第141話 康太は公安と仲良くなる:その45「えぴろーぐ:2」
悲しいリブラの一生を聞いた俺達。
「私と何処が違って、こうなってしまったのでしょうか?」
リブラと同じく不登校になっていたルナちゃんが言う。
「おそらくだけど、人を大事に思っていたのか、どうかが大きな違いだったのでしょうね」
マユ姉ぇは、少し気落ち気味のルナちゃんに寄り添う。
「ルナちゃんは『力』を得ても、その力を人助けに使った。しかし、リブラは『力』を人殺しに使った。ルナちゃんは人が怖いけど、人が好きだった。リブラは人が怖い上に嫌いだった。ルナちゃんは世界を恨まなかったけど、リブラは世界を恨んだ」
マユ姉ぇは、ルナちゃんを横から抱きしめる。
「誰かが、もっと前にリブラの前に現れて彼を説得して治療を受けさせていたら違った結末だったのかも知れないわ。でも、現実にはそんな事は起きなかった。そして、彼は救えなかった上に多くの犠牲者を生み出した」
マユ姉ぇは悲しい顔で話を続ける。
「社会に合わない『普通じゃない人』は追い出される。それは、ここにいる皆体験済みよね。私達も決して『普通』じゃないもの」
霊能力や魔法なんか「普通」とはもっとも遠いもの。
社会から「異物」扱いされてしまう。
「だからと言って社会や人を恨むのも違うわよね。迫害するのも人だけれども、救ってくれるのも人ですもの」
チエちゃんが話を繋ぐ。
「そうじゃな。まず恨むべき戦うべきなのは、自分の『弱さ』とじゃ。どうすれば強くなれるのか、自分の『弱さ』をどう克服するのか。それを考えずに原因を他者に求めて、社会を恨めば後は破滅へまっさかさまじゃ。ワシも随分と悩んだものじゃよ。おかげで今、こーやって楽しく暮らしておるのじゃ!」
自分の弱さに負けたリブラと自分の弱さにうち勝ったルナちゃん。
そこが違いになって、方や人外と成り下がって地獄へ。
方や笑って皆と過ごしている。
「哀れなのは、巻き込まれた母君達じゃ。本当の敵だったアルへ敵討ちはできたじゃろうが、ああなってしまえばお終いじゃな」
チエちゃんは渋い顔だ。
結局、終わってはみたものの、後味が良くない事件解決であったし。
「そういえば、アルは完全に消滅したの? あれでも『這い寄る混沌』の一部でしょ。あのくらいでやられちゃうとは思えないんだけど」
アルについて気になった俺の質問に、チエちゃんは答えてくれた。
「あくまでワシの仮説じゃが、アヤツに憑いておった意識自身は逃げたと思うのじゃ。アストラル体のゆらぎをあの時感じたのじゃ。まあ、意識体が逃げても端末になる肉体が無ければ、この世界でアヤツが出来る事は何も無いのじゃ。とりあえず退治できたとおもうしかないのじゃ。言うて本来は『外なる神』じゃ。ワシらでどーとも出来ぬ相手じゃよ。まずはラッキーという事にしておくのがいいのじゃ」
確かにアルは、俺達全員の攻撃をモノともしていなかった。
神剣ならアルを切れたとは思うけど、そう何度もあの剣には畏れ多くて会いたくないのが本音だ。
そうそう、あの時チエちゃんが持って来た神剣は、やはりチエちゃんが拾って治したもの。
その後、「御山」経由で一旦「御所」に行ったものの、2本も神剣が「帝」の御近くにあるのは不味いということになり、オリジナルが神体として安置されている熱田神宮に保管される事になった。
で、チエちゃんお得意の「取り寄せ」で俺の元へと持ってきた。
使用後は、チエちゃんがクリーニングして元の保管場所にちゃんと返したそうな。
もちろん、後から「御山」や公安経由で使用した事を神宮へ連絡したけど、俺達全員こっぴどく怒られた。
当然、今後勝手に持って行くなとも言われた。
ただ、国を守った事に関しては「とある」方々から感謝の一言があったのは、嬉しい事だ。
公に出来ないから、勲章とかは無いけどね。
「そうそう、いうまでもなく……」
「ワシは悪魔じゃがって言うんでしょ、チエ姉さん」
「ルナ殿、なんでワシの台詞先取りするんじゃ!!」
「チエ姉ぇ、もう定番すぎるんだもの」
「ちえおねえちゃん。あたらしいねた、かんがえようよ」
姦しく妹達がじゃれあう姿を見て皆が笑う。
とりあえず、1人の少女の笑顔を守れたのはイイ事だね。
コツコツと目先の事から解決目指しますか。
◆ ◇ ◆ ◇
「おお、大漁じゃ!」
チエちゃんの前には、山ほどに詰まれた「次元石」がある。
「これだけあれば、異空間ゲートも作れるのじゃ! まだ戦力的にも早いのじゃが、リタ殿の敵討ちにリタ殿の母星へ行くのも不可能じゃないのじゃ!」
リブラ事件後、アルの潜伏先や取引先を調査していて、アルが保管していた「石」を発見していたのだ。
マユ姉ぇ宅で修行終了後、俺は沢山の「石」を店開きしていたチエちゃんに話しかけた。
「チエちゃん、これ危なくないの? 俺のヤツでも邪霊とか呼んでいたし、アルの使っていたやつは歪められているらしいし」
チエちゃんは、俺の心配を吹き飛ばすような笑顔で答える。
「そこは大丈夫じゃ。既に母様によって浄化済みじゃし、ワシが封印しておくからのぉ」
「それなら良いけどね。でも良いの、チエちゃん? リタちゃんの敵討ちって同族というか兄弟だよね、魔神将なんだから」
「コウタ殿、ワシの心配までしてくれるのか。ありがたいのぉ。まあ、そこは今更じゃ。ワシは既に『騎』を間接的に殺しておる。そして他にも多くの同族を殺めてきた。襲ってきたのは大抵正当防衛じゃったが、『娘』のおった星では望んで同族を殺めた。その事に後悔が全く無い訳でもないのじゃが、やる必要があるのなら躊躇はせん。ワシはな、守ると誓ったものを守る為には手段は選ばぬのじゃ」
幼い顔と声なのに話している内容は、とても重い話だ。
昔、「娘」となった異星人の子供を救うために、チエちゃんが同族に反旗を翻した話は、以前聞いて俺達は涙したものだ。
「それは、コウタ殿も同じじゃろ。ナナ殿達を守る為には躊躇せぬのは今まで見てきてワシもよう理解しておる。それ自体は悪い事では無いのじゃ。自分を守り、そして自分が大事に思う存在を守る。そして余裕があれば大事な存在の周囲を守る。手の届く範囲、出来る範囲でやるしかないのじゃ。それはワシらでもコウタ殿達でも同じじゃな」
チエちゃんは、俺の顔を見て話す。
「それにコウタ殿なら別の方法、戦わんでも済む方法を考え付くかもしれん。コウタ殿で無くとも良い。母様でも父様でも、ナナ殿、リタ殿、マサト殿、カオリ殿、ケイコ殿、コトミ殿、教授殿。お主の周りには多くの仲間がおるのじゃ! 3人寄れば文殊の知恵じゃ。もっと多いのじゃから、超文殊の知恵じゃ!! そうそうチエはワシの名前じゃな!」
いつもの「悪魔ギャグ」で場を和ませるチエちゃん。
「じゃから、ハッピーエンドを目指すのじゃ!」
「ああ、そうだね。誰もが笑っていられるのが一番だ!」
まだまだ俺の行く道は険しく遠い。
されど、守る存在と導いてくれる存在がいるんだ。
目指せ、真の「英雄」。
ますは、目先の事から解決だ。
修士論文、どーしよう。
だいぶサボったから、コトミちゃんに泣き付くしかない。
情けないかも知れないが、これも現実。
頑張りますかね。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふむ、『知』が生存しているというのは誠か?」
「はい、ソル星系地球を担当していた『騎』殿が消滅前に送った念話に『知』の生存情報と、『将」殿担当のアルフ星系からの逃亡者情報がありました」
とある星にある「玉座」。
そこに座る身長5mは超える巨人、捩れるも立派な4本の角を持ち、2対4枚の羽を背中に、そしてドラゴンに見間違うほどの立派な尻尾を持つ。
青黒い肌の各所には隈取、金色の眼は2対4眼、ロバの耳、口元には大きな牙、しかし案外と端正な風貌でどことなくチエの悪魔形態と似ている。
「彼」こそが、悪魔の王、魔神王、チエ達魔神将達の父親である。
「王」は、配下の大悪魔より報告を受けていた。
「あの、お転婆娘が生きておったか。その上に兄弟喧嘩で殺しあうとは、実に悪魔らしいというべきかのぉ」
顎下のヒゲを撫でながら報告を聞く「王」、
「アヤツの事だ、辺境の戦場で簡単に死ぬとは思わなんだが、悪魔には禁句な『嘘』を使って生き延びるとはな。さて、で今あのドラ娘は何処におるのじゃ? 話からすると地球に潜んでいるようじゃが」
「はい、おそらくその通りかと」
「なれば、ちょうど逃した獲物もおるのじゃ。『将』に調査追撃を命ずる。逃した獲物の処分、及び『知』の確保ないし、抹殺をするのじゃ!」
チエとリタ達に迫る魔の手。
物語は、コウタ達の思いとは関係なく終焉へと徐々に向かう。
(第三部 完)
これにて、第3部終了です。
第4部前に、9月21日よりナナちゃん達の学園生活での外伝の連載を開始しています。
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