第159話 康太は冒険者になる:その8「古代遺跡への道!1」
「では、調査隊への参加に同意して頂けるのでしょうか?」
金子先生は、俺達を見回して訪ねる。
「マユ、僕はどうとも言えないから君に任せるね。ただ、参加条件として絶対なのは、皆無事に帰還する事。これが守れないのなら参加への許可は出せないよ」
正明さんは、マユ姉ぇの顔をじっと見て話す。
「ええ、それは何があっても絶対よね。他の皆さんはどうなの? 最近ご無沙汰でした豊原先生とかは?」
マユ姉ぇは、なぜか豊原医師に話を振った。
「え、僕ですか? どう聞いても、ただの医者の僕が口出しできる話じゃないですか。最近の皆さんの活躍は僕の想像以上ですもの。それに治癒呪文とか使えるんじゃ、僕の出番無しじゃないですか。とりあえず、サポートとして凶荒状態の患者についてはウチの精神科を斡旋するくらいは出来ますよ。それ以外の怪我人の持ち込みは勘弁ね。だから全員無事に帰ってくる事。それが僕の条件」
「ありがとうね、先生。またリタちゃん遊びに行かせるから」
「うん、せんせい、またいくね」
「はぁい、姫様ぁ!」
「ひめさまじゃないもん、りたちゃん だもん」
「はい、リタちゃん」
ロリ医師の病気は治っていない様ね。
まあ、実害ないし、リタちゃんも喜んで遊びに行っているから良いか。
「公安の方はどうですか? 室長さん?」
「はい、アル事件解決後はウチ担当の案件は起きていないので、協力は出来るかと思います。『上』からも協力依頼は来ていますし。それに四国だと、良い道案内人がウチには居ますから」
寺尾室長は禿げ頭から湯気出しながら話す。
「道案内人というと誰の事ですか?」
俺は室長に聞いた。
「俺の事だよ、兄貴」
タクト君が俺に話しかけてくる。
「話していたよな、俺は『里』から逃げてきたって。その里が四国、それも剣山からそう遠くない場所なんだ」
そういえば言ってたね、タクト君は炎のコントロールが上手くいかないから、里から逃げるようにして出てきたって。
「以前までの腐っていた俺なら、逃げてきた場所に帰るような事は出来なかったんだ。でも俺は、姉御、兄貴、姉さん、お母様達に心身ともに鍛えてもらって、以前とは違ったと思うんだ。だから、ここは兄貴への恩返しに四国への案内をしたいんだ」
最初、敵として会った頃のタクト君は荒んで濁った眼をしていた。
その後、俺と戦い、そしてマユ姉ぇやチエちゃん達に鍛え上げてもらってから、どんどん見違えるように変わって来た。
まだ、頼りないところはあるけど、今では信用できる仲間だ。
「ああ、そう言ってもらえたら俺も嬉しいよ」
俺は手を出して、タクト君とがっちり握手をした。
実は俺と戦ったとき、タクト君は司法取引後、やっと表に出してもらえた状態で、アヤメさん達も扱いに困っていたんだとか。
素人相手に粋がって負け知らず、それが劣等感で歪んでいた認識を悪い方へどんどん持っていこうとしていたんだそうな。
アヤメさんは、折檻もどきの指導でなんとかしようとしていたけど、どうもその頃からタクト君はアヤメさんに惚れていたらしく、良い格好見せたいのと反抗したい気持ちの板ばさみで、悪ぶっていたんだって。
そんな時、俺にコテンパンにやられるは、チエちゃんに命救われるわ、マユ姉ぇに殺されそうになるわ。(笑)
で、すっかり天狗の鼻へし折られた上に優しくしてもらえたのが良かったとの事。
今では真面目に修行に取り組み、妹達からも評判良くなったし、誰からも弟分として可愛がられている。
こうやって1人の若者の人生を救えたのは良かったよ。
「じゃあ私も、もちろんお目付けとして行かないとね。お電話では話しているけど、ご両親には挨拶しないと」
「え、姉御! 何挨拶するの?」
顔を真っ赤にするタクト君。
「もちろん、オタクのバカ息子預かって困ってますって話よ」
「えー、姉御。それはないよぉ!」
笑いながらタクト君をおちょくるアヤメさん。
この2人も仲良く遊んでいるのが最近増えてきた気がする。
実に良い事だね。
頼りないタクト君にはアヤメさんのような姉さん女房の方が良いよ。
「えー、話が盛り上がっているところ、すいません。所轄の僕では出番無しですね。この家をお留守するなら、ご自宅の警備は置いておきますね」
ややふてくされ気味の中村警視。
今までもマユ姉ぇに振り回されて、超常現象相手に戦っているんだから文句を言いたいのも分かる。
「中村君、いつも迷惑かけてごめんなさいね」
「もういつもなんですから。ですから、絶対怪我して帰ってこないで下さいね、真由子さん」
「うん、中村君。ありがとう」
にっこり笑う「ヒマワリ」の笑顔のマユ姉ぇを見て、顔を赤くする中村警視。
初恋の人の、笑顔からの「ありがとう」は効果抜群だね。
「後は留守居組じゃな。マサト殿、お主には兵器開発の他に頼みたい事があるのじゃ!」
「何、チエちゃん?」
マサトは、チエちゃんの目線まで顔を下げた。
「実は今開発中のモノがあって、それの試験オペレータを頼みたいのじゃ。これが成功すれば、ナナ殿達も気兼ねなく遺跡攻略に参加できるのじゃ!」
それって、まさか?
「そうじゃ、本当の『どこでも……』じゃああ!」
うん、毎度ドラCVネタは鉄板だね。
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