第179話 康太は冒険者になる:その28「遺跡攻略3:騎士団への強襲その2!」
俺達の前には、カレンさんの羂索で完全に無力化された「騎士団」の面々が転がる。
一部、マユ姉ぇの姿を見て、変な方向に曲がった手足を動かしてジリジリとでも逃げようとしている人達がいるのは、ご愛嬌か。
「これでベースに居た全員を捕縛したのじゃな」
「ああ、多分そうだ」
チエちゃんはフランツ君に聞く。
「さて、では尋問タイムじゃ。おい、オマエなんでフランツ殿を捨て奸に使うたのじゃ!」
捨て奸とは、戦国時代薩摩島津氏が関が原の戦いから撤退するときに用いた戦法。
死ぬまで戦う兵士を使って時間稼ぎをして追っ手を足止めする戦法。
殿様さえ生き残って薩摩に帰り着けば勝ちという特殊な勝利条件と、殿様の為なら死んでもかまわないという勇猛な兵士がいて初めて成立する戦法。
あの「妖怪首置いてけ」も正史ではここで亡くなっている。
「ふん、俺は何も知らないぞ。マスターの指示に従っただけだ」
本部にいた男、師範代理は何も悪い事はしていないように言う。
因みにここでの会話は英語、自動翻訳しております。
「ほう、ワシらを監視しておいてそう言うか。まあ、良いわ。さて、ワシらはお主達をこのまま放置じゃ。門を壊しておくし、調査に行った連中も今頃一網打尽じゃ。今度は、お主達が命乞いをする番じゃぞ」
チエちゃんは、幼女に似合わない悪い表情をする。
「ふん、いくらガキが粋がっても怖くもないぞ」
師範代理は、なおも強気だ。
「もうすぐマスターが来て、お前たちも終わりだ!」
「ああ、すいません。師範代理、門のカギ抜いておきました。もうこれで向こうから門は開きませんね」
しれっとフランツ君は言う。
自分がされた事への仕返しだろう。
それに俺達がこれ以上、騎士団の人を傷つけないという安心感もあるから、精一杯の嫌がらせに協力してくれる。
「おい、それが教示した俺への仕打ちか、ヴトケ?」
男は怒り吼える。
「はい、師範代理。貴方は私を見捨てたのですから、同じことしただけです。眼には眼を、歯には歯を。受けた被害以上の事はしていませんよ」
フランツ君、余程頭にきていたのだろう。
実に悪役っぽい表情で師範代理とかを煽る。
「あぁぁぁ」
師範代理は叫びながら悔やむ。
「さて、ここで相談じゃ。ワシらも鬼では無い。お主達がここへ来た目的を教えてもらえれば、お主達の解放を考えないでもないわい。世界に仇名すとか武力を蓄えるとかではなく、純粋に学術研究のためというのであれば、協力もありうるのじゃ。もちろん研究結果は全世界に公開じゃ。どうじゃ、条件を飲むか?」
チエちゃんは師範代理の元へ膝をついて近づく。
「お前ら黄色いサルやチビ等に言う訳無いだろ! 偉大なるマスターの目的の為ならば、我らは死も厭わないのだ!」
この師範代理の声に、騎士団の中からざわめきが起きる。
せっかく助けてくれるという声を踏みにじる訳なのだから。
多分、彼らもフランツ君同様、騙されたりして連れてこられた口なのだろうね。
「さて、どうしたものかのぉ」
「ええ、この師範代理さんだけぶっ飛ばして、他の皆様は帰ってもらおうかしら。私、こういう悪い人許せないの」
チエちゃんとマユ姉ぇが怖い相談をしている時に、俺達のと騎士団の通信機が同時に鳴る!
「一体どうしたのじゃ、アヤメ殿?」
「はい、こちらアヤメ。先ほどから、騎士団と謎の兵士達の銃撃戦が開始されました」
ポータルを持ってもらっていたアヤメさんから連絡が来る。
一体、何が起こったんだろうか?
兵士だって?
もしかして、俺達や騎士団が使った以外の「入り口」が遺跡にはあるんだろうか?
謎が深まるばかりだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「このあたりで、先程まで強大な魔力反応があった。警戒しながら調査するんだ」
騎士団調査部隊長は、周囲を見回しながら警戒を怠わらない。
「師範代理の話だと女性ばかりだが、ものスゴイバケモノだと言うが本当か?」
調査部隊長は、にわかに信じられない。
女性は弱く守るべき存在、それがショゴスの群れを薙ぎ払う等、想像すら出来ない。
「ん、何か動いたような?」
パンパン!
その時、発砲音が遺跡内に鳴り響いた。
「何が発生したんだ! 報告!」
「はい、先程謎の兵士達に接触、銃撃戦が開始されました。私達も呪文で応戦中ですが、向こうの方が数も連度も上。このままでは戦線維持できません!」
なおも鳴り響く銃撃音。
軽いが連続する銃声は、おそらくアサルトライフルのもの。
ならば、敵は傭兵か正規軍特殊部隊か。
「お前ら、早く撤退するんだ。眼くらましや欺瞞術を行使して逃げるぞ。怪我人を忘れるな!」
部隊長は銃声の方向へ走った。
◆ ◇ ◆ ◇
「チエちゃん、これ無視出来ないよね」
俺達は騎士団の連絡も聞いて、かなり苦戦しているのを理解した。
「そうじゃな。ワシらの目前で殺し合いなぞさせる訳にいかぬ。母様、カレン殿、良いな。コウタ殿は……、聞くまでもないのじゃ!」
「はい、チエお姉様」
「ええ、良いわよチエちゃん。でもココはどうするの?」
チエちゃんはマユ姉ぇに殺戮中止行動をする事の許可を聞く。
俺も無意味な戦闘はイヤだ。
「とりあえずワシのポケットに放置じゃな。あそこなら銃撃戦に巻き込まれる心配も無いのじゃ!」
そう言ってチエちゃんは別位相空間の入り口を広げる。
「すまんが、しばらくココで隠れておれ。お主達の仲間を助けに行ってくるのじゃ!」
まだ師範代理は拗ねたままだが、別の女性から感謝の言葉が出る。
「ありがとうございます。なんで敵なのに助けてくれるんですか?」
すかさず答えるチエちゃん。
「ワシらは『お人好しのお節介焼き冒険者』なのじゃ! それ以外に理由等無いのじゃ! 皆の衆行くのじゃ!」
騎士団の人々を異空間に入れた俺達は、急ぎチエちゃんの術で現場に向かった。
間に合ってくれよ、もう誰も死んで欲しくないのだから。
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