第173話 康太は冒険者になる:その22「地獄の五丁目! 反撃開始」
「ん? あれ? タクト君、そのヒトは?」
俺は、熱気というか神気を感じて、その方向を見るとタクト君の横に火炎を纏いし古代和装のヒトがいた。
いや、ヒトじゃない!
高位な精霊、違う神霊だ!
〝コウタ殿だったな。今までコヤツの事を正して頂き、感謝する。我はカグツチ。このモノと幼い頃に契約したは良いが、心がなっておらぬ上に未熟。我の力を扱いきるのには力不足だったのだ。しかし、これまでのお主達と触れ合う事で心が清められ、かつ鍛えられた。そしてようやく我の力を扱える粋まで達したのだ〟
ガグツチだって!
またの名を火之迦具土神とも言われる火の神。
その名は日本神話の比較的初期に出てくる。
国産みの夫婦神、イザナギ・イザナミの別れの原因となった2柱の子。
出産時にイザナミを火傷させて彼女の死の原因となり、父イザナギにより切り殺された悲劇の神でもある。
その死から剣と雷の武神、建御雷神が生まれたとも聞く。
そんな大神がタクト君の契約先だったのか?
「俺、良く分からないんだけど、このヒトもしかして神様級なの?」
タクト君は不思議そうな顔でカグツチを見る。
「オイ! タク。まさかオマエに火炎系の最高級の神霊の加護があったのかよ!」
「えー、お兄ちゃんすっごい!」
遠藤姉妹は流石に火炎系の精霊・神霊は知っているみたい。
「ボク分からないよ? どういう事、コウ兄ぃ?」
「わたし にも おしえて?」
ウチの妹共が知らないのはしょうがない。
「そんな事言っている間に攻撃してよぉ!」
〝私をこれ以上働かす前に、オマエが働けよ!〟
コトミちゃんにフランツが愚痴る。
あ、今お取り込み中だった。
「ナナ達、今は忙しいから後から教えるね。まずは攻撃……? あれ?」
俺は下方を見るが、ショゴスの群れが火炎結界から遠ざかるように動いている。
〝先ほど下の火炎結界に我の力も足しておいた。不動殿と我の力が重なれば、あのような邪物に結界は突破できまい〟
カグツチ様が答える。
「あ、ありがとうございます、カグツチ様。皆、どうやら時間制限は消えたみたいだね。一旦作戦会議しようよ。シンミョウさん、まだ大丈夫?」
俺は、結界維持に頑張っているシンミョウさんの状態を聞く。
「はいぃ! カグツチ様のおかげで随分と楽になりましたぁ。これならまだまだ1時間くらいは行けますよぉ!」
さっきまで青くてしかめっ面していたシンミョウさん。
今は、いつものホンワカモードに戻っている。
これなら、いける!
「じゃあ、もう少しお願いね。じゃあ、後はアイツらを倒すだけだ! 皆考えるよ!」
「おー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、あいつらの弱点だけど、普通に燃えないし、物理攻撃は無効、雷撃も聞かないんだよね。アルカリとかの薬品は効くけど、あそこまで大量だとアレ殺すくらいの薬品使ったら俺達の方が死ぬよね」
俺達は少し休憩しながら相談中。
「うむ、少し手を考えねばのぉ。ワシらの攻撃も殆ど効かなかったのじゃ。しかしシンミョウ殿、お疲れ様なのじゃ。すまんが、もう少しお願いするのじゃ!」
「はいぃ、お姉様! 私、まだまだ絶好調ですぅ!」
チエちゃん達ロード攻撃組も一旦帰って休憩中。
シンミョウさんも、まったりお茶飲んで御菓子食べているところだ。
「Hey、You!」
フランツが俺達に不機嫌そうに話す。
〝なんで、お前らはこんなに和んでいるんだ? 私達は、ショゴス・ロードを相手にしているんだろ?〟
そう言いつつ、一緒にお茶しているフランツもイイ加減度胸あるよね。
元は敵の俺達の中に入ってくつろいでいるんだから。
「だって、もうアイツらコッチを攻撃する手段なくなったんだもの。じゃあ、慌てずに殲滅作戦練らなきゃね」
今は、カグツチ様が結界を維持中。
神霊による火炎結界相手では、ショゴス級では突破は不可能だ。
実際、ロードは俺達の方を睨みながら悔しそうな顔をしている。
「兄貴、俺まさかこんな力を借りれるなんて知らなかったよ」
タクト君はビックリ顔。
まあ、普通分からないよね、こんなスゴイお方を味方に付けていたなんて。
「タク、姉ーちゃんはオマエはスゴイと思っていたぞ。これで遠藤家も安泰だ!」
カズミさんはタクト君の背を叩きながら嬉しそうにしている。
「さて、ショゴス退治に今使えるものじゃが、ナニがあるのじゃ?」
チエちゃんはその頭脳で考えるも思いつかないらしい。
あいつら、耐性強すぎだもの。
物理攻撃無効の上に、燃えないってナンだよ!
水分が多くて燃えないのか?
移動性や粘性を考えるにスライム同様水っ気多そうだけど。
水、ん?
水分は燃えないけど、何かで反応しないか?
化学薬品だと金属ナトリウムをぶち込むか?
爆発するし、水酸化ナトリウムが発生するから溶けるけど、そんな事したらコッチが危ないし。
水、水、加熱、うん?
「チエちゃん、ショゴスって水分多いよね?」
「うむ、おそらく9割以上水じゃろうて」
チエちゃんは俺の問いに答えてくれる。
「なら、その水にマイクロウェイブ照射したらどうなるの?」
「様は、電子レンジじゃな。加熱して沸騰して水蒸気爆発で破裂じゃな……、ってそれじゃぁ!」
電子レンジは水分子をマイクロウェイブ(極超短波)で振動させて加熱させている。
生卵とかを電子レンジで加熱したら内部が沸騰、内部圧が上がって水蒸気爆発する。
この原理ならショゴスもイチコロだ。
「ただ、無指向性で放ったら俺達も死んじゃうから、メーザー級の指向性が欲しいな」
「でしたら、日天の術はどうですか? 日輪光はレーザーですけど、波長を変えればいけそうですし」
カレンさんが科学と真言を合わせた答えを言ってくれる。
この辺りが現代科学を知る術者の強みだ。
「赤外線よりも更に外側へ行けば良いのじゃが、いけるのか? ワシと朧はプラズマ形成の応用でいけそうじゃが」
チエちゃんもノリノリで食いつく。
「そうねぇ、私はなんとなく分かるから出来るかも知れないわね」
無敵超人のマユ姉ぇは、出来て不思議じゃないよね。
「ボクは良く分からないからレーザーいっぱい撃つね」
「わたし、ひかり に なれ! やるの!」
ナナやリタちゃんもノリノリ。
「リタちゃん、あの『光になれ!』って効果範囲狭いよね。連打できなきゃ難しいかな。あの術って俺の光の剣に重ねがけ出来ないの?」
「うーん、たぶんできるかな? ふつうのけん だと、けんこわれるよ?」
「それなら大丈夫かな。俺のは、剣の部分に実体は無いし」
リタちゃんの「光になれ!」って術は、文字通り物質を光子へ変換する術。
光を生み出す術の応用で、本来はごくわずか、ピコグラムレベルの物質を光速振動させる事で素粒子分解、光子へと変換するのだけれど、それをある程度広範囲にした術。
マジでどっかの勇者ロボの技と同じヤツ。
邪神であろうが、この世界の物質で構成されているなら一撃必殺の術だ。
後は、タクト君。
「タクト君、いけるよね! 俺と一緒にフォワードで攻撃に行けるかな?」
「うん、兄貴! 今ならいけそうだよ。カグツチさん、いけるよな?」
〝おう、我が友よ!〟
さあ、こっからが俺達の大反撃タイムだ!!
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