「主人ですが、仕事が忙しいのにかまけてあまり娘と話さないんです」


「思春期の娘さんと父親の関係が難しいのはよく分かっています。ただ、お節介ついでに言わせて頂くなら、恵子さんと向き合うのだけは忘れないようにしてあげて下さい。いつも見守っているのが分かると子供は安心しますから」


 俺は両親が居なかった代わりに、じーちゃん・ばーちゃん、マユ姉ぇ達がいつも見守ってくれたから安心していた。

 子供は親の視線って案外気になるものだから。


「では、連絡先をお渡ししますので、何かあったらご連絡ください。後、恵子さんの事は松坂さんの件のアフターサービスですので、お気になさらさないで下さい。俺が好きでやっている事ですから」


 そう言って俺は名刺を渡した。

 念の為に名刺には、呪詛返しとか式神返し対策はしておくけどね。

 黒幕に名刺が渡らないとも限らないし。


 

  ◆ ◇ ◆ ◇



「どうして許すなんて言えるのよ! バカじゃないの! それとも騙されて出てきたワタシをあざ笑うためにウソ言っているの?」


 ケイコは枕を投げて暴れる。


「あり得ない! あり得ない! あり得ない! 誰も信じられない! お母さんもカオリに騙されたに違いない! もう終わりよ!」


 ケイコは部屋の壁に手当たり次第に物をぶつけ、怒りを撒き散らしていた。

 

「全部全部呪ってやる! ワタシが一番じゃない世界なんて無くなればいい! 皆死んじゃえ!」


 ケイコの思考は、どす黒く歪み切っていた。

 自分が許されるとは露ほども思っていなかった(ところ)に許すなんて言われた事から混乱を(きた)していた。

 

 ケイコは被っていたタオルケットを跳ね除け、手鏡で自分の顔を見た。

 ケイコの右目の周囲は熱を持ち(ただ)れ腫れ上がっており、全く右目が見えていない。

 大百足が退治された時に熱さと痛みがケイコを襲い、痛みが引くと右目はすでに腫れ上がっていた。


「呪いを壊したヤツ、絶対許せない! 今度はアイツから始末してやる! もっと強い呪いを使ってやるんだ!」


 大百足と繋がっていたケイコには、康太の顔が見えていた。

 ケイコは、まさかカオリの家であんなボディーガードを雇うなんて思ってもみなかった。

 呪いは警察には分からないから、簡単かつ安全に邪魔なカオリを始末できると思い込んでいた。

 なのに、呪いは壊され自分はこんな酷い目にあっている。

 それがケイコには許せない、例え逆恨みだとしても。


「ナイト様早く返事くれないかな? アイツ倒せる強い呪い教えてもらわなきゃ」


 ケイコはスマホの画面を見て自分の発言が既読になるのを待っていた。

 その様子をケイコの後ろからほくそ笑んで観ている存在が居る事をケイコはまだ知らない。

ブックマーク、感想、評価を頂けますと、とても嬉しいです。


皆様、宜しくお願い致します。

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