第140話 康太は公安と仲良くなる:その44「えぴろーぐ:1」
「コウ兄ぃ、あーんして」
「ワシからもじゃ、あーんじゃ!」
「コウタ兄ちゃん、これどう?」
「おねえちゃんたち、おにいちゃんとらないでぇ!」
リブラ戦から、2日。
俺は神剣を振るった代償で、全身の筋肉の断裂及び関節の破損、アストラル体(星辰体 霊能力を司るそうで、実体に重なるように存在しているんだとか)の各部断裂障害を負った。
なので、今俺は全身を襲う激痛と霊力不足で寝こんでいる。
それをイイ事に、俺はマユ姉ぇ宅にて妹達+αに囲まれて「上げ膳据え膳」なのだ。
「あらあら、コウちゃん。大変ねぇ。皆、あまりコウちゃんを困らせないでね」
俺の様子を見に来たマユ姉ぇ、俺のハーレム状態を見て笑う。
「マユ姉ぇからも言ってよ。俺はもうだいぶ動けるなんだから、大丈夫なんだけど」
医師・看護士在中の上に、治癒呪文使いが3人もいるマユ姉ぇ亭。
外傷については、昨日の段階で完治している。
残るアストラル体については時間をかけるしか回復方法がないので、喰っちゃ寝を満喫している訳だ。
「その割には嬉しそうですね、コウタ兄ちゃん」
さっきの「あーん」攻撃に加わりながらも、ジト目で俺を見るルナちゃん。
「やっぱり、コウタ兄ちゃんってロリ好きなのかしら? 私の蜘蛛女姿もじっくり見ていたし」
ここぞとばかりに「胸」を強調するように腕組みをしながら、俺を攻撃するルナちゃん。
ルナちゃん、カオリちゃんとかよりは小さいけど、ナナよりは確実に「ある」。
というか、カオリちゃんのバストサイズが「脅威」なだけだ。
「胸囲」なだけに。
う、いかん。
チエちゃんの悪魔駄洒落に感染しているぞ、俺。
そりゃ、確かにルナちゃんの全裸姿は見ちゃったし、彼女との「戦い」には俺は全く出番なかったよ。
でも、言うに事欠いて「ロリ」疑惑は止めて欲しい。
俺は好きなのは、「女の子」全般。
年齢で差別する気は無いんだ。
老若関係なく「カワイイ」子好きなの。
ん、でもこれ「ロリ疑惑」の否定にならんよね。
よし、これは口に出さないでおこう。
「コウ兄ぃ、思考ダダ漏れだよ。ルナちゃんも念話聞こえるから、もう手遅れ」
額に手を当てて首を振るナナ。
ルナちゃんは顔を赤くしているし、リタちゃんも呆れ顔。
チエちゃんは、視線を俺から外して知らん振り。
「え、俺の思考読まれたの! というか、いつのまにルナちゃん念話使えるようになったの?」
これは不味い、俺ぴんちぃ!
「だって、夏休みの間暇だったんだもん。難しい術とかは無理だけど、気配読むのとか、念を読むのくらいは使えるようになりたかったんだもの」
ルナちゃん、「石」との接触で彼女自身の持つ力が増幅されている。
おそらく今後は霊的な存在との接触が増え、危険な事も増えるだろう。
そこで、身を守るには「危きに近づかず」、危ない存在の位置や考えを読めるようになれば、逃げたり近づかない事も楽になる。
下手な護身術よりも役に立つ。
そういう事で術を学ぶ様にしたと、俺は後からチエちゃんに聞いた。
「まあ、そこまでエロい事は想像していなかったから、セーフにしておいてあげるね、コウタ兄ちゃん」
う、俺って少女達のオモチャなんですか?
「冗談はさて置き、コウタ殿はようやっておるのじゃ。今回もワシらでは振るえぬ神剣をつこうてくれたのじゃからな」
チエちゃんは、俺の頭に手を置いて、いつも俺がチエちゃんにするようにナデナデしてくれる。
チエちゃんになら子供扱いされてもしょうがないね。
でも、久しぶりに頭撫でてもらった気がする。
昔、マユ姉ぇにしてもらったからぶりかな?
「そうよね、ここ1年でも随分強くなったわ。まあ、リタちゃんの母星奪還計画には、まだ遠いけど」
チエちゃんの隣にマユ姉ぇが座って、一緒になって俺の頭を撫でてくれる。
「ボクもナデナデするー!」
「わたしもー!」
「私は、しないわよ」
ナナとリタちゃんも俺の頭をナデナデしてくれる。
ルナちゃんがやらないのは良いけど、これって一見楽園だね。
現実では、半分くらいは弄ばれているオモチャ扱いなんだけど(笑)。
◆ ◇ ◆ ◇
「とりあえず、最後の捜査報告なのじゃ!」
チエちゃんの毎度のコールで始まる報告会。
高野山へ帰還したカレンさん達は、ネットを介しての生中継で話を聞いている。
俺も床を離れて問題なくなったので、普通に会議に参加している。
「今回の被疑者、リブラこと佐沼 晃は54歳、無職でした」
アヤメさんからリブラの情報が開示される。
あら、偉く年齢いってたのね。
じゃあ、マユ姉ぇの自分よりも年上という読みは当っていたんだ。
「中学校時代から、引きこもりをしていて、80代の母親との二人暮らし。母親の年金と生活保護で暮らしていた様です」
リブラは、最近話題になっている高年齢引きこもりだったんだ。
「彼の犯した犯罪については既に報告済みですので、割愛させて頂きます。彼の幼少期からの様子については、コトミさんからお願いします」
「はい、アヤメお姉様。近郊や小中学校での同級生等からの聞き込み結果ですが、近年リブラは深夜にコンビニに行く以外は外出をしておらず、最近の姿を知っているものは誰もいませんでした。チエお姉さまのご協力で、外出時の姿が防犯カメラに撮影されていたのを発見しました」
タブレットに表示されたリブラ、それは小太りで薄い頭髪を長髪で誤魔化した初老の人物だった。
画像が荒いためにはっきりとした表情まで分からないけど、リブラは歩き方がおどおどと何かに怖がっているように見えた。
「彼ですが、小学校時代から粗暴な上に成績も良くない生徒だったようです。教師からの印象もあまりよく無かったようで、学校に残る通知表にも良いようには書かれていませんでした」
チエちゃんとコトミちゃんが組むと個人情報保護なんて無いのかも。
怖いよぉ。
「中学校に入学後、自分から同級生にケンカを売ったものの、逆に酷い事懲らしめられたそうです。その後、教師から生活指導が行われた上に、元々良くない成績も最下位付近となり、1年生の後半からは不登校になっています」
逆恨みと厨二病の発症か。
「小中学校に残る記録からは、彼にはある種の発達障害・学習障害があったとは推定されますが、リブラが中学生時代には、研究が今ほど進歩していなかったので、対応出来なかったのでしょう。その後もリブラには医療機関への通院記録が全く無いので、どこまで症状が悪化していたかは、もはや確認のし様がありません」
今では、発達障害に対する社会の理解が増しており、幼少期からの対応で彼らが「普通の」社会生活を楽におくれる様になりつつある。
そういう俺自身も、「いわゆる普通」の枠に当てはまらない人間だ。
リブラの件は、決して他人事では無い。
「高校は通信制に入学したものの、半年で退学。その後は仕事もすることも無く、親のすねかじりをしていたそうです。父親が健在の頃には、親子ケンカで警察が幾度と無く訪れた記録があります」
典型的な「高齢引きこもり」。
そこにある「闇」を拡張させたのが、アルだった訳か。
しかし、リブラよ。
あまりに哀れな末路だな。
ブックマーク、感想、評価・レビュー等を頂けますと、とても嬉しいです。
皆様、宜しくお願い致します。




