第171話 康太は冒険者になる:その20「地獄の三丁目! ショゴスまみれ」
「Attack Shoggoth!」
若い男の声と同時に、俺達の四方から数匹のショゴスが俺達を襲ってきた。
「シンミョウちゃん、不動結界行くわよ!」
「はい、お姉様!」
マユ姉ぇはシンミョウさんに声をかけて呪を歌う。
「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタ・タラタ・センダマカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバビキンナン・ウン・タラタ カンマン! 不動火界呪結界!」
2人の声は重なって呪文を形成する。
その呪は俺達の周囲に火炎で形成された結界を作る。
「Hmm!」
男は俺達の目前、建物の屋上に立ち、手に笛らしきものを持っている。
服装は白いローブを纏い、目元を隠すようなマスクをしている。
肌の色と背格好からして白人、ただどこ系かは目元が見えないので判別が難しいや。
男はマユ姉ぇ達が作った火炎結界を見て馬鹿にしたように言う。
そう普通の火炎ならショゴスは無視してつっこんでくるだろうからね。
しかし、それは甘い!
「What!!」
男は叫ぶ、火炎に強いはずのショゴスが火炎結界に阻まれて俺達を襲う事が出来ない事に驚いて。
この結界の炎は普通の炎じゃない。
不動明王のお力による如何なる邪なものからをも守る聖なる炎の結界。
ショゴス程度で突破など出来るはずもなし。
「コウタ殿、ナナ殿、あやつの笛を壊すのじゃ! おそらくアレがショゴスのコントロールキーじゃ。朧よ2人のフォロー頼むのじゃ。他の面子はワシと一緒にショゴスの殲滅じゃ!」
「おう、ナナ行くよ。支援宜しく!」
「うん、コウ兄ぃ!」
俺は、火炎結界を踏み越えて男の下へ走る。
「コウタ様、私を足場にして下さい!」
朧サンの声を聞いて、俺はサムアップをする。
そして朧さんが組んだ腕の上に跳び乗る。
「ナウマク・サンマンダ・ボダナン・バヤベイ・ソワカ! 風天疾風脚!」
俺は朧さんの斥力場と風天の助けを借りて、風を纏ったまま男が立つ屋上まで一気に飛び上がった。
「Why?」
男は不思議そうに俺を見る。
俺は英会話しようと思うが、めんどくさいので念話で話しかける。
まあ、俺も英会話や英語翻訳って得意じゃないからな。
〝なんでとは偉い言い草だな。それはコッチの台詞だ。お前、俺の家族に手を出したんだ。簡単に許しはしないぞ!〟
俺は、男を睨みつけて話す。
〝ほう、東洋のサルが念話をするとはねぇ。我ら『薔薇十字騎士団』の聖域を汚して潜入した上に愚行をするとは〟
だが男は、俺をバカにしたように話す。
〝ぶつぶつ話すのは、時間がもったいないや。さっさと倒れてくれや。白ブタクン!〟
「トリガー」引かれてイイ加減「気」が立っている俺は、男を挑発する。
〝黄色いサルがシネや!〟
挑発に簡単に乗った男は、右手に持った笛を前に向ける。
そしてそこから魔力弾が、何発も俺に向かってきた。
「What!!」
しかし、魔力弾はナナのタイル九十九神に防がれる。
そして韋駄天呪により加速し一瞬で剣の間合いに踏み込んだ俺は、まず笛を光の剣で切り上げで両断、破壊した。
つづいて踏み込みの勢いのまま、三鈷杵の剣が無い側の柄を男の腹、肝臓辺りに叩き込んだ。
「ぐぅぅ!」
そして後は高速連打!
俺は爺さんに習った奥義を手業に変えて、怒りと共に男に叩き込む。
右面に篭手付き左斜め上からのフック、体が折れ曲がったところに顎にジャンプ気味右ひざ、そして最後に雷撃付き「盾」の三鈷杵付き右フック+篭手付きムエタイ気味のヒジ打ちを顎へ叩き込んだ。
「うぅぅぅ!」
男は一瞬唸るも、そのまま前のめりに倒れ臥した。
「ょうし!!」
「お見事でした、コウタ様。後は、私のほうで対処いたします。」
そういって朧サンは倒れた男の身体を確認して、ナイフやら触媒やら指輪やら、魔法の媒体になりそうなものを全部剥ぎ取る。
そして、さっさと男をふん縛ってくれた。
「そういえば、ナナ! 大丈夫!」
俺は、ナナ達が心配になって下を見た。
「やっほー! コウ兄ぃ、カッコ良かったよ! こっちならもう殲滅しちゃったよ」
俺が見たのは、ショゴスの群れが何も残さず殲滅されていた跡だった。
地面のえぐれ具合見るに、かなりな「火力」を叩き込んだようだ。
無事なナナ達の笑顔を見て、俺の中の「トリガー」が元に戻るのを感じた。
「コウタ殿、ご苦労じゃった。コントローラーが居らねば、いかな脳を持ったショゴスと言えど、ワシらの敵にはならずじゃ!」
うん、ウチの女性たち怒らせないようにしなきゃね。
家庭内喧嘩が世界大戦クラスだもの。
◆ ◇ ◆ ◇
「こやつ、『薔薇十字騎士団』と名乗ったのじゃな。ならばテンプル騎士団や黄金の夜明け団辺りの流れを汲む魔術結社じゃな」
チエちゃんは、ふん縛った気絶中の男を前に吼える。
とりあえず、俺達はさっきの小屋に戻って休憩中。
「俺、西洋魔法には詳しくないけど、確かカバラとかユダヤ・フリーメーソン系とかクロウリーの流れの術だよね。アレ邪神系とは大分違うんだけど、どこかで混ざったのかな?」
俺は疑問に思ったことをチエちゃんに聞いた。
「ワシも想像で言うのじゃが、エノク魔術辺りの融通の利きズラさから新たな力を望んだのじゃろうて。一応、コウタ殿に撃った魔力弾は北欧系魔術のガントじゃし。そうそうあくまでも想像じゃ!」
緊張を和ませようと、ニッコリ笑いながら最後に「あくまで」ギャグを挟むチエちゃん。
しかし、どこからコイツらは入ったのやら。
もしかして剣山遺跡以外にも、この遺跡への「門」があるのだろうか?
とにかくコイツは生かしておいて背後関係やら証言取らないと。
「すいません、先輩、チエ姉さま。さっきから奥のほうからスゴイ気配と音しているんですが?」
コトミちゃんが、青い顔で俺達に話す。
俺とチエちゃんは顔を見合わせて、音の方角を見た。
「あれは!!」
「まさかショゴスの津波?!」
なぜか禿げ頭の巨漢を乗せたショゴスの津波が俺達に迫る!
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