第150話 ナナは生徒会長になる:その9「生徒会長って忙しい:9」
「うわー、案外多くの人来たよねぇ」
ボクは校庭を見回して集まった人々を見る。
今日は快晴の日曜日、運動会と文化祭の中間シーズン。
ブラスバンドの演奏会という事で、学校外からも多くの人たちが学校へ来ているの。
「ええ、イベントとしては大成功です。元々ウチの吹奏楽部は評判が良いので、集客力もあったようですね。バザーの方も売り上げ好調みたいです。保健所との折衝、大変でしたがやった甲斐はありました」
三木君が随分と頑張ってくれたおかげでイベントは大盛況。
バザーとか食品を販売するのは、勝手にしちゃダメなんだって。
食中毒とかの危険性があるから、保健所に模擬店の開設届けを出す必要があるのと、お店の担当者は食中毒の原因菌がお腹の中に居ないか検査をしなくちゃならないとか。
もちろん、その検査はウンチ使うそーな。
健康被害が出ない為だけど、大変ね。
「さあ、じゃあ後は犯人を捕まえるだけね。チエ姉ぇ、どんな感じ?」
ボクは耳にしているブルートゥース端末を操作してチエ姉ぇに連絡を取った。
「おう、ナナ殿。すでに仕掛けは終わっておる。犯人、カメラを仕掛けておったのを確認済みじゃ。事前情報から想定してはおったが、まさかの『大物』じゃったわ。後は、カメラ回収時に現行犯逮捕じゃ!」
あーあ、簡単にワナに嵌り過ぎだよ。
今も学校関係者という事で、堂々と観衆の門前でカメラ回しているけど、困ったヒトだこと。
ボクはジト眼で「犯人」を見た。
コトミお姉ちゃん情報で搾り出していたけど、まさか……、ねえ。
「ウチのブラスバンドのユニフォーム、人気あるんですって。まあオトコ視線で見ればノースリーブでスカート短いと、視線誘導されちゃいますし」
「うん、そこはしょうがないよ」
ボクもそのあたりは理解している。
ボクが見てもカワイイと思うしね。
「会長、犯人が動きました。どうしますか?」
森川君からの通報があり、そっと犯人の様子を見るとカメラを片付けだしている。
まだ演奏途中なのに不自然な動き、多分バレる前に無人の音楽室からカメラ回収する気なんだろうね。
「森川君、そのまま気が付かれない様に尾行をお願い。音楽室に行くようならチエ姉ぇと一緒に犯人確保をお願いね」
「りょーかいです」
「さてと。リタちゃん、そっちはどう?」
ボクはリタちゃんにも連絡を取る。
「こっち、じゅんび おーけー だよ!」
リタちゃんも、とある場所で待機中。
これで一網打尽待ちね。
「じゃあ、ボク達も準備しようか」
「ええ、会長!」
さあ、勝負の時ね。
◆ ◇ ◆ ◇
カチャ。
施錠されているはずの音楽室の扉が開く。
「ふぅ、今のうちのカメラを回収しないとな。小娘共がいらん事しているし。しかし、この眺めも良いもんだ」
「犯人」は、女子生徒が着替えた後の服を見回る。
部屋の中は、女子生徒の甘い汗の匂いも感じられそうだ。
「何のために、万年教頭で甘んじないといけないんだよ。このくらい楽しんでナニが悪い! 直接手を出した訳じゃないし、映像を流出させた訳でもないじゃないか」
「犯人」は椅子を使って上に登り、ベートーベン肖像画をずらした。
そして隠していたカメラを手に持った。
「そこまでじゃ! 教頭よ、観念せい!」
「犯人」いや、教頭は驚いた。
部屋の中には誰も居なかったはずなのに。
声の方を見ると、幼女と数人の生徒がいた。
そう、いつも生意気な生徒会長も。
「先生、犯人は貴方だったのね!」
◆ ◇ ◆ ◇
「ああ、やっぱり教頭先生だったのね、犯人は」
ボク達はチエ姉ぇが作った異空間から、教頭が施錠していた音楽室に入ってくるのを見た。
「これ、尾行とかに便利ですね。どんなに大声出しても向こうに気が付かれないなんて」
「そうじゃろ。これがワシの実力じゃ!」
森川君に褒められて嬉しいチエ姉ぇ。
「あーあ、欲望ダダ漏れね。前の学校でも色々やっていたそうだし、それでいい歳なのに校長にもなれずに長年教頭で飼い殺しだったのね」
ルナちゃんが教頭先生の独り言聞いて愚痴る。
教頭の過去の「事件」については、コトミお姉ちゃんの調べで全部分かっていたの。
調べ上げた時点で、勤務期間からして教頭先生がホンボシだと思われていたけど、案の定ね。
「会長、カメラに手を出しました。これで現行犯です」
三木君が現場を確認してくれた。
「よし、行くよ! チエ姉ぇ、お願い!」
ボクはチエ姉ぇに異空間の開放を頼んだ。
「よし、ワシが初手じゃ!」
空間は通常に戻り、ボク達は音楽教室に現れた。
「そこまでじゃ! 教頭よ、観念せい!」
びっくりしてこっちを見る教頭先生。
「先生、犯人は貴方だったのね!」
ボクはビシっと教頭先生を指差す。
「そうか、見てしまったのか。お前ら、俺をどうする?」
教頭先生、怖そうな声でボク達を睨む。
でもね、全然怖く無いんだ、ボク。
チエ姉ぇ、リタちゃん、それに王子様もボクには居てくれるんだもん。
「そうですね、現行犯ですので言い逃れしないのは良い事です。出来たら、このままカメラや今まで写した写真なんかを全部ボク達に提出してくれれば、先生を警察には突き出しません。そのまま自主退職して退職金貰ってお休みください」
ボクは穏便案を言う。
まあ、これに従うようなら誰も苦労しないけどね。
「そうしないと言えば?」
教頭先生はカメラを足元に置き、懐に手を入れる。
多分、武器とか取り出すんだろうな。
でも残念、既に部屋の各所にボクのタイル小物サン達や和ハサミ小物サン達等が全力展開済み。
どう暴れてもチェックメイトなの。
「その場合は、少し痛い目見てもらってから警察に突き出します。ボク、警察庁や県警に知り合い居ますから。後は良くて依願退職。最悪懲戒免職で退職金無しで刑事罰もあり。どうします? まさかボク達を傷つける気ですか? そうする気ならボクも一切手加減しませんよ」
ボクの脅しに一瞬怯む教頭先生。
しかし、
「お前ら子供がオレ達オトナに勝てるとでも思っているのか! それにオレ1人だと思うのか?」
懐からナイフを出す教頭先生。
はい、悲しいけど、これで先生の人生は、お終い。
「ビットブレイク!」
ボクの掛け声でタイル小物サンが分裂して一気に教頭先生を取り囲む。
そして和バサミ小物サンが教頭先生の服を一瞬で切り刻む。
「うわぁ」
教頭先生はナイフを取り落とし、腕で身体を覆いながらしゃがみこむ。
もちろんタイル小物達が逃がさないように取り囲んだままね。
「だから言ったんですよ。大人しくしないと痛い目を見るって。チエ姉ぇ、ナイフ拾ってね」
ボクはシールドの一個を使ってナイフを教頭先生の近くから弾いて、チエ姉ぇの足元まで転がした。
「おう、回収したのじゃ!」
「さあ、観念しますか。今謝るなら、さっきの事は見無かった事にしてあげます。警察に自首して下さい」
ボクは、漏斗小物サン、小柄小物サン、望遠鏡サン、打ち上げ筒サン、狛犬クン達を教頭先生の目前で全力展開した。
「いったい、キミはナニモノなんだ? そういえばオレの仲間はどうなったんだ?」
怯えながらボクを見上げる教頭先生。
「先生も良く知っているでしょ、生徒会長の岡本奈々だよ。そうそうお母さんも残念だって言っていたよ。昔は、こんな先生じゃなかったのにって」
「キミの御母さんとは?」
「旧姓は秋山だね。秋山真由子、覚えていない? たぶん先生が新任だった頃の生徒だったはずだよ」
「秋山、……!!!、ひぃぃぃぃ、あの地獄送り少女の!」
ますます震え上がる教頭先生。
一体お母さんって昔ナニやったんだろうねぇ。
恥かしい二つ名貰っちゃって。
百鬼夜行召還と関係あるのかな?
「それとね、もしもの為にゴロツキの生徒雇っていたようだけど、既にリタちゃんやコウ兄ぃの活躍で無力化しているよ」
教頭先生はボク達の動きを察知していて、もしものためにイベントを壊すように近郊の不良生徒共を雇っていたようなのね。
その動きはコトミお姉ちゃんによって事前にバレていて、コウ兄ぃとリタちゃんが先手打って無力化してくれたのね。
コウ兄ぃなら、そこいらの不良ゴロツキなんてポイポイだよね。
後から聞いたら、タクト兄ぃもノリノリで来てくれて、バカ者全員パンチパーマ状態になったんだって。(笑)
「さあ、これで事件解決ね。真実はいつもヒトツ!」
ビシっと決めるボク。
あれ?
さっきから皆の反応無いけど?
「いやー、小物展開の段階で皆気絶しておるのじゃ!」
「うん、ウチの男共ダメよねぇ」
後ろを見ると、三木君も森川君も気絶中。
笑ってみているチエ姉ぇに頭を抱えているルナちゃん。
「あ、教頭先生勢いでムイちゃったけど、この後どうしよう?」
シマッタよぉ!!
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