第137話 康太は公安と仲良くなる:その41「邪神戦争:2」
そこは延々と広がる草一つ生えぬ大地と何もない灰色の空、そしてその中心にそびえ立つ粘液塗れの肉の山。
「うわー、ここって外側から見たよりも随分と広いんだね。ボク、てっきりアイツでぎっしり詰まっているんじゃないかって思ってたよ」
ナナが周囲を見回しながら感想を述べている。
「俺も、もう少し狭いと思っていたよ。でも、これなら存分に戦えるよね」
「コウタ殿、ワシをなんだと思っておるのじゃ? ちゃんと考えて行動しておるわい。戦わずに勝つのなら、次元回廊作って中性子星にでも叩き落とした方が確実じゃ。そうもいかんから、バトルフィールド作ったのじゃ!」
ニヤケ顔で俺に文句を言うチエちゃん。
確かに仕留めるなら、中性子星に叩き落とせば超高熱と超重力で確実に倒せる。
ブラックホールじゃないから別空間への「穴」も空いていない上に、星の周辺では超重力で空間が歪んでいるだろうから、まずテレポートも出来まい。
こちらは「門」が作れるギリギリのところまで次元回廊で運んで、放り出せば良いだけ。
実にエゲツない封印・抹殺方法ではあるね。
「それは最後手段に取っておこうよ。まあ、こいつくらいなら太陽に落とすだけでも滅ぼせそうだけどね」
「そうなのじゃが、コヤツ少々大きくなりすぎじゃ。このサイズだとワシでは結界内に封印するのがやっとじゃ。大変じゃが、削り倒してしまうしか無いのじゃ」
もう小山といって良いほどにまで増殖してしまった肉の塊。
こうなると滅ぼしてやるしかあるまいけど、確かに大変だ。
「で、どうやって倒すの? 全部削るのは俺達全員掛りでも厳しいでしょ。『核』になっている部分があるのなら、そこに集中攻撃が楽だけど」
「うーん、コアっぽいのはあるけど、だいぶ奥の方だよ」
ナナが肉の山を凝視して指さしながら言う。
「ナナ殿、コアが見えるのか? ワシでもぼんやりとしか分からんのじゃが」
「うん、ボク、コトミお姉ちゃんに色々教えてもらったから、気配の強弱でなんとなくだけど分かるんだ」
すさまじい妖気が充満した結界内で、強弱が分かるとはスゴイ。
俺なんかは、感知能力は高くないから何も分からない。
しかし、ナナの最近の進化は止まる事を知らない。
それは、リタちゃんにも言える事だ。
可愛くて愛しい妹達の進化を、俺は頼もしく且つ楽しみに思う。
「じゃあ、おねえちゃん達。あそこをどっかーんってしたらいいの?」
リタちゃんは早速杖に魔力チャージをし始めた。
「うむ、では各自の最大奥義をあそこに叩き込むのじゃ。朧よ、マーキングを頼むのじゃ!」
「御意! ナナ様、感覚のリンク宜しいですか? お手を拝借願いたいです」
「うん、いいよ! 朧サン、ここだよ!」
ナナの指さす手を握り、同じ方向を見る朧サン。
「はい、確認できました。ナナ様、どうもありがとうございました」
ナナに対して華麗に礼をした朧サンは、ターゲットポイントたるコアへ目がけて何かを放り込んだ。
「今、ターゲットにナノチップでマーキングをしました。光るようにしていますので、そこへ攻撃をお願い致します」
確かに俺にも目標は確認出来た。
さて、どんな技を打ち込もうか?
貫通力があるのが良いようだけど。
「少し攻撃をお待ち願えないでしょうか?」
皆が攻撃準備を始めた時に、ソレは現れた。
「重役出勤じゃのう、アルよ」
不遜気に空中のアルを見上げるチエちゃん。
「いえいえ、皆様の展開が速すぎるんですよ。どうですか、我が作り上げし擬似邪神は。ここまで成長するとは、我も予想外でした。母親を殺してしまった事による感情の爆発と母親の亡骸を取り込んだのが良かったのでしょう」
なんだって!
俺の中で「トリガー」がカチリと引かれた。
俺には、両親が居ない、交通事故で2人とも亡くなったからだ。
両親を亡くした俺は、祖父母やマユ姉ぇ達に育てて貰ったから、今の俺になれた。
だから、俺は家族を失う事がとても怖い。
マユ姉ぇやナナ、リタちゃんを守る為には何だってやってやる。
アルは、リブラに母親殺しをさせた上に喰わせたのか?
確かにリブラは救いようも無い悪鬼だったが、それでも母親殺しをさせる必要なんて無い。
俺が望んでも決して会えない母親を殺させたアル。
邪神だろうが魔神だろうが関係ない。
俺は、お前だけは、オマエだけは絶対許せない!
「オイ! 今、なんて言ったんだ! まさか、オマエはリブラを追い込んで母親を喰わせたのか?!」
俺は怒りの感情をアルにぶつけた。
「あら、なんで敵の貴方が怒るんですか? コイツなんて元々石潰しの役立たず、初老になっても母親に甘えて家庭内暴力をする引きこもりのバカですよ。社会の何にも役に立たないモノを家族纏めて処分したんですから、褒められはしても怒られる事は無いでしょう」
俺は、アルの何も悪くないといった顔をしながら吐く台詞に嫌悪し、更に激怒した。
「じゃあ、オマエも社会のジャマだ、死ねよ!!」
俺は霊力を右手に握った三鈷杵に全て込めて、怒りの感情ごとアルに叩き付けた。
「ぐぅう、まさかこの中で一番弱い貴方がここまでやるとは!」
俺の力は|真空を伴った竜巻衝撃波となってアルを襲う。
アルは防御結界を張って、俺のタイフーンを受け止める。
「うぉぉ! ナウマク サンマンダ ボダナン バヤベイ ソワカ! 風天神烈風斬!!」
俺は叫ぶ!
全力をもって、このニヤ付く邪神を滅ぼす為に。
「コウちゃん、私もいくわ! オン マユラ キランデイ ソワカ! 孔雀明王 光翼呪!!」
マユ姉ぇは孔雀明王のお力を借りて、背中に光り輝く翼を生やし、翼の羽ばたきから「光の疾風」を俺の攻撃に合わせてアルに叩きつける。
「ボクもいくね! ガトリング望遠鏡!!」
ナナは望遠鏡九十九神サンを8体に分身させてガトリングガンの様に連続でレーザーをアルに打ち込む。
「わたしも! ふっとべー!!」
リタちゃんは10個大玉収束ビームを撃つ。
「私達も!」
「はい!」
カレンさん、シンミョウさんも揃って詠唱をする。
「ナウマク サマンダ ボダナン インダラヤ ソワカ! 帝釈天 雷撃波!!」
天からアルに向かって雷撃が降り注ぐ。
それは正面に展開したシールドには干渉せず、そのままアルを焼く。
「おうぅぅ、このままでは不味いですね。う! 何故逃げられぬ!」
アルは焦る。
空間跳躍が出来ないからだ。
「逃げられぬよな。オマエの周囲を見るのじゃ!」
チエちゃんは、ほくそ笑む。
アルの周囲には、チエちゃんが作った暗黒の重力球がいくつも浮遊している。
「そのまま超重力で押し潰れるのじゃ!」
そして重力球はアルを覆いつくす。
「うぉぉぉ!」
俺は絶叫して、呪文のパワーを上げて叩きつける。
「ぐわぁぁ!」
アルは空中で立ち止まれず、喰らった呪文の勢いで後ろに飛ばされる。
そう、粘液塗れの肉の山になったリブラの「コア」の方向に。
どびちゃ!
アルは、飛ばされた勢いのままリブラにめり込んでいく。
俺達はリブラ毎アルを滅ぼすつもりで、呪文を叩き込んだ。
ずどぉぉ!
地震のような衝撃が結界内に響いた。
「やったか!」
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