第15話 康太の家庭教師:3日目「蟲毒」
1cmくらいだった百足は1mくらいまで大きくなって俺達に襲い掛かってきた。
「どうしていきなり活性化したんだよ」
俺が不思議に思った時に、リタちゃんが叫んだ。
「こうにいちゃん、うしろ、おんなのこ!」
そこにはまだ入浴中だったはずのカオリちゃんがいた。
そうか、獲物を目前にして呪詛が暴れだしたんだ。
「何をしているんですか、先生。その化け物は一体......」
カオリちゃんは大百足に恐怖して立ちすくんでしまっているが、そこは庭で結界内。
このままではカオリちゃんが大百足に襲われてしまう。
そこに何か金色のものが飛んできて大百足に体当たりしてくれたおかげで、一旦大百足は怯んでくれた。
よし、今のうちだ。
「俺が盾になるから、リタちゃんはカオリちゃんを結界外に逃がして!」
俺はそう言って右手に握った三鈷杵から刃では無く「光の盾」を生成して大百足に叩き付けた。
三鈷杵だが、マユ姉ぇから貰ってから色々と試してみたところ、刃以外も形成できる事が分かった。
その形成できる中で便利だったのが、この盾。
直径70cmくらいの破邪の力場からなる盾で物理攻撃にも有効。
特に軽くて盾殴り攻撃も可能なのがいい。
今回みたいに守りながら戦うには非常に助かる。
そういえばGダムでいうところのビームシールドだね。
ならマユ姉ぇがビームサーベルって言ったの、満更間違いじゃないんだ。
盾からの破邪の力で吹き飛ばされた大百足は、一旦距離を取ろうとするも庭の四方に張られた結界札に邪魔されて逃げる事すら出来ない。
「ふー、念の為に結界張っておいて良かったよ。バトルステージにしては狭いけど」
やや大きめの邸宅の庭なので5m四方はあるから戦闘はなんとか出来るけど、出来ればもう少し距離取りたいのが本音だ。
と、俺が時間稼ぎしている間にリタちゃんは無事にカオリちゃんを結界の外に逃がして、こっちに返って来てくれた。
「こうにいちゃん、どうするの?」
じゃあ、リタちゃんに支援砲撃してもらっている間に呪で強化しましょうか。
「リタちゃん、少しの間遠距離攻撃魔法で足止めお願いできる? その間に自分でパワーアップ呪かけるから」
「うん、いいよ、おにいちゃん」
「Viele Lichter Fliegen!」
リタちゃんから沢山の光弾が雨あられと大百足に発射される。
これなら大丈夫だね。
俺は盾を一旦解除して、二つの呪を唱える。
「オン イダテイタ モコテイタ ソワカ!」
まずは韋駄天による加速、これで攻防共に有利になった。
続いて唱えるは、仏母孔雀明王の呪。
「オン マユラ キランディ ソワカ!」
孔雀はサソリや毒蛇を食べる事より、孔雀明王の呪は対毒対策と毒虫攻撃への追加効果が付く。
この呪はもっと極めると飛行呪とか強力な破邪攻撃になるんだそうな。
「リタちゃん、もういいよ。後は隙見て支援宜しく!」
俺はそう言って再び左手に握った三鈷杵を盾にして大百足に突進していく。
攻撃が一時止んだ隙を見て、大百足は俺へ毒牙を向けてくるが、加速されている俺には止まって見える。
毒牙を盾で押さえ込んだ俺は、もう片手に握っていた独鈷を大百足の胴体にぶっ刺した。
マユ姉ぇが一度俺に渡すのを躊躇した鋼性大型独鈷だけれども、物理攻撃能力が欲しかった俺はマユ姉ぇに頼み込んで、今回持ち込んでいた。
〝きしゃーーー〟
大百足は声無き声を出して暴れもがいているが、まだ致命傷には遠いらしい。
とりあえず、盾で大百足を叩いて独鈷を引き抜き、俺は大百足から距離を取った。
「なんかの物語で大百足退治の話あった覚えがあるんだけど、なんだったかな?」
俺は加速された思考で記憶をサーチする。
確か、矢で倒したんだよな。
後、毒か何かを矢先に塗った覚えが.....。
.....!!
思い出した、「唾」に弱いんだ。
なお、後日文献を調べると平安時代の武将、藤原秀郷氏の逸話に大百足退治があったそうだ。
俺は独鈷を口にくわえ込んでいっぱい唾液を塗りつけた。
うん、エロい気もするけど、今はそれどころじゃないんだよ。
「うぉりゃー!!」
俺は気合を入れて「光の盾」を前に掲げて大百足に突進する。
盾に阻まれるのを覚えた大百足は俺の足元へ攻撃先を変えてくる。
しかし「加速」状態の俺にとっては、そんなの想定内。
ひょいと避けて顎を上から盾で押さえ込んで、右手に握った唾付き独鈷を大百足の頭に突き刺す。
こういう時に力場の盾は干渉しあわないので楽だね。
〝ぎじゃあー!!〟
「毒」を頭部に叩き込まれた大百足は大きな「声」を上げた後全身を痙攣させて、しばらく暴れていたもののピクっとした後に息絶えた。
そして大百足は急速に縮みだして1分もしないうちに元の大きさの1cmくらいに戻った。
後は念の為にトドメの不動明王火炎呪。
「ナウマク サマンダ バザラダン カン!」
呪物だった百足は綺麗に燃えて煤一つ残さず浄化された。
「ふー、退治終了。けど、これ絶対呪詛返ししちゃったな」
手加減すら出来ない状況だったので大百足を倒しちゃったけど、コイツは蟲毒で作られた呪詛そのもの。
倒されてしまった呪詛は術者に返って酷い事になるのが普通。
こりゃ、後から蒼井さんって子を見に行かないといけないな。
庭で行われたスペクタクルで怯えてしまったカオリちゃんやお母様。
庭に面したリビングでお互い抱き合って立ちすくんでしまっているのはしょうがないね。
「もう大丈夫ですよ。化け物は退治しました」
俺は二人に安心させるように笑って話した。
「先生は一体何者なんですか? それとその女の子も何ですか? え、そのエルフみたいな耳は一体?」
あ、リタちゃん攻撃呪文でいっぱいいっぱいだったので、耳を隠していた幻覚切れちゃったんだ。
お堅いカオリちゃんでもエルフ耳は知っているんだ。
まあ「指輪」とか「呪われた島」とかメジャーになったからねぇ。
「これには色々な事情がありまして、特にこの子の事は内密にして頂けると助かります」
俺ならともかく、リタちゃんの事は公にされると非常に困る。
「俺はカオリちゃん、いやカオリさんのご両親から呪いに対してのボディガードとして雇われています。今回の事はご友人からのペンダントが呪物、呪いの原因となっていまして、それを取り除こうとしたところ呪いが発動して化け物になったのです」
俺はカオリちゃんに状況を説明した。
「また、カオリさんが危ない時に助けてくれていたのがコイツです」
そういって俺は足元で転がっていた「ぐどら」サンを持ち上げた。
「なんで、ぐっちゃんがここにいるの?」
不思議そうに言うカオリちゃんに俺は説明する。
「さっき、カオリさんが大百足に襲われそうになったときに金色のモノが飛んできて守ってくれましたよね、それがコイツなんです。この子は九十九神というモノになってカオリさんを守ってくれていたんです。前にお部屋が大変になったのも、この子がカオリさんを守って戦った結果です」
俺は「ぐどらサン」もとい「ぐっちゃん」をカオリちゃんに渡す。
「そうだったんだ。いつも守ってくれてありがとう」
そう言ってカオリちゃんは涙を流して「ぐっちゃん」を抱きしめた。
〝オレ、がんばった。 カオリ、まもれた〟
「ぐっちゃん、カオリさんを守れたので喜んでいますよ。これからも大事にしてあげてくださいね」
さて、これから聞かなければならない事を聞こう。
「さて、本題に入りますが、今回の呪詛はカオリさんのご友人の蒼井さんが向けたものだと思われます。カオリさん、何か心当たりはありませんか?」




