第153話 康太は冒険者になる:その2「普通はどこに売っていますか?」
ネタ話だった「俺の縁談」話はリタちゃんの「わたしもおにいちゃんのおよめさんになる」宣言で余計混乱を来たしたけれどマユ姉ぇの、
「まずは18歳越えてからね」
宣言によって一応の解決を見た。
というか、焚きつけるだけ焚きつけておいて、それは無いんじゃないの、マユ姉ぇ。
なんとか一応落ち着いたので、今俺と爺さんは庭にいっぱい立ててある巻藁の前に居る。
巻藁とは、青竹を芯にして稲藁を巻いた棒。
竹が骨、巻いた藁が肉の硬さに似ているそうで、抜刀術とか居合いの試し切りの対象として使っている。
「もうオレは長時間は戦えない。本当なら悪魔の一匹でも切っておきたかったんだがな」
爺さん、霊能力込みの剣術なら俺はおろか、アヤメさん、吉井教授とはケタ違い。
どうやら吉井教授とは師匠が同じらしいけど。
なので、「騎」戦とかは来たがっていたけどムリなのであきらめて吉井教授を斡旋したそうな。
先日のリブラ戦の事なんかは、聞いてからは興奮状態が止まらなかったらしい。
後から何故か撮影されていたチエちゃん謹製映画風動画を見て感動していたらしいね。
「だといっても一瞬の勝負なら、まだ誰にも負ける気はしねえ。そこでだ、康太。お前にオレが知っている口伝ワザを授ける。うまく生かすんだな」
「良いわねぇ、コウちゃん。私なんて今まで教えてくれなかったのに」
そこにすかさずつっこむマユ姉ぇ。
ついでに他の全員がギャラリーとして縁側にお茶菓子持って並んでいる。
「おい、真由子。お前は呪文込みならオレよりもつえーじゃないかよ。それにいつもワザ見ただけで盗んじゃうだろよ。ついでだ、お前もここで覚えな」
「はい、ありがとう。お父さん」
ふむふむ、爺さんも娘には弱いと。
色んな意味でね。(笑)
「このワザの特徴は、剣先の動きと刀の長さを悟らせない事だ。お前の使う光剣なら切る瞬間まで剣を出さなきゃ余計に見切れないさ。いいな、よーく見るんだぞ」
そして爺さんは、愛刀を抜いて構える。
「まずは刀を脇に構える。そして相手の目線から見て刀が殆ど見えないようにする。ちょっと見では居合いに見えねーでもないが、違いは刀をすでに抜いてあるのと、両手で握っているからパワーはダンチだぞ」
案外と若者言葉を使う爺さん。
爺さんは、右足を引き体を右斜めに向けて、刀いや太刀を右脇に取り、剣先を後ろに下げて構えている。
これを脇構えと言うんだとか。
爺さんの愛刀は、鎌倉末期、元寇の危機からの影響を受けた相州伝系の太刀。
江戸時代の磨り上げ(刀を短くする)の危機から逃れた古刀期の一品。
手元に近い側が反る元反り、長さ二尺五寸(76cm弱)、拵えは握りは打刀風にしているが、鞘とかは腰に佩くタイプ。
馬上からの片手打ちを主目的としている為に、刃渡りの長さで実感するよりも軽いらしい。
そして、その形状からして居合いには向かない。
居合いが有効なのは、相手からは刀の長さが読めない事と奇襲に対する対応。
実際の斬撃の威力は、片手なので実は大した事は無い。
創作物ではスゴイ技みたいに言われているけど、いちいち刀を鞘にしまうメリットって実は殆ど無いんだ。
「オレの前に来てみろ。どう見える?」
俺とマユ姉ぇは爺さんの前に立ってみた。
「あ、刀が見えない」
「ええ。これじゃ間合いが掴めないわ」
「そうだろ。態々刀身が長い太刀を使っているんだ。これで間合いが読めなければ、避けようもあるまい。後、もう一つこの型からの秘策があるんだ。今度は避けてくれんか?」
俺達が爺さんの前から退くと、爺さんは気合を込める。
「見逃すんじゃないぞ。もう一回はしんどいんだから」
「そこは大丈夫じゃ! さっきから録画しておるのじゃ!」
フォローありがとう、チエちゃん。
これで後から復習できるよ。
「おいおい、秘伝口伝の技が録画記録かよ。まーいいか、身内専用なら口伝と変わらねーからな」
爺さんは軽口をたたいた後、一気に巻藁に踏み込んだ。
そして電光、紫電のような煌きが光ったと思った瞬間、巻藁は中の芯、青竹ごとバラバラになっていた。
「うわー、殆ど見えなかったよぉ」
「私は、なんとか3手目までは見えたかしら」
「うむ、ワシは全部見えたのじゃ。録画も綺麗に出来て居るのじゃ。さすが超高速ハイビジョンカメラじゃ!」
おい、チエちゃんや。
いつのまにそんなスーパーカメラ仕入れたの?
「このカメラか? そろそろ踊ってみたシリーズとか撮ってみたくなったのじゃ!」
何処のご家庭に「ゆーちゅーばー」用にハイビジョンカメラ準備するところがあるんでしょうか。
まあ、今回はいいかな。
俺、もっと「感の目」とか鍛えなきゃダメだねぇ。
「おいおい情けねーな、お前らは。チエちゃんが準備しとかなきゃ、オレの苦労が無駄になったじゃねーかよ」
少し息を切らしている爺さん。
多分、10年前ならそんな事なかったんだろうね。
「じゃあ、映像見ながら説明するぞ。まずは神速の踏み込み。縮地とか瞬動法とか。そういうのはお前ら出来るんだろ?」
爺さんの質問に俺とマユ姉ぇは頷く。
「よし、じゃあ次。この踏み込みだけど、相手の眼前までやる。普通じゃねぇだろ。普通は剣先が当るギリギリで止まる。こっちが切られるもんな。でも、それは向こうも同じだ。近距離戦は警戒していても接近戦は考えていねえ」
発想の転換だな。
虚と実、戦いの基本だもの。
「相手に密着したら、右手の握りを逆手に代えて突撃の勢いも加えて刀の柄で突く!」
映像を見ると、柄で付いた瞬間に巻藁が大きくしなっている。
「そしてそのままの流れで切り上げる!」
巻藁が切り上げ逆袈裟切りで両断される。
「次に右手を順手に持ち返し、右から左にやや斜めに横薙ぎ!」
切られた巻藁が地面に落ちる前に更に半分に切られる。
「そしてそのまま袈裟切りして最後に平突き2連撃で吹き飛ばす!」
うん、オーバーキルだね。
そりゃ巻藁バラバラになるって。
これって殆ど、るろうにクンの九頭竜なんとかだよね、この技って。
「爺さん、これってすごい技なんだけど、人間相手の技じゃないよね。普通、2撃目の切り上げ逆袈裟切りで死んでいるから」
俺の質問に爺さんは答えてくれる。
「そりゃそうだろうよ。オレの戦ってきた相手とかお前等が戦うのは人外の魔物だろ。人外を切り伏せるんだ。並みの威力じゃ力負けするだろ? そのためのワザだよ。人外かつ中距離型敵用のワザだな」
ふむ、るろうにの敵のヒトは人外と。(笑)
まあ、巨人とかロボとかもいたけどね。
とまあ、色々ありつつも爺さんは俺達に技を色々と見せてくれた。
ホント、感謝感激だね。
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