第174話 康太は冒険者になる:その23「地獄の六丁目! ショゴス殲滅」
「じゃあ、行くよ皆!」
「おー!」
俺は、立てこもっていた建物を出て戦闘準備をしている。
ここは結界内、火炎の結界越しに向こうで憎らしそうにしているショゴス・ロードの顔が見える。
「じゃあ、作戦通りに行くよ! では、タクト君お願い!」
「ああ、兄貴! カグツチさん、ロードまでの道作りますから、お願いします」
〝承知した。〟
タクト君は両手を上に上げて念を捏ねる。
そして手を前に指し下ろす!
「爆炎道路!」
その掛け声と同時にカグツチさんが手を前に差し出す。
すると火炎、いやプラズマクラスまで加熱されたモノが前に飛び出す。
ソレは、結界を越えてショゴスの海を割く。
まるで、モーゼの杖で割れていく紅海のように。
じゅわ!
その「火炎」に触れたショゴスは一瞬で蒸発する。
そしてその火炎は幅広くなっていき、直径5m程の火炎のトンネルを形成していく。
「行くよ!」
「おう!」
俺、マユ姉ぇ、タクト君は一緒にダッシュする。
目標はショゴス・ロード、アタマを潰す!
◆ ◇ ◆ ◇
ショゴス・ロードは自分へ向かってくる火炎のトンネルに気が付き、恐怖する。
いくらショゴスで塞いでも、それは一瞬でショゴスを蒸発させていく。
このままでは自分ごと焼かれてしまう。
しょうがない、逃げよう。
そうロードが思ったがすでに手遅れだった。
「おう、逃げに入ったのじゃな。じゃが、手遅れじゃ。逃がしはせぬのじゃ。さあ、潰れろ! 重力結界!」
ショゴス・ロードは、何十Gもの高重力で地面に押し付けられる。
ショゴスだけに中性子星とかの超重力で無い限り潰れてしまう事はない。
しかし、逃げるには体が重くて動けない。
一体、いつから攻防が変わったのだ?
さっきまで自分達が圧倒的に優勢だったはず。
ナニが逆転の切っ掛けになったのか?
せっかく得た脳を使ってロードは考える。
しかし、答えが出る前に脅威が迫ってきた。
◆ ◇ ◆ ◇
「よし、見えた。チエちゃんが足止めさせているウチに勝負決めるよ! 俺が先手で行くよ。次はマユ姉ぇ、手加減無しでどうぞ。最後はタクト君、一片たりとも残さず消滅させるんだ!」
「了解ですわ」
「おう!」
火炎トンネルでも焼けずに、トンネル中心で座り込むロード。
しかし、各部分が焦げており、チエちゃんの重力結界の影響からか、逃げようともしていない。
人間の姿をしているけど、部分部分が人外の形態をしている。
どうやら形態維持をしている余裕がなくなったのだろうて。
「ロード、人類を舐めたのがオマエの敗因だ。もうお前達の時代じゃないんだ。往生しろや!」
俺はロードから3mは離れた場所で一瞬立ち止まり、光の剣を振り上げる。
光の剣は、斬馬刀を越え刃渡り2m強、直径70cm程の剣いや、光の棍棒になっている。
そして剣の表面には、光の振動みたいなものが見える。
この剣は摩利支天太陽剣の3重掛けに、リタちゃんの「光になれ!」を付与している。
俺は憎らしげに睨んでくるショゴス・リーダーに数歩踏み込んで、大上段から「剣」を叩き付けた。
「滅びよ、ショゴス! 必殺・斬艦刀一刀両断!」
俺の一撃は、ショゴス・ロードを頭上から切るのではなく、押し潰した。
普通なら潰れないはずのショゴスだが、「光になれ!」を喰らい光の「棍棒」に触れた部分から光子へと変換される。
まるで、草薙の剣に切られたリブラの様に。
まさか、これが神剣の力なのかな?
俺の一撃は、ショゴス・ロードーを一撃で霧散、光子へと完全に変換させた。
後には、剣が穿った「穴」しか残らなかった。
「次、行きます! 光兼よ。全力で敵を滅ぼせ! ナウマク・サンマンダ・ボダナン・アニチャヤ・ソワカ! 日天日輪光 メーザーバージョン!」
マユ姉ぇの持つ薙刀の前に光の球が形成される。
そして、ソレは激しく振動して目に見えなくなる。
「えい!」
その可愛い掛け声と共に、マユ姉ぇは薙刀を左から右に大きく薙ぐ。
すると薙いた方向に居たショゴス達が全て一瞬痙攣したかと思うと膨れ上がり内部から爆発をしていった。
薙刀の前から出ていたのは、水を一瞬で沸騰させる程の威力まで強化された高周波メーザー。
因みにレーザーとメーザーの違いは波長。
紫外線、赤外線とか可視光域はレーザー、電波域だとメーザーと呼ばれるコヒーレント(位相)が揃えられた電磁波。
X線とかガンマ線もレーザーっていうね。
メーザーを喰らった生物は、体内の水分が加熱される。
威力次第では、体内水分が一瞬で気化膨張して、水蒸気爆発をする。
もちろん、そこまで威力があるメーザーを喰らえば生命は死ぬ。
ショゴスとて水分大目の生物。
マユ姉ぇの本気の前には無力だった訳だ。
一撃で前面左右のショゴスの海が全て薙ぎ払われた。
残るは、周囲にいる残党共。
「最後は俺だ! カズ姉ぇ、技借りるよ! カグツチさん、お願い! 爆炎雨!」
タクト君はカグツチ様にお願いする。
するとカグツチ様は、両手を上に上げて直径3m程の火球、いやプラズマ球を作り上げる。
そして、プラズマ球は頭上、地下都市の天井付近まで打ち上げられる。
どーん!
プラズマ球は爆裂し、下に向かって火炎の雨を降らせる。
その火炎は自ら形状を錐状に変形、自己鍛造してショゴスの海へと降り注ぐ。
そして「雨」はショゴスに着弾するとともに爆裂をして着弾点のショゴスを一片も残さず焼却していく。
しかし、俺達の元へは一切「雨」は降ってはこず、トンネルの屋根で止まる。
また、空中に浮かぶチエちゃんにも火炎が避けて降り注ぐ。
「テケり・りぃぃぃぃ!」
ショゴス達は、怯えながら焼かれて滅んでいく。
俺は炎のトンネル越しに、延々とプラズマ火球から降り注ぐ「雨」を見ていた。
「タクト君、やったね! これで俺達の完全勝利だよ」
「ああ、兄貴。ありがとう! 俺、皆のおかげでココまでなれたよ!」
半分涙目のタクト君。
自分の契約精霊がいないまま術を使ううちに、周囲との違いから居たたまれなくなり、逃げた先で悪行に加担して逮捕される。
司法取引で警察の手下となるも、捩れてしまった精神で俺達の敵として現れた。
そして俺に敗れた後は、チエちゃんやマユ姉ぇ達に巻き込まれ、揉まれて徐々に棘も取れていく。
最後に、自分の為ではなく他者を守る為の力を欲し、そして強大な力を得た。
タクト君は、もうこれで俺なんかよりも随分と上に行った。
兄貴分としては、追い抜かれたのは少し寂しい気がするけど、チームとしての戦力アップは大歓迎だ!
しかし、これで正真正銘、俺が最弱になっちゃったね。
まあ、頑張って俺は俺で、更なる高みを目指しますか!
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