第168話 康太は冒険者になる:その17「剣山の門へ!」
「マヤ、なんでウチに教えてくれなかったのよ!」
今は剣山へ向かう車中。
運転手さんも元気に復活、安全運転で行く。
なお、剣山はタクト君の実家からは直線距離で30km無いけどあまりに道が悪いので、一旦高速道路へ戻って徳島道経由で向かうので2時間はかかる。
なにせタクト君の家から高速を使わずに行くのなら、国道いや酷道(国道を名乗りながら通行が困難で「酷」な道)マニアに大人気、四国最怖最悪、全国酷道ランキング第1位の国道439号線を使う必要があるからだ。
車幅が2.5m以下、ガードレール無し、見通しの効かないカーブ、舗装が剥がれた悪路、コケ、落ち葉、崩れやすい崖と危険要素満載。
台風とか来ると必ず災害発生して通行止めになる。
こんな道を、マイクロバスでは行きたくないよね。
なお、なんで俺がこんなに酷道に詳しいかと言うと学部時代の友人に酷道マニアが居て、色んな「酷い」話を聞かされたから。
因みに酷な道の県道バージョンもあって「険道(県道だけど危「険」な道」なんだって。
「だって、お姉ちゃんが知ったら怒るんだもん」
マヤちゃんは横に座っているカズミさんに話す。
「にしても不死鳥ってすっごい精霊と契約したんだ。ウチの火蜥蜴とは明らかに格違いね」
不死鳥、またはフェニックスと呼ばれる精霊。
東洋では鳳凰と同一視されているもので、西洋ではソロモン72柱の悪魔の一柱にも分類されている。
ん、そういえば俺達の行く剣山遺跡もソロモン王がらみだね。
不死鳥とも呼ばれるギリシアの民間伝承由来の鳥であり、火炎を食べるとも火炎で身を洗う、500年に一度己の身を焼いて新たな身体として復活するとも言われている。
手塚大先生の「火の鳥」もコレ。
幻獣の名を持つGダムUCシリーズの3号機の名前にも使われている。
後から調べたところ、原典はエジプト神話の聖鳥ベヌウだそうな。
「うん、私も後から知ってびっくりしたの」
マヤちゃんは、おっかなびっくりとした顔で姉に話す。
「大丈夫、だって俺守護精霊居なくて火炎術使っているんだから」
タクト君は励ましになっているのか分からない励まし方をする。
「タク、お前絶対何かすっごいのと縁が結ばれているぞ。ウチなんかと絶対違う気がする。もうウチは個人同士の強さには拘らない。ウチが何処まで上がれるか、行ってみたいんだ」
タクト君に「負けた」のとチエちゃんの圧倒的パワーを見たカズミさん。
競い合うのがバカらしくなったようで、自分が何処まで伸びるのかを目指すようにしたんだそうな。
どっかの野菜王子の心境かな。
因みに、俺はマユ姉ぇが身近に居たから、競う気なんか最初から無いや。
「そうかなぁ。俺分からないや」
タクト君、俺から見て「そこそこ」以上の魔力を持っている。
姉妹の2人と比べても、そう劣るものじゃない。
となると、いまだに守護精霊が現れないのは余程の「大物」なのかもしれないね。
「さて、皆さんもう少しで現場に到着します。装備については『御山』から送ってくるので、ちゃんとしてね。カズミちゃん達の分もあるから安心してね」
「はい、叔母様。宜しくお願いします」
マユ姉ぇに対してはカズミさんも大人しい。
まあ、叔母様呼びは危険だけど、悪意感じ無いから大丈夫だよね。
「ええ、宜しくね。2人はタクト君やウチの娘達と同じ後方支援組ね。シンミョウちゃんが後方組のリーダーだから彼女の話を良く聞いてね」
「すいません、私なんかが後ろのリーダーなんてぇ。出来る限り皆さんをお守りしますから、宜しくお願い致しますぅ」
シンミョウさんは少し自信無さそうに話す。
「シンミョウ、貴方ずいぶんと強くなったんだから、自信持って。私達は貴方がいるから安心して戦えるんだから」
「うん、シンミョウお姉さんが居るから、ボクも全開で動けるもん」
「しんみょうおねえちゃん、いつも わたしを まもってくれて ありがとう!」
後方組+相棒のカレンさんに励まされるシンミョウさん。
「今度はアタシも後方組だからお願いね、シンミョウちゃん」
コトミちゃんもシンミョウさんを励ます。
そういえば、コトミちゃんはカズミさんと同い年なんだ。
「はい、頑張りますぅ!」
これで後方組は安泰だね。
なお、組み分けは以上。
前衛:
マユ姉ぇ、吉井教授、俺、カレンさん、チエちゃん、朧サン
後衛:
シンミョウさん、コトミちゃん、カズミさん、タクト君、ナナ、リタちゃん、マヤちゃん
総勢13名の大所帯。
でも「火力的」にはショゴスくらいは敵でもなんでもない。
いるであろう「古のもの」の作りし怪物や最悪邪神配下との戦闘も考えられる。
戦いを避けられるのなら避けたいけど、やるときはやらないとね。
「そうそう最初に説明しておきます。想定される敵はショゴス。皆さんにお配りしたパンフに特徴は書いています。あんまり凝視すると精神を蝕まわれるから注意してね」
マユ姉ぇからブリーフィングが行われる。
相対する敵が分かっているなら、先に打ち合わせして無傷で殲滅するに限る。
「基本攻撃として、マサト殿開発の粘着弾を打ち込んだ後、冷凍攻撃若しくは化学弾の攻撃じゃ! タクト殿達の火炎じゃが、燃焼は効き辛い上に打撃もあまり効かんから攻撃方法は考えるのじゃ!」
チエちゃんが実際の攻撃に付いて説明する。
「質問、チエさん! ウチの攻撃じゃと『火炎の槍』とかは打撃としては効果ありそうなの?」
カズミさんがチエちゃんに聞く。
「そうじゃな。あの感じだとそこまで悪くは無いのじゃがのぉ。すまんがカズミ殿達はショゴス相手は手持ちのランチャーでお願いじゃ。他の相手が出たときに存分に焼き尽くすのじゃ!」
チエちゃんは、すまなそうにカズミさんに話す。
「他に雷撃にも耐性があるから、雷撃系呪文は無しじゃ。レーザー系は効くからナナ殿はそっちで頼むのじゃ。リタ殿は、火炎、雷撃以外は何でも撃つのじゃ!」
その後も皆で打ち合わせは続く。
そしてひと段落着いて、もうじき剣山へ到着する時、運転手さんが話す。
「お嬢さん方、皆さんは私なんかが想像も絶する戦いに行かれるんですね。でもね、まだまだお若い皆さんだから、是非とも無事に帰ってきてくださいね。私は、また皆さんを乗せて四国内を観光するのを楽しみにしていますよ」
「はい!!!」
ああ、良い人だよね、運ちゃん。
絶対、皆を守って無事に帰り着くぞー!
◆ ◇ ◆ ◇
剣山遺跡には、金子先生が待っていた。
「皆さん、遠い中お越し頂きありがとうございます。ご無理を申してすいませんでした」
先生は、俺達に頭を下げる。
「先生、もう謝るのは無しです。感謝の言葉だけで良いですよ」
吉井教授は、柔らかい笑顔で金子先生に話しかける。
「はい、そうですね。皆さん、宜しくお願い致します!」
「ええ、任せてくださいね。先生、今回誰が私達に同行しますか?」
探検チームリーダーのマユ姉ぇが金子先生に話を聞く。
「はい、私と助手の楠木、種田の3人が行きます」
金子先生の隣にいる青年、2人が会釈してくれる。
小柄な方が楠木さん、長身なのが種田さんだそう。
「では、先生たちは基本的に後方組へ同行して下さいませ。うかつに列から離れないようにお願い致します」
さあ、いよいよ「門」とのご対面。
冒険の始まりだ!
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