第14話 康太の家庭教師:2日目「解呪」
俺の家庭教師は続いている。
何せ問題が解決していないし、勉強を教えるのは悪くない。
乙女を身近で凝視しても良いお仕事だもん。
うぉほん、別に下心は無いぞ。
あくまで見ているだけだからね。
鑑賞に耐える「ふくらみ」というのは中々ないものだ。
Dじゃないよね、アレ。
Eかな、Fかな、まさかのG?
しかしながら、いつまでもこのまま放置できないので本題へ。
あれから俺は「ぐどら」サンとは定期的に通信をしていてカオリちゃんの部屋での状況は把握している。
部屋で起こったポルターガイスト現象は、異変を起こしていたモノと「ぐどら」サンが対決した結果で、それ以降はカオリちゃんの家の中で敵が手出しをしてくる事は無くなったらしい。
なので、今は問題が発生するのは、学校とか登下校中に限定されている。
それでは俺が手出しするのは難しい。
しかし、かといって無理やり原因だと思われるペンダントを外させるのも俺では難しいしね。
という事で、俺は対応をマユ姉ぇと相談して、その結果をカオリちゃんのご両親に報告をする事にした。
このままムダに高いバイト代を貰い続けるのは俺が我慢ならないし。
◆ ◇ ◆ ◇
「調査の結果ですが、今回の原因はお嬢さんのご友人が原因だと思われます」
俺はカオリちゃんのご両親に詳細を報告した。
「では、あの部屋が大変になったのは、あの縫いぐるみがカオリを守ってくれた結果なのですね」
忙しいのにお父様はお仕事を休んで話を聞いてくれている。
「はい、あの子はあの子なりに一生懸命にカオリさんを守ってくれています。あの縫いぐるみはどういう由来なのか、ご存知ですか? まだ九十九神化するには縫いぐるみが作られてから短すぎる気がします。本来は100年以上の時間が必要ですので」
「あの縫いぐるみは、カオリが幼稚園の時にとても仲の良かった男の子から貰ったものです。その子はとても怪獣が好きだったのですが、身体が弱くて小学生に入学したくらいの時に病気で亡くなってしまったんです。それからカオリはその子の代わりと思って縫いぐるみを大事にしています」
お母様はその時の事を思い出したのか、少し悲しそうな顔をしていた。
なるほど、その亡くなった子の残留念とカオリちゃんの思いが重なって九十九神になる条件がなった訳ね。
「そういう事なので、問題を解決するにはペンダントをカオリさんから引き離す必要があります。これは俺では難しいですので、ご両親になんとかして頂きたいのです」
「でしたら、入浴時には身に着けていませんので、その間に始末して頂けませんか?」
お母様、それは成功しそうだけど、そうなると俺はカオリちゃんが入浴時にこの家にいなくちゃならない訳ですが、やむを得ないかな。
「では、その案で行きましょうか。俺も準備しますので、作戦決行日が決まり次第お知らせ下さい。あと、問題の友人について何かご存知ですか?」
「いえ、私も名前を聞いたくらいであまり詳しくはありません。ウチに来た事も無いと思います。確か付属校に小学生時代から居る子らしいですが」
問題の子の情報はあまり手に入らずか。
何でカオリちゃんがここまで恨まれる事になったんだろうね。
さて、たんまり武装しておいた方が良いだろう。
何が出てくるか分からないし。
本当はマユ姉ぇが出てきてくれれば助かるけど、マユ姉ぇは俺が引き受けた仕事だから致命的な失敗を俺がするまでは出ていかないとの事だ。
◆ ◇ ◆ ◇
そして作戦決行日が訪れた。
その日は夜9時まで俺が家庭教師を行い、その後俺は一旦帰宅をしたふりをして待ち構え、カオリちゃんが入浴している間にペンダントを破壊するのが今回のミッションだ。
「コウちゃん、油断しないでね。いくら女子高生が作った呪物とはいえ、結構力が強そうですもの」
「うん、この為に一杯御札を準備したし、効果的な呪も復習したからね」
さて、久方ぶりの実戦だ。
「こうにいちゃん、わたし、ついていく」
この時、リタちゃんが急にこう言い出したのにはびっくりした。
「え、危ないから来ないほうが良いよ。それに夜遅くなるし」
「だいじょうぶ。わたし、つよい」
「なら、ボクも一緒に行こうかな?」
リタちゃんなら魔法あるけど、ナナは身を守る術は無いでしょ。
どっちにしろ危ないよ、二人とも。
「マユ姉ぇ、二人に何か言ってよ。遊びじゃないんだから」
「そうね、今回はリタちゃんはコウちゃんについて行ってあげてね。ナナはお留守番ね」
「えー、何で妹が良くてお姉さんは駄目なのー!」
こういったところでお姉さんぶりたいんだ、ナナ。
そういえば妹欲しいって昔から言っていたものね。
「リタちゃんは、これからやらなければならない事がいっぱいあるの。多分今度の事はそれの役に立つと思うわ。ナナは、もっと一杯勉強して賢さも力も増やさないとね。今のままだと自分で身を守れないでしょ。修行無しで念話を覚えられたんですから、ナナはもっと強く賢くなれるわ」
「ななおねえちゃん、わたし、がんばる。ななおねえちゃん、いっしょ、がんばろう」
「うん、リタちゃん。ボク頑張るね」
という事で、作戦は一部変更。
家庭教師終了後、俺は一旦家に帰り、リタちゃんを連れて再度カオリちゃんの家の前で待機する事にした。
◆ ◇ ◆ ◇
「はい、今日の授業はお終いです。松坂さん頑張りましたね」
「ありがとうございます」
カオリちゃん、今日もイイモノ見せていただいてありがとうございました。
では、作戦決行!
帰宅前にリタちゃんに電話。
最近リタちゃんはナナとお揃いのスマホを買ってもらったそうで、一生懸命使い方を覚えている処。
念話も便利だけど、文明の利器の方が良い場合もある。
これはリタちゃんも同意してくれている。
同じ効果が出るのならより安価で確実な方を選ぶべきだよね。
帰宅するとリタちゃんは既にヘルメット装備で準備完了。
バイクで移動だから夜風が寒いので長袖、長ズボンに着替えている。
「では、行きますか、リタちゃん」
「うん、こうにいちゃん、いこう」
いやー、おにいちゃんって呼ばれるのうれしーなー。
バイクで移動中、リタちゃんは俺をぎゅーっと抱きしめてくれている。
胸が押し当てられているけど、リタちゃんは妹分。
邪な考えはダメだよ、
でもリタちゃん体温高いから、暖かくて良い気持ちだよ。
松坂邸に到着後、家の前でしばらく待っていると、カオリちゃんのお母様からの電話が入る。
「今、ペンダントを確保しました。処理をお願い致します」
「はい、今すぐお伺いします」
俺達は急いで松坂邸に入った。
「これがペンダントです」
そういってお母様が差し出したペンダントを、俺は受け取った。
前見たときになんとなくそうだろうと思っていたけど、ペンダントはラピスラズリで出来た殻を張り合わせて作られているから、これは開封できそうだ。
なら、ヤバイ中身だけ出して清めたらカオリちゃんには気づかれずに済みそう。
「このペンダント、ここで処理して宜しいですか。そうできるのならカオリさんに気が付かれないで返せそうです」
「はい、大丈夫です。良かったらお庭でして頂けませんか? 家の中で大変なことになっても困りますし」
それはこちらも願ったり適ったり
「では、そのようにさせて頂きます」
「すいませんが、そちらのお子さんは何方ですか? ウチのカオリよりも随分幼いのですが」
リタちゃんを見たらそう思うよね。
「この子は、魔法に詳しい子で今回の事で役に立つと思うので連れてきました。小さく見えますが強いですよ、この子」
「うん、わたし、がんばる!」
リタちゃんの片言日本語を聞いたお母さんはもっと不安になったかも知れないけど、それはしょうがないよね。
俺達は結界を引いた庭にペンダントを持ち出して、ペンダントを分解しようとした。
封は瞬間接着剤でしているっぽいので、お湯を準備してもらって少しペンダントを温めてから、すき間にカッターナイフを差し込んで捻った。
すると、ペンダントは二つに割れて中から1cmくらいの百足が出てきた。
「これってもしかして蟲毒?」
俺が蟲を浄化しようとした瞬間、蟲は急に動き出し巨大化をしはじめた。
「え――、大百足と戦うのかよぉ!」