第165話 康太は冒険者になる:その14「姉弟ケンカにしては派手じゃない?」
「タクト、準備はイイな! ウチはいつでもOKじゃ」
場所は、マイクロバスを止めている元小学校の校庭。
この学校は今から15年程前に廃校になったそうで、今は学校行事による宿泊とかのみに使っているそうだ。
タクト君の家から徒歩数分の、このグラウンドが姉弟ケンカの場所だ。
「マヤちゃん、そういえばこの学校はもう使ってないみたいだから、マヤちゃんは別の学校に通っているの?」
俺は、ハラハラしているマヤちゃんに落ち着いてもらおうと聞いてみる。
「はい、私はIC近くにある小中合同校舎にバス通学しています。お姉ちゃんやお兄ちゃんもそっちに通っていました。お母さんは、この学校だったそうです」
山間部の過疎化には敵わないのね。
そうこうしている間に勝負は始まる。
「おう、姉ちゃん! もう俺は逃げたりしないぞ!」
少しへっぴり腰ながらも、姉をしっかり見ているタクト君。
「じゃあ、早速行くぞ! 行け、炎の槍!」
カズミさんは横に従えた全長1m程の火蜥蜴に命じて、長さ50cmくらいの炎の槍をタクト君目掛けて打ち出す。
姉弟ケンカでやって良い攻撃じゃないよ、コレって。
「こんなの、避けるまでもねー!」
タクト君は目の前に迫る槍を睨みつけ、両手を大きく広げる。
そうすると、炎で出来た槍はボワっと輪郭を無くしてバラけた。
「お! いつのまに消炎術なんて覚えたんだよ。小憎らしいヤツだ。じゃあ、次はこれだ! 火炎雨!」
カズミさんは、火蜥蜴に命じて直径1m程の火炎弾を空中へ撃たせる。
その火炎弾はタクト君の頭上で炸裂し、タクト君へ「炎の雨」が降り注ぐ。
「姉ちゃん、甘めーぞ! いつから術者は『立ちんぼ』で良いんだよ!」
そうタクト君は叫ぶと、両手を後ろに向ける。
そして術を使う。
「爆裂!!」
タクト君の両手掌から爆発的な火炎、いや爆轟が発生する。
因みに、「爆轟」とは燃焼による熱膨張が音速を超え、衝撃波が発生する爆発の事。
その爆風、衝撃波によってタクト君はあっという間に「火炎雨」の効果範囲から飛び出す。
そしてその勢いのまま、カズミさんへ向かう。
これがタクト君流の「縮地」法か。
俺やアヤメさん、マユ姉ぇ等の戦いを身近に見てきたタクト君が学んできたものを形にした瞬間だ。
そして着地した脚からも爆轟を発生させて、20m近く離れていたカズミさんとの間合いを一瞬で詰めるタクト君。
「え! え?」
思っても見なかったタクト君の動きに、びっくりしたカズミさん。
慌てて逃げる事や防御を思いつかない。
「あ、あ、火炎球!」
苦し紛れに火蜥蜴から直径50cm程の火炎球を撃たせるカズミさん。
しかし、タクト君は躊躇無く火炎球に左手を向ける。
「ジャマだ!」
タクト君が左手を薙ぐと、そこから発生した爆轟が火炎球をあらぬ方向へ吹き飛ばす。
そして接近戦の間合いに踏み込むと、右手を火蜥蜴へと抜き手をする。
「しばらく消えてな!」
すこし優しくタクト君が言うと、火蜥蜴は消える。
そして何の武器も無くなったカズミさんは、尻もちを付いて動けない。
「姉ちゃん!!」
そう叫ぶタクト君の声を聞いて、恐怖から思わず眼を瞑るカズミさん。
しかし、次の攻撃は来なかった。
うん、来るはず無いよね、今のタクト君なら。
「あ、え?」
そう弱弱しい声を出して眼を開いたカズミさんの目前には、笑って右手を指し出しているタクト君。
「俺、すごくなったろ? もう姉ちゃんとイイ勝負できるぜ!」
そう言って、座り込んだカズミさんの手を取り、引き上げるタクト君。
うん、カッコイイぜ!
「あ、あ、う、うわーーん!」
いきなり大声で泣き出すカズミさん。
「あらあら、お姉ちゃんったら。負けたから泣いちゃったのね」
姉弟ケンカなのに、にっこり顔で観戦モードだったお母様。
このお母様、怖くない?
因みにタクト君が弾いた火炎球、俺達の方に飛んできたから怖かったよ。
まあ、お母様が、
「あらあら」
とか言いながら片手で握りつぶしていたけど。
やっぱり、ここもお母様が最強なんだ。
お父様は、肝潰しながらハラハラで観戦していたし。
「お姉ちゃん、怪我していない? タク兄ぃ、お姉ちゃん、一応女の子なんだから手加減しないと!」
2人の姉兄の元に走り寄るマヤちゃん。
「おい、マヤ。俺攻撃は一発もしてないだろ。姉ちゃんの攻撃を捌いて踏み込んだだけじゃねーか。俺の方を心配して欲しいよ。あちこち火傷しているんだから。イチチ」
後から聞いたのだと、火精霊と契約できたら家系に元々ある対火耐性が更に強化されるんだそうだけど、自力だけのタクト君には生まれつきの対火耐性しかないから、あんまり炎使うと火傷するんだそうな。
「あーん、あーん! タクトが、なまいきだぁ!」
泣きながらタクト君に文句を言うカズミさん。
余程、今まで見下していた弟に負けたのが悔しいらしい。
「カズちゃん、今回は貴方の負けよ。いつも言っているわよね。相手を見下しちゃダメだって。貴方、なまじ優れているから、つい相手を弱く見ちゃうのよ」
お母様は、3人の子供たちの下へ歩み寄り、泣いている娘を慰め叱る。
「だって、だって、タクトだよ。あの こんじょうなし のタクだよ!」
まだ納得出来ないカズミさん、泣きながら文句を言う。
余程、昔の印象が強かったらしいね。
「あのね、『男子、三日会わざれば活目せよ』って言うの知らない? 男の子ってしばらく見ない間に急に成長する事があるの。タっくんの場合、良い師匠達に鍛えられたのね。私達では、思いもしない術を身に着けて強くなったわ」
この慣用句、元は三国志時代、孫権の支配する呉の武将、武力を誇っていた呂蒙が自分の学の無さを恥じて、猛勉強して見事な教養を身に着け、他の武将達から賞賛された事からだそうな。
自分の発火能力を自慢していたタクト君、俺達に天狗の鼻を折られてから、自分の至らなさを実感して修行し、とうとう燃焼現象の最上位、爆轟まで操る事に成功した。
これはスゴイ事だね。
「でも俺、そこまで強くないよ。だって、あそこのメンツ、俺なんか片手で倒されちゃうんだもん」
そう俺達の方を見て笑うタクト君。
ああ、これが、指導してきた子達の成長が、指導者冥利につきるんだ。
少し教授の気持ちが分かった気がするよ。
「おい、オマエら。本当にコイツよりも強いのかよ?」
ようやく泣き止むも、まだ納得出来ないカズミさん。
俺達を睨みつけながら叫ぶ。
まあ、俺や教授を除けば、カワイイ女の子(1人お姉さん)達だものね。
「じゃ、ここはカワイイ幼女のワシの出番じゃな。」
ああ、一番出たらマズい子が出たよ。
そう言ってチエちゃんが前に出る。
「オマエら、ウチをバカにしてるのかよ! なんでチビッコが出て来るんだよ!」
カズミさん、火蜥蜴を再び召喚してチエちゃんや俺達に敵意を向ける。
そしてお母様やタクト君達から数歩、俺達の方へ歩んできた。
「さて、愚か者は、空へどっかーんじゃ!」
しかし、チエちゃんがそう言うと、カズミさんの足元が爆発して吹っ飛ぶ。
「え!! きゃぁぁぁぁぁ!」
そして打ち上げられて、空高く宙を舞うカズミさん。
あれ、数百メートルは上空だね。
「あー、やってしまったよ」
「うん、コウ兄ぃ。チエ姉ぇ、ぷんぷんだね」
「あれ、わたしの じゅつ だよ」
思わず愚痴る俺と妹達。
「チエちゃん、カズミちゃんをちゃんと受け止めるのよ」
嬉しそうに言うマユ姉ぇ。
「あら、空中散歩なのね。羨ましいわ」
同じく嬉しそうなお母様。
「あ、あ!」
娘の危機で、もう気絶しそうなお父様。
うん、俺もうネタで満腹だよ。
ホント、勘弁してよぉ!
タクト君とお姉さんの喧嘩した学校跡は実在します。
さて、ドコでしょう。
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