第139話 康太は公安と仲良くなる:その43「邪神戦争:4」
俺の手の中にある神剣。
それは、かつてチエちゃんのダンジョンで宝物として発見したものだ。
一度だけ鞘から抜いたけれど、その時に剣の正体に気が付き、急いで鞘に戻した。
その剣は全長85cmくらい、鞘も含めて全て金箔で覆われており、握り部分は魚の背骨のようにゴツゴツしている。
柄尻と柄は大きく翼状に広がっていて刃渡り60cmくらい、いわゆる日本刀が成立する前の古代、上古時代の両刃直刀だ。
「コウタ殿、今度こそ神剣の出番じゃ! 国家国民のピンチじゃから、今こそ勇者の手によって抜かれるものなのじゃ!」
チエちゃんは、俺を見上げながら励ます。
「俺なんかでイイの? 俺、って勇者に程遠いよ。弱いし、小心者だし、八方美人だし」
「自分の弱さと向き合える者こそ、勇者の第一歩なのじゃ! じゃから、コウタ殿には十分資格があるのじゃ! のう、母様! 皆の衆!」
マユ姉ぇは、忙しそうに羽ばたきながら攻撃をしているが、俺達の方を見て「いつものヒマワリのような笑顔」を見せてくれた。
リタちゃんも限界以上の魔力をチャージして苦しいながらも、俺を見て微笑む。
前衛で暴れるアヤメさん、カレンさんは、忙しいのに俺にサムアップで応援してくれるし、朧サンも華麗に礼を俺にしながら重力攻撃をリブラにする。
「兄貴! やっちゃえ!」
危なっかしい格好で触手から逃げ回りながらも、火炎を放つタクト君。
防御結界を張ってリタちゃん達や俺を触手から守っているシンミョウさん。
彼女も、苦しいのに俺に向かってウインクしてくれる。
そして、ナナは小物乱舞をしながら、俺を見てヒマワリの笑顔で微笑んで言う。
「コウ兄ぃ、いっけー!」
皆の好意、そして行動をムダには出来ない。
「ああ、やってやるよ! 天叢雲剣よ、俺に力を貸してくれ!」
俺は剣を鞘から抜いた。
そして金色の光が溢れる!
◆ ◇ ◆ ◇
「なんだ! その剣は!」
怯えを含むリブラの声。
邪神に成り下がったから、剣の力が分かるのだろう。
剣を抜いた瞬間から周囲の雰囲気が大きく変わった。
空には黒い雲が現れ、稲光すらし始める。
「お前でも、この剣の事は知っているよな。超古代、魔獣ハイドラの尾から取り出された神剣だ。神々や英雄の手によって幾度となく日本を守る為に使われ、後に政治の道具として代々の『皇』により伝えられた一品だよ」
リブラは後ずさりするように、ずりずりと後ろに移動する。
そう剣に怯えるように。
「これはそのレプリカ、形代だな。一度、壇ノ浦に幼帝と共に水没したものだよ。とある悪魔によって回収されて、今は何処かに保管されている。それを借りてきた」
俺は剣を握って前につき出し、リブラへ向かって歩む。
「まさか、なんでそんなモノをオマエらが使えるんだよぉ! おい、俺に向けるんじゃない! やめろ、やめろよぉ!」
怯え震えるリブラ。
「本来ならオマエなんかには勿体無くて使いたくないけど、今回は特別だ。存分に神剣の威力を味わうんだな」
俺は、少しニヤケながら前に進む。
実は、剣からの負荷が、ものスゴくキツイ。
たぶん、俺の力では5回も振れないだろう。
それを誤魔化す為にも、はったり含めて話しながらリブラに近づく。
「いやだ、いやだ、いやだ! オマエやめろよぉ!」
俺はリブラの間近に踏み込み話す。
「やめないよ。だってお前、やめてって言った人を殺さなかったのかい?」
「やめろぉぉ!!」
リブラの周囲に展開した幾本もの触手の先端が光る。
しかし、俺は気にせず剣を振り上げて袈裟懸に切り下げた。
「ぎやあぁぁぁ!」
その一撃は、金色の光となってリブラを切り裂いた。
ついでに俺に向かって放たれた生体凝集光をも捻じ曲げ、切り裂いた。
神剣の威力は絶大で、リブラ本体から切り放された肉は光の余波で焼き払われ、あっというまに光の粒となり消滅する。
「ぐわぁぁ!」
続いて俺は、剣を左から右へ薙ぐ。
その一撃はリブラを上下に真っ二つに両断し、地面に広がっていた触手は全て光になった。
「やめて、やめて、いたい、いたい、こわい、こわい」
リブラは残った肉を集めて、人型に近い形に変形していく。
「逃がさないよ!」
俺は、這いつくばって逃げていたリブラの背に剣を突き立てた。
「うぎゃぁぁ!」
剣はリブラを内部から焼き払う。
「トドメだ!」
俺はリブラに跨り、剣を捻ってから、横薙ぎでリブラを更に両断した。
「やめて、ヤメて、ヤメて。いたい、イタい、イタイ。ママ、まま、ママぁ」
もうマトモに会話すら出来ないリブラ。
「リタちゃん、後はお願いできる?」
俺は、リブラの元から立ち上がり、リブラを一瞥する。
「お前、一体どんな一生だったんだろうな? 哀れな奴だよ。今度生まれ変わったら幸せになるんだな」
そして俺はリブラから立ち去る。
実のところ、剣からのバックファイヤーで俺の身体と霊力はガタガタ。
全身を襲う激痛に耐えながら、俺は十分リブラから離れた所で神剣を鞘にしまった。
「おにいちゃん、いくよぉ! りぶらよ、ひかりになれー!!」
リタちゃんが杖を頭上に抱える。
そこに存在するは、金色の巨大な魔力弾。
そして、それはリブラへ向かって進み、炸裂する。
ぐわぁぁぁん
着弾後、魔力弾は爆発することも焼くこともしない。
ただ、直径5m程の金色の光の柱を作る。
その光の中では、全てのものが金色に光って消滅していく。
小石も砂も、地面も、そしてリブラも。
すべてが細かく振動して光子へと変換されていく。
そして、光が消えた後には底が見えないくらいに深い穴のみが残った。
「チエちゃん、一応の確認だけど、今ので仕留めたんだよね?」
間違っても、もう一度「やったか!」なんて言わないぞ。
「うむ、リタ殿の『ひかりになれー』で完全にリブラは消滅したのじゃ!」
「じゃあ、勝利で良いんだよね?」
「そうじゃ! コウタ殿、妙に疑い深いのじゃな? もう変なフラグは立たないのじゃ!」
「ぃやったぁぁぁ!」
俺は天に向かって両手を上げて叫ぶ、勝利宣言を。
そして俺は倒れる、全身の激痛に耐えられずに。
「コウちゃん!」
「コウ兄ぃ!」
「こうにいちゃん!」
あっという間に俺は岡本家の女性達に囲まれる。
そこにニヤニヤ顔をしながら近づくチエちゃん。
「コウタ殿、ご苦労じゃったな。さすがじゃな、神剣を4回も振るえるとは」
「うん、バックファイイヤーがここまでスゴイとは思わなかったよ」
しかし、こうやって見たら俺、十分にハーレムパーティの主人公だね。
パーティ内で一番最弱なんだけどね。
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