第175話 康太は冒険者になる:その24「地獄の六丁目 って、もう地獄じゃないじゃんw」
「さて、これでとりあえずの方は付いたのじゃ。しかし、皆結構疲弊してしもうたのじゃ。しょうがないから、今回はここで撤退をしたいのじゃが、どうじゃろう?」
ショゴス退治が終わった後、再び休憩中の俺達。
たぶん、これで遺跡内に潜むショゴスの大半は退治した、……よね。
しかし、化学弾は撃ちつくし、呪文を連打したので皆の魔力は底切れ寸前。
これ以上、無理をしても良い事は無い。
「俺も撤退に賛成だね。ここにポータル置いて帰ろうよ」
俺もチエちゃんの意見に同意した。
「そうよねぇ。もう連戦は厳しいわよね。金子先生、宜しいですか?」
マユ姉ぇも撤退の意思を示し、金子先生に聞く。
「ええ、私としても今回得られたものは多いですし、皆さんにこれ以上無理をお願いしても良い事はありません。撤退しましょう」
金子先生から撤退の許可が出たので、帰りましょ。
そうなると問題になるのは、捕虜のフランツ。
この子案外若そう。
白人系の年齢って分からないからねぇ。
向こうから見たら日本人が年齢不詳すぎるそうだけど。
「さて、ヴトケ殿。お主はどうするのじゃ? おそらくお主の所属する騎士団とやらはお主を助けてはくれまい。もし助ける気があるなら、連絡が途切れた段階でなんらかの動きがあるじゃろうし、さっきの『ショゴス津波』を気がつかぬ訳はあるまい」
チエちゃんが凄んで念話込みでフランツに話す。
〝そんな訳があるはずはない。マスターは、思慮深きお方だ。私を見捨てるはずなぞありえない!〟
フランツは興奮しつつ念話込みの英語で話す。
「じゃあ、連絡を取ってみるのじゃ! ホレ、通信機を返すのじゃ」
そう言ってチエちゃんは、フランツに「通信機」を返した。
ただ、その「通信機」どう見ても通信機に見えない。
魔術的な通信機らしく、俺には「御札」にしか見えない。
〝どうしてコレが通信札と分かった? オマエのような子供になぜ? というか、お前ら、一体ナニモノだ? 私の知る限り、オマエ達の様な術者がいるはずないのに?〟
やっと、俺達の「強さ」に気が付いたフランツ。
キミ、使い魔のショゴスが簡単に倒された時点で気が付けよ。
「ワシらの正体については、また後じゃ。逃げ帰る相手に余分な情報を与えるはずなかろう。まあ、どうせ泣き付いて一緒に連れて帰ってくれと言うのが『お約束』じゃがな」
チエちゃん、人の悪そうな表情でフランツを煽る。
「Shitt!!」
フランツは、御札を起動させたのか、耳に近づけて会話をしだした。
「Hello!I’mWuttke!. Oh? What! Why? Why!!」
あら、言葉の断片だけで分かる内容。
これは「トカゲの尻尾きり」されたね。
かわいそーに。
「ほれ、ワシの言った通りじゃろ。どうせマスターとやらからすれば、お主、ヴトケ殿は、十派一絡げの雑兵。アイテム渡して使いこなせたら合格。使いこなすどころかアイテムを失ったヴトケ殿が切り捨てられるのは、よくある展開じゃ」
チエちゃんは、へたれ込んで座ってしまったフランツを馬鹿にしつつも慰めるように話しつつ近づく。
〝くそう! これも何もかもオマエらが悪いんだ! 東洋のサルやチビのお前らが偉大なる私に倒されないからだ!〟
あーあ、拗ねちゃったよ。
「それは大きな間違いじゃ。どうせマスターとやらに間違った教えを授けられたのじゃろうて。のう、フランツ坊や」
チエちゃんは、哀れむようにフランツの頭をナデナデする。
しかし、フランツは苛立った表情で、チエちゃんの手を払い退ける。
〝ナニが坊やだよ! チビ、オマエの方が年下だろ? それにマスターの何処が間違いなんだよ!〟
涙ぐみながら叫ぶフランツ。
内心、自分が切り捨てられてしまった事を理解したのだろう。
「それは全てじゃ。人、そして生き物は全て違うが、全て尊いのじゃ! 人種や男女、若い、年寄り、皆違っておるし、違って良いのじゃ! お互いの違いを尊重して慈しみあってこそ、人じゃ。キリストも言っておろう。『汝の隣人を愛せ』と」
その慈愛に満ちた言葉に、はっとするフランツ。
チエちゃん、説法苦手と言いながら、ちゃんと教え導く。
だからこそ、「神様」として崇め奉られ、拝まれるんだよね。
〝なぜ、オマエが主のお言葉を言うのだ。なんで、チビのオマエに私が言われなきゃならないのか?〟
チエちゃんは、微笑を絶やさずフランツに向けて言葉を紡ぐ。
「ヴトケ殿、お主まだ分からぬのか。お前の大事なマスターとやらは、お主を捨てたのじゃ。じゃが、ワシらはお主を捨てず、ショゴスの群れから守った。この違いはどうじゃ? イイ加減分かるのじゃ。どちらがよりヒトとして正しいのかを」
「Umm」
流石にここまで言われて、自分が切り捨てられた事に納得したフランツ。
〝じゃあ、オマエら。いや、貴方達は私に何をしてくれる? そう大言壮語を述べたんだ。私をココから連れ出して助けてくれるんだろうな?〟
しかし、強気な態度は治らないフランツ。
イイ加減度胸ありすぎ。
それともこちらの実力を読み誤って、まだ自分が優位だと思っている?
そんな様子を見て、思わず笑ってしまうタクト君。
自分の過去を見るような気分なんだろう。
「Hei You!!」
タクト君の方を見て怒るフランツ。
自分が馬鹿にされたように思うんだろう。
「いや、すまない。昔の自分を見ているようでおかしくなったんだ。フランツと言ったっけ? キミの事を笑ったわけじゃないんだ。ごめん」
タクト君、念話込みでフランツに話しかける。
精霊術は、精霊と念話で会話してお願いをする術。
だから、タクト君が念話が出来るのは当たり前なんだ。
「What?」
フランツ、まだ笑われた理由が分からないらしい。
「だって、キミは皆の事分かっていないんだから。俺は昔、自他の実力も分からずに兄貴達に喧嘩売ってコロっと負けたんだ。そう、キミの様にね。そして、すっごく怖い思いもしたよ。また、その後いっぱい助けてもらったんだ」
タクト君は、懐かしそうな顔をする。
「この人達には、悪意でぶつかっても勝てないよ。だって、マジ神様級なんだものね」
「まあ、ワシは神様じゃないがのぉ!」
そして、チエちゃんと朧サンは悪魔形態へと変化する。
「OH!!!!!!!」
叫んで腰を抜かすフランツ。
そして俺達を見て更に怯える。
〝なんだ、貴方達のマナ総量は!! それに何だ、そのエルフ耳は?〟
あ、フランツ君てば、今になってやっと気が付いたのね。
キミ、俺とそうマナ総量変わらないのに、俺以上のお姉様方に勝てるはずないでしょ。
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