第162話 康太は冒険者になる:その11「四国へ出発!2」
「ここからなら、橋が良く見えるね」
晴天の中、島の中を伸びる鉄橋。
日本の建設技術の粋を結集した建築物。
確か日本の20世紀遺産に入ってったっけ?
あ、アンパンマン列車が走っているの、見えたよ。
「あ、ここだぁ! リタちゃん来て!」
「ここ、ぎんちゃん の はかまいり の ばしょ!」
「その横に自販機があるんじゃな」
「あー、やっと見れましたぁ。ああ、3人の勇姿尊いですぅ」
3人妹達に加えて、シンミョウさんが興奮状態。
皆、公園にある木製ドームと、そこの横にある自販機に群がっている。
自販機は、全面が青ベースのアニメ絵でのラッピング加工をされている。
妙にピカピカで、そこいらの自販機とは雰囲気が全く違う。
裏面には大橋と少女3人の絵が全面に書かれている。
「皆、これ見たかったの?」
「うん」
まあ、皆喜んでいるのなら良いかな。
後から、詳しい話を聞いたけど、自販機に書かれたアニメ作品、四国は香川県を舞台にしたもの。
今から300年後、四国以外は地球全てが神により灼熱の火炎の海に沈んでいるという、すさまじい話。
その中で人類最後の砦、唯一残る四国を守るべく、四国を結界で守る神に見初められた少女達が日常を大事にするために戦うという物語。
その作中、この場所で戦闘が行われ、一人の少女が命を落としたんだそうな。
その後、舞台は2年後の観音寺市に移り、そこで人類を滅ぼそうとする神との最終決戦が行われる。
その決戦場所も、この場所だとか。
魔法少女であり、日常系でもあるんだそうな。
「これで、残る自販機は4台。後は観音寺市内だから、帰りに寄ろうね」
「うん、おねえちゃん」
「はい、私も同行しますです」
ナナ、リタちゃん、シンミョウさんが妙なチームワークをしている。
戦闘前に息を合わせるのはイイ事だけどね。
「マユお姉様、シンミョウが変でごめんなさい。まさか、あそこまでオタク度が進行しているなんて」
カレンさんがマユ姉ぇに謝っている。
「いいのよ、カレンちゃん。言いだしっぺはウチの娘だし、今回は危ないのを無理やり2人にお願いしているんだから」
マユ姉ぇもカレンさんに謝る。
確かに危険度MAXのところにムリに2人を呼び出した形になるのだから。
「それはかまいませんよ、お姉様。修行になることですし、お姉様達に何かあれば私も困ります。だから、存分にあてにしてくださいね」
「ありがとうね、カレンちゃん」
マユ姉ぇは思わずカレンさんにハグする。
「あわわ、お姉さまぁ」
嬉しそうになりながら混乱しているカレンさん。
良かったね。
「丸亀城やゴールドタワーはどうするのじゃ? あそこも聖地じゃろ?」
チエちゃんが別の場所を言う。
丸亀城は、日本12現存天守閣のひとつ。
確か石垣がものすごく高いって話。
ちなみに四国には、お城が沢山残っている。
第二次大戦中も四国の各都市は空襲を受けていたものの、城はなんとか守られた。
現存12天守閣にも、他に四国の松山、宇和島、高知城が含まれている。
他にも城郭は無くなっているものの、多くの城跡が四国内にはある。
戦国時代、長宗我部氏と地元武将、そして織田・豊臣氏との戦乱の渦に巻き込まれた地。
四国は、人口の割に戦乱が多くて大変だったみたい。
やはり、関東よりは京の都に近いからだろうか?
時代をさかのぼると平安時代、源平の合戦もこの瀬戸内海で幾度も行われたし。
後、ゴールドタワーとか言うのは、俺は知らないぞ。
「あ、そうか。多分、次に映像化されるしね。うーん、あそこも帰りでどう? あんまり行きで寄り道すると待っている人に怒られそうだし。お母さん、もう行かなきゃダメだよね」
ナナはマユ姉ぇにすまなそうに聞いた。
「そうね、ここから愛媛に入って、更に山中に入るからもう出ないとね。帰りは時間に余裕があるから、ゆっくり寄りましょうね」
「はーい!」
そして、皆は舟人ならぬ、車窓の旅人となる。
目指すは、四国山中、タクト君の実家だ。
◆ ◇ ◆ ◇
「あ、あそこの島も出てたよ」
「にぼっしい!」
「ふむ、ここの海域ではカタクチイワシが沢山取れるんじゃな?」
今、車は香川から愛媛へ入る直前。
瀬戸内海に浮かぶ大きな島について3人娘が話している。
「おじょうさん方、よくご存知ですね。ここのイリコは良い出汁が出るからね。この辺りのうどん出汁は大抵イリコだね。生姜大目で食べると美味しいよ」
運転手さんが教えてくれた。
そういえば、このあたりから丸亀市、讃岐富士という山の辺りは「さぬきうどん」の大本山。
ここのを食べてしまうと、他所で食べられないとも言うんだとか。
帰りに食べに行こうか。
「マユ姉ぇ、帰りにこの辺りの有名うどん店で食べない?」
「ええ、いいわね。ナナ達も良いでしょ?」
「うん、うどんは正義!」
「うどん は、じょしりょく あげる!」
ん?
また、謎の言葉を聞いた気がするけど。
そうそう香川県民は、うどん食べすぎで糖尿病患者が多いんだとか。
なんでも過ぎるのはダメだよね。
そして車は愛媛県内に入る。
海側をちらっと見ると、大きな煙突が沢山見える。
「ここは、日本一の紙生産の街だね。あの煙突は製紙工場のものだよ」
運転手さんが俺の疑問に答えてくれる。
へえ、こんなところに紙生産拠点があったんだ。
「実は、俺の実家も厳密に言うなら、この市内なんだよ」
タクト君が話す。
「まあ、県境の山中だから、まだ遠いけどね」
ふーん、そうなんだ。
そして車は松山道から高知方面へとジャンクションを越える。
「ここは四国の交通の要所、全部の高速道がここで交わっているんだ。後、戦国時代には要所を確保するのに沢山の戦いがあったんだって」
地元の事だからか、タクト君が詳しく説明してくれる。
「あら、タクト君凄いわ。私、見直したかも」
「え、姉御? 俺の事、どこまでバカだと思っていたの?」
まあ、微笑ましい会話ですこと。
そして車は高速を降りる。
IC周辺は「道の駅」はあるものの、深い山の中で木々しか見えない。
「うわぁ、こんな山の中来たの、ボク初めてだよ」
「うん、すっごいね。おっきな き、いっぱいだね」
「御山の辺りも田舎ですが、更にすごいですね」
皆口々に言うのを聞いて、タクト君。
「そりゃ、ど田舎中の田舎だよ。ICだって当時村であるのはココだけってウリだったんだから。けど、ここはお茶が美味しいぞ!」
「そうですね、霧が濃いから良いお茶が取れると、私も聞いています」
地元を馬鹿にされたと思ったタクト君、いくら逃げて出て行ったとしても地元は大事だよね。
運転手さんもフォローしてくれた。
「後、ここからなら20分くらいで着くぞ。大丈夫、道はきちんとしているから」
確かに綺麗に道は整備されているね。
この場所だと道が寸断されたら命取り。
だから頑張っているんだね。
思ったよりも広い道をどんどん通って、高知・徳島県境に近い場所にある学校らしき所に車は止まった。
そこには、2人の少女が待ちうけていた。
「オイ、お前オメオメと帰ってきやがって。恥かしくないのかよ!」
身長150cmも無い小柄でおかっぱ童顔、あまりお胸が「無い」少女がタクト君を見て悪態をつく。
この子が妹さん?
聞いてた話とは、あまりにもイメージ違うんだけど。
「お姉ちゃん、タク兄ぃの事酷く言わないでよ。せっかく帰ってきてくれたんだから」
身長160cm程あって胸もそこそこある、短いポニーテールの少女が、小さいほうの少女を両腕で抱えて抑えている。
ん?
今、なんて言った?
この子、「お姉ちゃん」って言ったよね、まさかまさか?!
「姉ちゃん、マヤ。ごめん。俺逃げちゃってダメ人間だったよ!」
タクト君は、2人の少女に向かって土下座で謝る。
「今更、謝って許される問題かよぉ!」
小さな方の少女は、大きな少女を振り払って、懐から何故かスリッパを取り出してタクト君をどつく。
スパーン!
実に良い音が聞こえる。
「姉ちゃん、痛いよぉ!」
タクト君は、小さな少女に殴られた頭を抱え、涙を浮かべて謝っている。
そう、姉と言いながら小さな方の少女に。
「えー!!!」
運転手さん以外の全員が思わず叫ぶ。
「ワレらがタクトのツレか。迷惑かけたのぉ。ウチがタクトの姉、遠藤和美じゃ!」
小さな少女、いやタクトの姉が俺達に頭を下げた。
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