第160話 康太は冒険者になる:その9「古代遺跡への道!2」
「そうじゃ、本当の『どこでも……』じゃああ!」
チエちゃんは、鉄板の青ダヌキ旧CVネタで笑いを誘う。
「チエ姉さん、そのネタと悪魔じゃネタ好きよねぇ」
もう鉄板すぎて呆れ顔を隠す事もしないルナちゃん。
「いいじゃろ! 偉大なるマンネリというのもあるのじゃ!」
「はいはい、分かりました。学校の方は私が対応しておくから、存分にバケモノ退治してきたら良いよ。でもね、皆言っているけど無事に帰ってきてね」
今では、妹にも思えるルナちゃんからそう言ってもらえるのは嬉しい事だ。
「で、その『どこでも……』ってアノ『どこでも』?」
俺はチエちゃんに聞いた。
「そうじゃ。せっかく沢山の次元石が手に入ったのじゃ、実験せんでどうするのじゃ! 将来はリタ殿の星まで飛ぶのを作るのじゃが、まず第一歩は日本国内移動じゃ。これでこの家と現場近くを繋ぐ事が出来たら、放課後に遺跡攻略とかも可能じゃ。最悪、緊急離脱場所に家の『門』を指定しておれば、安全に非難できるのじゃ! 移動ポータルも作れれば、遺跡内からの避難、再出発も可能じゃ!」
チエちゃんは、リタちゃんが移動してきた星間移動も可能なゲートと同様の物を作ろうとしていた。
それの前段階として、今回の遺跡探索用のゲートを作るんだ。
「それがあれば、移動の疲労も無いし、物資の運搬も楽だね。後、旅費も削減できる?」
「えー、せっかく瀬戸大橋とか見えると思ったのに、チエ姉ぇだけ電車とかで移動して、ボク達は『どこでも』移動なの?」
ナナが愚痴る。
そりゃ俺でも文句言うよね、旅行の醍醐味は途中の風景見るのも含まれるし。
「まあ、そこは大丈夫じゃ。『お国』も片道分くらいは交通費出すよのぉ。そうじゃろ、カネコ殿?」
いきなり話を振られてびっくりする金子先生。
「はい! ええ、そこは大丈夫です。というか、今のお話ですと皆さん参加してくださる様に聞こえますが」
「母様、良いじゃろ? 少なくとも『門』を破壊するなりせんと、この国がショゴスに襲われるのじゃ! あのような醜悪なバケモノに、ワシの家族と仲間が住む綺麗な国を侵されるのは我慢ならんのじゃ!」
チエちゃんが俺達の為に憤怒してくれるのは非常に嬉しいよ。
本来であれば、なんのゆかりも無い、というか生物としても全く違う俺達の心配をしてくれる魔神将。
こんな存在、どこにもいないや。
「まあ、そういう事ね。という事で、金子先生。話をお受け致します。その代わり、もう隠し事や嘘は無し、全部語ってください。そうすれば、私達は期待を裏切らず、必ず目的を果たしますわ」
マユ姉ぇは金子先生を見据えて話す。
その目は金子先生の心の中まで見通すようだ。
「はい、絶対に貴方達を裏切るような事は決してしません。宜しくお願い致します」
金子先生は、椅子から離れてカーペットに直接座って土下座した。
「あらあら、そこまで謝らなくても良いんですよ。お困りの上に何処まで話したら良かったのか分からなかったんですよね。普通は、化け物の話なんて信じてもらえないでしょうから」
マユ姉ぇは、金子先生のところまで腰を下げて、先生の背をさすった。
「はい、そうだったんですぅ。ありがとう、ありがとう。もう私、犠牲者を出したくないんですぅ」
号泣しちゃう金子先生。
自分の仕事で死者を出したのは、罪悪感がキツイよね。
でもそうやって苦しむのなら、信用できるかな。
ヒトをコマとは思わないんだから。
まあ、戦場ではヒトをコマ扱いしなくちゃならない時もあるんだけど。
「真由子君、すまない。本当は僕の研究室の問題なのに君達を巻き込んでしまって」
吉井教授はマユ姉ぇに謝る。
「先生、それはしょうがないですわ。元々コウちゃんや私を狙ってのご指名ですもの。文句は後から『お国』に言って、沢山予算やら成功報酬貰いましょう。あ、そうだ! カレンちゃん達も助っ人で呼びたいわ」
そうだね、最初からこの話は俺やマユ姉ぇ、チエちゃん狙い。
明らかに「国」は俺達を良く知り、実力を見込んで依頼してきている。
そりゃ、この間「神剣」使っちゃったからねぇ。
なら、出来たら国から直接依頼してきて欲しいのにね。
それとカレンさん達を巻き込むのは心苦しいけど、戦力としては申し分ないね。
「ねえ、先輩。アタシはもちろん行くわよ。じゃないと、奇襲喰らって全滅なんて後から聞くのイヤですもの」
コトミちゃんは俺に自分も遺跡に行く事を宣言する。
「でも、コトミちゃん。自分の身をどうやって守るの?」
俺は、コトミちゃんの安全が気になって聞く。
「それは乙女のヒミツですぅ、と言いたいですけど、特別にお教えしますね。アタシ、ナナちゃんに教わって、九十九神さんと契約したんです」
いつもの人差し指を立てて唇に当てる「ナイショ」ポーズをしながら、おどけてみせるコトミちゃん。
そして手から飛ばしたのは、ナナとは色違いの赤いタイル。
ちなみにナナのは水色のタイル。
「これなら攻防一体ですし、ナナちゃんに直接教えてもらえますから。そうそう、私もうシールドブレイクとか出来ますから、ご安心を」
知らぬ間にパワーアップしているコトミちゃん。
こりゃ俺も「うかうか」出来ないや。
「なら良いかな。自分の身を一番に守るんだよ。嫁入り前の乙女なんだから」
「あら、先輩。アタシの事乙女って言ってくれるんだ。じゃあ、恋人でもないのに水着姿のアタシをハグしたのはノーカンにしておきますね」
「え、コウ兄ぃ! それボク聞いていないよぉ!」
「こうにいちゃん、おねえちゃん と わたしのものなのぉ!」
ああー、またややこしくなったよぉ!
「コトミちゃん、遊んでいないで説明してよぉ!」
俺は笑っているコトミちゃんに文句垂れる。
「えーっと、キミ達はいつもこんな感じなのかい?」
金子先生は、俺達のバカ騒ぎを見て困惑する。
そりゃ、歴戦の勇者と言われる人が女の子達とじゃれあっているのを見ると不安になるよね。
「大丈夫じゃ! コウタ殿にしろ他の仲間にしろ、こう見えて邪神退治をしたツワモノ共じゃ。そして幼女なワシもタダモノでは無いのじゃぁ!」
と、調子に乗って悪魔形態に変身するチエちゃん。
「えー!」
「ひゃー!」
「おおお!」
ん?
金子先生がびっくりするのは分かるけど、他にもびっくりしている人がいるね。
あ、そうか。
吉井教授、豊原医師、中村警視がチエちゃんの「正体」を始めて見るんだ!
マサトや寺尾室長とかは自己紹介時などに見ているから、問題ないけど。
マユ姉ぇと付き合いが長くてバケモノに慣れているし、チエちゃんの正体を知っている吉井教授は、パチパチと手を叩いて喜んでいる。
豊原医師も話は聞いているから、拝みながらじっくりとチエちゃんの肢体を眺めている。
寺尾室長はアヤメさんから十分話を聞いているし、既に一回見ているから、豊原医師同様に拝んでいる組。
中村警視だけ、コシ抜かしてびっくりしている。
そこに急に空間転移して現れる「朧」サン。
「中村様、その節は目前で決闘などしてしまい、申し訳ありませんでした」
中村警視に丁寧に謝る朧さん。
「へ、決闘?」
「はい、この姿でしたね」
そう言って久しぶりに上位悪魔姿になる朧サン。
「あー、真由子君と戦った!」
「はい、ですからその節は申し訳ありませんでした」
黒執事姿に戻って華麗に謝る朧サン。
「は、は、はい」
腰抜かし状態で情けなく答える中村警視。
まー、アレはしょうがないね。
「一体、キミ達はどういう仲間なんだ!?」
金子先生は再び問う。
そして俺は答える!
「先生。ですから、さっき言いましたよね。俺達は、『通りすがりの、お人好しなお節介焼き』なんですよ!」
◆ ◇ ◆ ◇
その後続いたドタバタ状態が落ち着く頃、マユ姉ぇが俺に言った。
「ねえ、コウちゃん。私達、絶対何があっても生きて帰るわよ。これだけ沢山の人がそれを望んでいるんだから」
「ああ、絶対だね!」
完全無傷で遺跡攻略だ!
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