第176話 康太は冒険者になる:その25「地獄の七丁目 一旦帰還!」
ようやく自分が何と敵対して負けたのか理解したフランツ君。
観念して訥々と自分の身の上について話し出した。
彼、Franz Wuttke、19歳。
タクト君と同い年のドイツ系アメリカ人。
ニューヨーク州の田舎の方出身で、インターネットで薔薇十字騎士団の事を知り、連絡を取って入団したそうな。
〝私は昔から色んな不思議なモノが見えていたのと、神秘的な物語に興味があったんだ。そこで薔薇十字騎士団の存在を知り、そこに飛び込んだんだ〟
そして「マスター」なる人物に見出されて、徒弟となって術が使えるようになり、今回の遺跡確保部隊へ選抜されたんだとか。
まるで、アルカイダとかイスラム国が使う手口に嵌った若者達のように。
〝私達は、グリーンランド北部、氷に閉ざされた山中で発見された『ドア』から、この遺跡に数日前入ったんだ〟
「ならば、ここが南極の狂気山脈に存在する遺跡というのは知っておるのじゃな?」
チエちゃんは、フランツ君に聞く。
〝ああ。ある程度の話はマスター達に教えてもらったよ。そして今日俺達のベースキャンプで、『笛』を渡されて、ショゴスを使い魔にして侵入者を始末しろって言われたんだ〟
ほう、「向こう」は俺達の遺跡侵入に気が付いていたんだ。
しかし、向かわせる手勢がフランツ君だけというのは解せない。
「それは、体の良い厄介払いでは無いかのぉ。ヴトケ殿だけでワシらを片付けろとは到底ムリな相談じゃ。ならば、おそらく撤退の為の時間稼ぎとワシらの戦力の浪費もしくは撃破、他にも何らかの理由があってのことじゃろう。しかし、ワシらにマスターとやらを追撃する力はもう無いのじゃ。そういう意味ではワシらの戦略的敗北じゃな」
チエちゃんは悔しそうな顔をする。
確かに俺達はショゴスをロード含めて全滅させるという戦術的勝利は出来た。
しかし、マスターとやらを追撃する時間も余力も失ってしまった。
〝今になれば分かるよ。私だけでやってこい、と言った意味が。私だけで勝とうというのがムリだと。心身共に素晴らしい貴方方に卑しい考えに固まっていた私が勝てるはずない〟
妙にしょげているフランツ君。
ホント、この間までのタクト君を見るようで不思議な感じ。
「いや、己の過ちに気が付いた時点でヴトケ殿は偉いのじゃ! そういう意味ではヴトケ殿はマスターの思惑に勝ったのじゃ。向こうはヴトケ殿の命は無いものと思っておる。しかし、ヴトケ殿は生き残った上に、ワシらと友人となった。これが勝利で無くて何が勝利であろうか、のじゃ!」
おー、旨い事フランツ君を慰めるチエちゃん。
この先、フランツ君を味方に引き入れたほうが都合が良いのは確か。
それ以上に、放置され捨てられたフランツ君をチエちゃんや俺達が見捨てられるはずも無い。
〝いいのか? 私が友人とは? 私達は戦いあったのだぞ?〟
「良いのじゃ! だって、ここのメンツは一度は戦った者達のほうが多いのじゃからな」
ニッコリ笑うチエちゃん。
確かに俺はチエちゃん、タクト君とは戦った仲だものね。
「まー、そのヘンは今更だよね。俺達悪魔に宇宙人と多種多様なパーティだもの」
「そうよねぇ。私達、色々ありすぎですものね、コウちゃん」
「うん、そーだよねリタちゃん」
「そーだよね、おねえちゃん!」
ニコニコ状態の俺達。
「はー。ホント、先輩達ってお人好し過ぎるんですもの。ここはアタシがしっかりしないと」
「そうかね? 私が見るにコトミ君もイイ加減お人好しのお節介焼きだよ?」
苦笑いのコトミちゃんに、ツッコミ入れる吉井教授。
「まあ、お姉様たちの無茶苦茶さは今に始まった事じゃないですしね」
「そうですねぇ。おかげで私達としてはぁ、随分とパワーアップさせてもらってますけどぉ」
尼僧2人組も、そんなの今更だよねって顔。
「タクや、いつもこんな感じなのかよ? 叔母様達スゴ過ぎじゃねー?」
「だって、俺も一度兄貴に倒されて仲間入りしたんだもの。そういえば、俺もう一歩で人殺しかけたんだ。それをチエ姉さんが防いでくれたし、俺の命も救ってくれたんだ」
「そうよね、あの時のチエさんの命を尊ぶ泣き顔は、私一生忘れないわ」
「え、そうなんですか。チエ姉さんってスゴイんですね」
遠藤姉弟妹達とアヤメさん。
タクト君とアヤメさんは、過去の事を思い出しているのだろう。
「タクト殿の時は、ワシがおったからセーフじゃっただけじゃぞ。普通放火されて全身火達磨は死ぬのじゃ。まあそれは今更じゃな、放火された本人も許しておるし。ヴトケ殿の場合は誰も傷ついておらぬし、一緒にショゴスと戦った仲じゃ。という事で、ワシらは『お人よしのお節介な冒険パーティ』じゃから一緒に戦えば、もう戦友なのじゃ!」
最後に締めるチエちゃん。
「あのー、すいませんが、そろそろ撤退の準備をしないと夜になりますが……?」
帰りが心配な金子先生達である。
「大丈夫じゃ。ヴトケ殿、もうテレポートブロックは切れたのじゃろ?」
〝フランツでかまわないぞ、Missチエ。ああ、もうアイテムの効果は切れた。使い捨てのテレポートブロックだから、長時間はもたないし〟
チエちゃんに礼儀正しく話すフランツ君。
「ワシの事もMissは要らないぞ。日本語でいうところの『ちゃん』付けで頼むのじゃ」
微笑みつつフランツ君に話しながら、ポータルを起動するチエちゃん。
因みに長々話していたけど、ここは避難に使った巨石遺跡の中。
ここなら簡単にポータルを悪用できまい。
第一、ポータルだけでは通信以外何も出来ないのだから。
「マサト殿、聞こえて居るのか、のじゃ!」
「はい、こちらCP、マサト。皆大丈夫? さっきまで通信切れていたから心配してたんだ」
心配そうなマサトの声が聞こえる。
「ナナちゃん、大丈夫!」
あら、今日もルナちゃんが来ているんだ。
「ルナちゃん、ボクだいじょーぶだよ。皆、無傷で大勝利だよー!」
ルナちゃんに笑って話しかけるナナ。
すっかり本部の2人に心配かけちゃったね。
「色々会ったのじゃが、そろそろ撤退するのじゃ。一度、本部に帰ってから、それぞれの拠点へ帰るのじゃ。冒険の続きはまた今度の週末じゃ。この遺跡はフルメンバーで掛からねば手ごわいのじゃ!」
そうだね、今回遠藤姉妹の戦力追加があったのでショゴス戦は勝てた。
その上、ナナやリタちゃんを欠く戦力では俺達に勝ち目は無い。
なら、慌てる事がないのなら、一旦引くのが一番。
もちろん「騎士団」が先に遺跡に戻って戦力を用意する事も検討する必要はあるけど、こっちもそれ以上の戦力を持って勝てば良い。
幸い、こちらにはフランツ君という情報源があるけど、向こうにはこちらの戦力の全てを知るものは居まい。
ショゴス戦を監視されていたとは思うけどね。
「はい、私共としても皆様全員のご協力あってのモノダネです。また次の週末にお願い致します」
金子先生も俺達に同意してくれた。
「じゃあ、『ドア』開くのじゃ。『どこでも……』!」
「はい、チエちゃん。危ないネタはそれまでにしてね」
身長体重123の青ダヌキ旧CVネタをやるチエちゃんにつっこむマユ姉ぇである。
「Oh!!」
フランツ君が驚愕する。
そうか、向こうは固定ゲートでの出入りしかしないんだ。
「どうじゃ、これがワシらの『どこでも……なドア』じゃ。これで何処からでも安全に撤退できるのじゃ!」
危なげに「お得意ネタ」を披露するチエちゃん。
「はい、繋がりましたよ。皆お疲れ様でした」
「おつかれさまでーす!」
マサトとルナちゃんが「ドア」の向こう側から癒しの言葉を言ってくれた。
「どうもなのじゃ。1人増えたのじゃが、そっちに帰るのじゃ! 金子殿や助手のお2人、カレン殿達、カズミ殿達は一旦関東へ移動してから、それぞれの『ドア』経由で帰るのじゃ!」
〝一体貴方達は何者なんだ?〟
まだ驚きから復活しないフランツ君。
「まあ、そのあたりはゆっくり話そうね。そうだ、アヤメさんフランツ君の身柄を公安の方で一旦預かってもらえませんか? それの方がお互いに安心だし」
「そうねぇ、もうウチのアパートは満員だし。男の子を母屋に住まわせるのも困るわ」
分かったような分からない答えのマユ姉ぇ。
天然ボケ、ここに究まれりだね。
〝何? 私の事を公安に頼むのか?〟
「はい、ご安心ください。決して悪いようにはしませんから。すべてが終わったらアメリカへもお帰りできるようにお約束致しますわ。では、今から電話して迎えに越させますね」
アヤメさんは早速スマホから電話をしだした。
今は「ドア」が開いているから、通信電波はこちらにも届くしね。
しかし、アヤメさんも俺達に「毒され」てお人好しになってしまったのかも。
以前はもう少し、悪即斬な女性だった気がするんだけどね。
「じゃ、帰ろ皆!」
「おー!!」
ということで、俺達の遺跡探索の第一週は終了した。
来週末の探索までに色々情報収集しないとね。
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