第154話 康太は冒険者になる:その3「探し物はナンですか?」
「父さんはスゲーだろ。ああ見えて剣術バカだから、日本の古流抜刀術だけでなくて、ドイツ流剣術とかも本買いこんだり、あっち行って勉強したんだとか」
カツ兄ぃ、まだ実家逗留中で、俺が爺さんからの技伝授をしている間も観戦モードをしていた。
今は、へばった爺さんを皆で介抱中。
そういえば、日本刀剣術だと刃あわせての防御はせずに刀の横腹に出ている鎬を使ってって攻撃を弾くけど(俗に言う「鎬を削る」ってやつ)、西洋剣だと刃の部分以外はもろいから刃で弾くんだそうな。
「おい、本来ならカツが受け継ぐべき技だぞ。それを逃げたんだから茶化すでないわい」
息を切らせつつも元気っぽい爺さん。
俺でもあれだけの技使ったら動けなくなるかも。
そして介抱に参加せずに巻藁相手に技の復習をしているマユ姉ぇ。
見事に爺さんの技をコピーし、更にアレンジかまして威力倍増させている。
おかげでもう巻藁は全部大破して一本も残っていない。
「コレだからマユに見せたくなかったんだよ。簡単にコピーされた上にアレンジでパワーアップなんてしちまうんだから」
うん、爺さんが愚痴るのも理解できるよ。
ホント、チートお姉様なんだから。
「またマユさん、強くなったんだね。僕もうマユさんとは夫婦喧嘩できないや」
そう正明さんが言うと、
「いやん、私は正明さんと喧嘩なんてしないわよ。そりゃベットの上での対戦は……、って、あらぁ私ったらハシタナイわぁ」
おい、最近ノロケ度合い増していないかい?
10月に入ってルナちゃんが実家に帰宅してから、ますます夫婦間の距離が近づいている気がしないでも無い。
これ、ナナの弟妹誕生フラグなのか?
「おい、マユ姉ぇ。娘達の前で『いちゃつく』のは、その程度にしてよぉ」
「うむ、我が娘ながら困ったもんじゃ」
「私、昔そんなにハシタナかったのかしら。もし、そんなの遺伝したのなら困ったわ」
「おかーさん、もう恥かしいよぉ」
「おかあさん と おとうさん、すきすきね!」
「母様の色ボケ具合、微笑ましいというか、恥かしいというか」
「はい、真由子様のボケは我らにもかなりダメージ来ますから」
「マユさん、後はまた夜にでもね」
何故か突然現れた朧さん含めた全員からの厳しい(笑)ツッコミに笑って誤魔化すマユ姉ぇ。
「えへっ。私もまだまだねぇ」
頼むからこれ以上進化しないで欲しいです、ハイ。
◆ ◇ ◆ ◇
「今回、調査団への協力をお願いに参りました」
吉井教授の研究室に訪れているのは、文部科学省監督下の考古学研究所の所長、金子先生。
先生の見た目は、身長低めで「でっぷり体型」、頭髪が薄めのおじさん。
福々しい風貌から「恵比寿さん」って感じだ。
専門は建築史学、つまり古代建築物に関する学問だね。
金子先生は古代建築物と歴史地震との関係についての論文を書いており、俺も歴史地震について調べる事があったので、読ませてもらった事がある。
歴史地震とは地震計等の近代的測定が出来なかった時代の地震で、ぶっちゃけていうと日本だと江戸期以前の地震の事。
日本の場合だと平安期以降は確実に書物に地震の記録が残っているので、ボーリングして見つけた断層跡とかとの符合が付けやすい。
過去、地震で城が山崩れに巻き込まれて一族毎全員亡くなった武将もいる(1585年 天正地震 帰蝶城 内ヶ島氏)し、同じ地震で長島城・木船城が全壊して武将の親族(山内一豊の娘、前田利家の弟夫婦)も亡くなっているそうだ。
古代より、日本は災害との戦いの場。
俺達も決して他人事じゃない、注意して暮らさないとね。
「金子先生が態々お越しとは、どうしたんですか? 先生は確か今は四国で発見された古代建築物の発掘活動中と聞いていましたが」
吉井教授は金子先生に尋ねる。
「実は、発見された遺物がこちらで発掘中のモノに類似していまして。また、どうも怪しい気配がするので、『そちら』にも詳しい吉井先生に調査の補助をお願いしたく来たわけです」
「ウチの遺物とはまさか古墳地下にある……」
「ええ、それなんです。そちらにいる功刀君だっけ。彼の『活躍』で無事に済んだ事は『国』経由で聞いております」
あら、俺の事、大々的になっているのね。
困ったなぁ、マジでマトモな考古学者じゃなくて、インディ系に足つっこんでるよ。
「えっと、金子先生。俺の事、どこまで聞いていらっしゃるんですか?」
金子先生は福々しい表情を更に笑顔にして話す。
「『神剣』がらみまでは聞いていますよ。最近は、公安さんとも活躍とか」
あー、全部バレているよ。
まさか、コトミちゃんが?
「えーっと、コトミちゃん。逃げちゃダメだよ。俺の事どこかに売ったりしていないよね」
俺は気配消して逃げようとしていたコトミちゃんを声で捕まえた。
「せ、先輩。アタシが先輩を売るなんてする訳無いじゃないですかぁ」
ギギって音がしそうな感じで、ぎこちなく俺の方を見るコトミちゃん。
「その割には声に震えが聞こえるんだけど。怒らないから教えてよ」
俺は頑張って怒りを抑えて平静な声でコトミちゃんに問うた。
「ご、ごめんなさい。アヤメお姉様や寺尾室長さんに聞かれて色々話しちゃいました」
公安さんに話したのは、しょうがない。
元々彼らには隠す気は無いし。
じゃあ、そこから「上」に話が言ったのね。
まあ、「神剣」借りたら大事にならない訳ないし。
「公安さんに話したのは別に問題ないよ。アヤメさん達も上から言われれば話さないわけにもいかないしね。だから、コトミちゃん『には』、怒っていないよ」
ほっとするコトミちゃん。
「けど、話す前に一言言って欲しかったから、お詫びに今度学食で良いから一食おごってね」
「えー、先輩! 後輩にタカルんですか?」
「別に素うどん一杯で良いんだけど」
「あら、そうなんですか。じゃあ、今度学食デートという事で」
「はいはい、そこ夫婦漫才しないで良いから。金子先生、ウチのバカ学生がすいませんです」
「教授!」「吉井先生!」
思わず2人してハモッて教授につっこむ俺達。
まあ、いつもの漫才モードしてたけどね。
「まあ、いいんじゃないですか。英雄色を好むと言いますし」
「金子先生、それはどういう意味ですか? 俺、コトミちゃんとは友達ですけど、恋愛感情は無いですよ!」
「えー、先輩。アタシの水着姿抱きしめたのにぃ?」
「だから、コトミちゃんもふざけないで! 話が進まないって。すいません、金子先生、話を進めてください」
あまりに悪乗り漫才モードなので、苦笑いしながら汗を拭う金子先生。
しかし、表情を真剣なものに変えて話す。
「こんな研究室なら、どんな危機でも乗り切れそうですね。さて、本題に入りますが、私達が発掘している遺跡は、高さ3m程の『門』の形状をしているんです。そして、それにはこちらの遺跡で発見された虹色の『石』が沢山埋め込まれているんです」
「次元石」付きの門だって!
まさか、それは異世界や星々の世界への門なのか?
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