第170話 康太は冒険者になる:その19「地獄の二丁目! 悲しみと戦い」
「ふむふむ、この辺りならポータルに大丈夫じゃな」
あれから俺達は数匹のショゴスを退治して、「門」周辺の安全を確保した。
そして「門」近くにあった小屋らしきものの中に俺達の『門』を設置した。
ちなみに遺跡と剣山を繋ぐ「門」は既に閉じている。
「もしもし、マサト殿通じるかのじゃ?」
チエちゃんはポータルユニットを操作してマスター『門』コントロールのマサトに連絡した。
「はいはい、聞こえてます。今何処ですか? 携帯回線じゃないですから遺跡内ですか?」
ユニットからマサトの声が聞こえる。
「そうじゃ。よし連絡できたのじゃ。一度開放試験をするのじゃ!」
「了解!」
マサトの確認の声と同時に俺達の『門』、えーと間違いやすいから俺達のは「ドア」と言おう。
マスターユニットとポータルが別途必要なので、純粋に「どこでも」なドアじゃないけど。
「ドア」は開き、マサトの顔が見える。
「大丈夫、皆? 戦闘あったという情報はこちらにも来ているけど?」
マサトにはポータルユニットを利用した超空間通信機からの情報が入るようにしている。
「まあ、それなりに戦ったのじゃ。遠藤家の方々のおかげで火力十分じゃから、いまのところ化学弾の出番は無いのじゃが」
「それは良いよ。皆が怪我無く戦えている方が大事だからね」
マサトは、その人の良さそうな童顔をニコリとさせる。
「ええ、そうですよね。マサト先輩」
コトミちゃんも微笑み返す。
どうやら、コトミちゃんマサトに好意を抱いている様だ。
賢い2人のカップル誕生だとしたら、これは将来が楽しみだね。
「じゃあ、ここから周囲を探索後、奥へ行くのじゃ! ある程度進んで大丈夫そうな所に第二ポータルを置いて、今回はそこから撤退じゃ」
既に剣山現場にはポータルを設置しているので、移動や撤退はこれ以降は楽。
ポータルさえ使えるのなら安全に移動可能だ。
「すいません、皆様のおかげで安全に探査が出来そうです」
金子先生が俺達に頭を下げる。
「いえいえ。さあ、私も手伝いますから、調査急ぎますよ。コウタ君、コトミ君、君達も手伝って!」
「はい!」
吉井教授の掛け声で俺達は周囲の遺跡の調査を開始した。
◆ ◇ ◆ ◇
「うーん、やっぱり建物は2つに分けられるよね」
「はい、そうですね先輩。一つは巨石文明、こっちは人間よりは大型で階段を必要としない生き物用。これが「古のもの」でしたっけ? それ用でしょうか?」
俺はコトミちゃんと相談しながら建物を調査する。
コトミちゃんが一緒だから奇襲の心配が要らないのは安心だね。
なお、金子先生の側にはナナが手伝いに行っている。
俺の横にコトミちゃんがいるのは気に入らないのか、ブツブツ文句を言っていたので、後からご機嫌取りにハグでもしてあげようかな。
「私はその生き物には詳しくないけど、変わった生き物なのかい?」
「確か半分植物の生き物と聞いています。性別は無くて胞子で増えるとか、体長が2.5mくらい。羽を持つ棘の無いサボテンって感じですね。一説によると人類を含めた地球生物の創造主という話もあるとか」
吉井教授が俺に聞くので、「古のもの」について俺が知る限りの事を答える
この、「古のもの」、生物としては陸海空何処でも活動可能、強靭な肉体と高度な科学力を持つ種族だったそうな。
しかし、長い間の邪神達との戦いの果てに退化して行き、生き残りは眠ったとか異世界へ逃げたとかだそうな。
「まさか、この遺跡内にもソイツらはまだいるのかい?」
教授は少し顔を青くする。
そりゃ異形な創造主が、まだ居るとしたら恐怖対象だよね。
「遺跡の奥深くで人口冬眠をしている個体がいるといかいう話を聞いた事はありますが、それが事実かどうかは不明です。まあ、ショゴスよりは話というか念話で意思疎通が出来るので、即時敵になるという事もないでしょうし」
そのうち、もう一方の建物を探索していたナナ達から連絡が入る。
「コウ兄ぃ、ちょっとこっちに来て。多分、へんなのみつけちゃったの」
「ああ、今から行くね」
俺達は顔を見合わせた後、ナナや金子先生が探索している方へ向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ありゃ、コイツは……」
俺達は遺骸を前に絶句していた。
ナナや金子先生が調査していた、人類が作ったと思われる建物の中、人類、骨盤の形状からおそらく女性の白骨体と、羽の生えた樽状、花の咲いていたサボテンらしきものが女性を抱くようにして枯れ果てたものを見つけたのだ。
良く見ると2人(?)の首には同じ、簡素だけど綺麗なネックレスがある。
「うむ、これは女性。それも骨年齢からして若いというか幼い少女と『古のもの』の御遺体じゃな」
ナナ達からの連絡を受けて別の場所を探索していた俺達や警戒待機していた他の全員はナナや金子先生の下へ集合した。
チエちゃんは、手を合わせてご遺体を拝んでいる。
「そうね。骨盤の具合からして未婚、出産経験も無いし骨端線も少しあるから未成年成長期の子、たぶんナナ達と同年代だったのね。かわいそうに」
マユ姉ぇも骨を丁寧に観察した後、ご遺体を拝む。
さすがは医療経験者といったところか。
なお、骨端線とは骨の端に成長期の間に存在する軟骨層の事。
そこが軟骨から硬い骨に入れ替わっている間、身長は伸びる。
男性なら18歳前、女性なら15歳くらいまでは骨端線が存在して成長する。
この御遺体が女性でそれなりに骨盤が成長しつつも骨端線が存在するなら、ナナと同じくらいだろうね。
「これはどういう事でしょうか? 私には何がなにやら」
金子先生や助手の2人は分からないという顔をしている。
「娘御のご遺体の骨の欠損具合と『古のもの』の欠損具合からして、人間との戦いにも見えぬ。おそらくショゴスによって殺されたのだろうな」
チエちゃんは渋い顔で話す。
確かに女の子には右手と右脚の骨の大半が欠損している。
骨折というより溶断されたような形状だ。
また、「古のもの」は女の子を覆うようにして息絶えていた。
これを見る限り、この「古のもの」は女の子を庇おうとして共に息絶えたように思える。
「たぶんですが、女の子を庇って、このコは戦うも一緒に亡くなったのでしょう。これを見るに『古のもの』には私達に通じる感情、愛があったのでしょうね。二人とも同じネックレスをしています。たぶん良く見知った関係なんでしょうね」
マユ姉ぇは慈しむ眼で少女の為に戦った「戦士」を見る。
「コレ見つけた時になぜか悲しくなったのはそうだったんだ。ボクと同じくらいの女の子だったんだね」
ナナは少し涙目で御遺体を見ている。
「金子先生、良かったらですが後でこの御遺体を2人とも丁重に葬ってあげたいんですけど」
マユ姉ぇは金子先生に言う。
「うん、ボクからもお願い。このコ達をサンプルとかにしないで!」
ナナも涙ながらに金子先生に願う。
俺も戦った戦士を丁重に扱う事に賛成だ。
「先生、私からもお願いします。確かに貴重な学術サンプルだとは思いますが、あまりに不憫なので」
吉井教授も金子先生に頼む。
「はいはい、皆さんからそう言われれば私には何も言えませんよ。第一、皆さんが居ないと私達は、ここにはこれなかったのですから。すいませんが写真だけは取らせてもらえますか? それ以上は何もしませんから」
金子先生は苦笑いしながら快諾する。
「ええ、ありがとうございます。良かったわね、ナナ」
「うん、お母さん。金子先生、ありがとーございます」
ナナは「ひまわり」の笑顔をしながら、腰を90度曲げて金子先生に感謝をする。
「いやー、君達乙女の涙にオジサンは弱いからねぇ」
金子先生や助手の2人も顔を赤くしながら答える。
ナナの「笑顔」もリタちゃんの「笑顔」同様撃墜王らしい。
兄としては嬉しさ半分、怖さ半分だね。
◆ ◇ ◆ ◇
御遺体の回収・埋葬準備をした俺達が建物から出た瞬間、俺は殺気を感じた。
本当なら気配感知できない遺跡内での殺気は異常だ。
ショゴスには殺気は無いのに。
「チエちゃん、マユ姉ぇ、これは?」
「うむ、囲まれたのじゃ。油断していたのじゃ!」
「ええ、かなりピンチねぇ」
チエちゃんやマユ姉ぇは冷や汗をかいている。
「どうして、アタシには何も感じなかったのに?」
「うん、ボクにも分からなかったよ」
コトミちゃんやナナの気配感知からも逃げるヤツが殺気を表す。
つまり、敵は「ここ」で俺達を殺す準備が出来たと言うことなんだろう。
「Fuck! What are you doing in our Sanctuary?」
若い男らしき声の英語での罵倒が聞こえる。
くそっていうのはこっちの台詞だよ。
俺の中で久しぶりに「トリガー」が引かれる。
こいつ、殺しはしないけどタダじゃすまさん!
「Attack Shoggoth!」
その声と同時に俺達の四方からショゴスが俺達を襲う!
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