第138話 康太は公安と仲良くなる:その42「邪神戦争:3」
「やったか!」
俺達は、沸き立つ粘液塗れの肉の山を見た。
「まだまだ甘いですね」
それは、粘液の中から立ち上がった。
「うむぅ、アレで仕留めきれなんだか。」
チエちゃんは渋い顔で粘液塗れになりながらも、格好付けているアルを見る。
ごめん、つい「フラグ」立つような発言しちゃって。
「トリガー」が引かれたままで高揚してたもんだから、「やったか!」なんて言っちゃったよ、俺。
「あのくらいの攻撃で邪神の中でも名高い我が滅びるはずはないですよ。さあ、リブラ、この愚か者達を喰らってしまいなさい!」
しかし、リブラはぴくりともしない。
「おい、何をやっているんだ! この何の役にも立たない石潰しが! オマエは我の言う通り動く『人形』で良いんだよ!」
アルは今まで見せた事の無い焦りを見せる。
たぶん見た目よりもさっきの攻撃が効いている。
なら、このまま攻撃続行だ!
俺は、チエちゃん達と顔を見合わせて頷く。
そして攻撃をしかけようとした瞬間、アルはピクっと震える。
「何故! 何故、我が、ワレが喰われるんだ!」
アルの周囲の肉がアルに巻き付き、アルを縛り上げる。
「おい! オイ! やめろ! オマエは我の僕。1人では何もできないだろ。 ワレを喰らってどうする!」
うぉぉぉん!
空間を振るわせる重低音が肉の山から放たれる。
「オマエガ、オマエガ、ママ、コロシタ! ママ! オマエ、シネ!!」
リブラの悲しい声が響く。
「やめろ、ヤメロ、やめて、ヤメテ、やめて下さい、ヤメテヨォォ!」
アルは、情けない声を出しながら粘液塗れの肉の山に取り込まれていく。
これが、あの邪神の末路か。
「ヤメ、ヤメ、ヤ、ヤ……、ヤメロォォ!!」
最後に絶叫を残し、這い寄る混沌の端末は肉の山に同化された。
「実に愚か者の末路としては、ありがちな最後じゃな。さて、残るはリブラじゃな」
ぷつぷつと泡立つ肉の山はしばらく脈動していたかと思うと、急に収束し始めた。
「皆の衆、こやつ進化するのじゃ! 戦闘再開なのじゃ! 皆の衆、ぬかるな、なのじゃ!!」
俺達はチエちゃんの掛け声で再度戦闘準備をした。
◆ ◇ ◆ ◇
そこには10m程度に収束した粘液まみれの肉の山がある。
そして山の頂点には3つの燃え盛る赤い眼。
「俺の邪魔をするのか、下等なニンゲン共よ!」
邪神を喰らって自らも邪神となったリブラ。
さあ、邪神退治と参りますか!
「お前、どこが上等なんだよ。アル喰ったくらいでイキルんじゃないよ。ママ、ママってイイ歳して恥かしくないのかい?」
俺はリブラを煽る。
「オマエ、言わしておけば俺をどれだけバカにするんだよ! ママは、俺の宝物だったんだ! それをオマエラが居たから、俺が喰わなきゃならなくなったんだ。絶対オマエラを許さない! 骨まで喰らい尽くしてやる。そうだ、この世界全部が俺の敵だ! 星ごと全部喰らってやる!」
「お前知っているかい? それって逆恨みって言うんだよ。お前はもうこの世界に居てはいけない存在だ。大人しく滅べよ!」
俺は、リブラに向けて気弾を連打する。
それが戦闘スタートの合図となった。
「コウタ殿、少し熱くなりすぎじゃ。落ち着くのじゃ。確かにお主の感情爆発のパワーがスゴイのは分かるのじゃが、お得意のクレバーな戦い方が出来ないのじゃ」
チエちゃんが俺を心配して声掛けしてくれる。
確かに、俺はリブラの母殺しを聞いてから激怒し興奮している。
「トリガー」が引かれたままだった。
どうやら俺にとってトラウマな親の死が心に刺さった様だ。
俺の中で「トリガー」が元に戻る。
「ごめん、戦闘準備中だったのに突っ込んじゃったったよ。俺、親の死とか家族の危機ってのがどうもトラウマキーらしいや」
俺は、動きながらチエちゃんに謝る。
「母様から、そのあたりの話は聞いておるのじゃ。やってしもうた事はしょうがないのじゃ。とりあえず、こ奴を倒してから今回の貸しは返してもらうのじゃ!」
ニッコリ俺に笑いかけてくれるチエちゃん。
「あら、コウちゃんってまだ『おっぱい』恋しいのかしら。戦い終わったら、私のでも貸してあげようかしら」
マユ姉ぇも、俺を心配して茶化してくれる。
「気を使わせてごめんね、マユ姉ぇ。マユ姉ぇのは、正明さんとナナ達のモノだから、遠慮しとくね」
「じゃー、ボクのはどう? まだちっちゃいけど形はイイよ!」
「うん、わたしのでもいーよ、おにいちゃん」
「えーとね、皆戦闘中なんだから、お胸のお話は終わりにしない? さっきからカレンさんやシンミョウさんは赤くなっているし、アヤメさんは胸押さえているんだけど」
「姉御、俺は姉御のムネ好きです!」
こんな場面でもアヤメさん好き好きオーラ全開のタクト君。
「しょうがないのじゃ。そういう訳じゃから、皆の衆! 戦闘終了後はコウタ殿を弄り倒す事にするのじゃ! じゃから、全員怪我せずに完全勝利するのじゃ!!」
うん、完全勝利はイイ事だし、変な雰囲気も吹っ飛んだ。
けど、戦闘終了後の俺の運命、どーなるんだろう。
絶対、コトミちゃんにも弄られるだろうし。(笑)
「何、そこで和んでいるんだよぉ! オマエら、シネェ!」
肉の山から幾本ものドリル状の触手が伸びる。
「そのような攻撃、当るはずなし」
今まで遠距離戦闘だったので、出番が無かったアヤメさん。
居合い気味の連撃で、俺達へ迫る触手を全て切り払う。
そして切り払われた触手を焼くタクト君。
「姉御、どんどん切ってよ。俺が再生できないように焼くからね」
「小物達、いっけー!」
ナナから放たれた九十九神さん達が更に触手達を薙ぎ払う。
「チエちゃん、朧クン、空中から攻撃するわよ!」
マユ姉ぇは、孔雀明王呪で生やした光の羽を羽ばたかせて空を飛ぶ。
「光翼呪!」
まるで天使のような神々しい姿から放たれる光の波動は、立ち塞がる邪悪なモノをすべて浄化する。
「ワシらも活躍するのじゃ! 重力球じゃ!」
「御意!」
チエちゃん達が漆黒の球をリブラに放つ。
それは着弾後、一瞬拡大して丸く地面ごとリブラを削る。
まるで「貴方はどこにいますか」と囁く金色の怪物が死んだ時の様に。
「帝釈天 雷斬波!」
カレンさんの長巻に纏わった電撃が、斬撃として放たれる。
それはリブラ本体を切り裂く。
「風天神烈風斬!」
俺も全力を使った真空衝撃竜巻をリブラの眼のある辺りに叩きこむ。
「その程度かよ! 俺はそんなんじゃ傷ひとつもつかねーぞ!」
リブラが吼えるように、攻撃をしてもそれ以上の再生力でリブラは元に戻る。
「うむぅ、怪人体の時もすさまじい再生力じゃったが、それ以上にすごいのじゃ!」
一旦、俺の近くに着地したチエちゃん。
確かに全員の最高クラスの攻撃を喰らっても大したダメージになってない。
今、フルチャージしているリタちゃんの攻撃が効かなければ、俺達はお手上げになってしまう。
「コウタ殿、これはカケになるのじゃが挑戦しては見ぬか?」
チエちゃんが不敵な表情で俺を見上げる。
たぶんこういう時は、上手い手があるんだ。
「イイよ、やってみようじゃないの!」
「うむ! じゃ、コレを使うのじゃ!」
そう言って、チエちゃんは空間に穴を開けて手を突っ込む。
そして金箔が貼られた剣を取り出して、俺に手渡してくれた。
「これって!」
「そうじゃ、ワシらが使える最大威力の神器じゃ!!」
俺の手の中には、かつて一度俺が鞘から抜いた神剣があった。
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