第135話 康太は公安と仲良くなる:その39「悲しき親子」
薄暗くて物が散乱する部屋の中、ベットの上で悶える男がいる。
「しょうがないヒトですねぇ。自信満々に行って逆にやられちゃうなんて。普通予告なんてしていく訳無いでしょう。まんまとワナに嵌って両腕を失うなんて、バカですねぇ」
半分空中に浮いてベットで悶える男を嘲笑する魔神、いや邪神。
「くそぉ、あんなに強いなんて聞いていないぞ。俺は無敵の筈じゃないのかよ!」
苦痛に悶えながら悪態をつく男、いやリブラこと佐沼 アキラ。
「我は、一言も無敵だなんて言っていませんよ。ヒーローに変身できるとしか言いませんでした。そこから先は貴方の努力次第。しかし、努力も嫌いな上に知性に欠けてしまうとは情けないです」
リブラをまるでモノのように見て、ため息をつくアル。
「駆け引きも全くダメですし、人とこれまでにどれだけ話してきたんですか? まさか親以外と話したことが無いんですか? 勉強も仕事もせずに閉じこもっていては、貴方は石潰し以外の何者でもありません。貴方なんて『石』との適正が良くなければ、我が見向きもしない存在なのですよ」
リブラをとことん嘲笑するアル。
「なんだよ、話が違いすぎるじゃないかよ。まるであいつらがヒーローじゃないか。これじゃあ俺の方が悪役じゃないかよぉ!」
「あら、今頃気が付いたんですか? 喜んで殺戮をするヒトがヒーローな訳ないじゃないですか。もう手遅れなんですよ。さあ、その腕を再生する為に、相性のイイ『肉』を探しますか」
くっくっくと意地の悪い顔をするアル、まさしく嘲笑する邪神そのものである。
「アーちゃん、一体どうしたの? 昨日から変よ。いきなり外に行ったかと思うと、知らない間に部屋に帰っているし、大声を上げたり、別の人の声がしたり。もしかしてお友達が来ているの?」
昨夜から大声を出し続けている息子の事が心配になって、部屋の前に来た老婆。
今までも拒否され罵倒されてきたが、息子の行く末が心配で80代になっても内職をして息子の好きなものを買ってあげようとしてきた。
幼い頃から育てにくく、周囲とうまくやっていけずに引きこもりになってしまった息子、老婆は自分の育て方が悪かったのではないかと長年悩み、数年前に亡くなった夫に罵倒されても息子を守ってきた。
しかし、息子は一向に治る事も無く、母親に対しても罵倒と悪態しかつかない。
夫が生きていた頃には、夫と大喧嘩をして警察が来た事もあった。
その後も気に入らなければ、暴力を振う息子。
壁や廊下の床には、いくつもの穴が空いたままだ。
このままでは自分が死んだ後、社会に迷惑をかけてしまうのではないかと心配をしていた。
「ババァ、うるせーんだよ。今、無茶苦茶痛てーんだよ。オマエの声聞いたら、もっと痛くなるんだよ。こっちに来んじゃねぇ!!」
「あらあら、母親にまで悪態とは。愚かですねぇ」
手を額にあてて呆れ帰るアル。
「アーちゃん、痛いの? 大変、救急車呼ばなきゃ! 見るから、早くドア開けて!」
「くそー、絶対来るんじゃねぇよ! オマエには関係ねーよ。ババァ、部屋に入ってきたら殺すぞぉ!!」
「いやよ、アーちゃん。そのままじゃ大変なのよ。早く病院行かなきゃ! だからドア開けてよ!」
どんどんとドアを叩き、息子にドアの解錠を訴える老婆。
「かんけーねーって言ってんだろ! クソババァ、いい加減にしろよ!!」
「あらあら、困った事ですねぇ。そうだ、こんな手がありましたか」
アルは邪悪な笑みを浮かべて、部屋の鍵を解除してドアを開けた。
「くそぉ、オマエ勝手に何してるんだよぉぉ!」
アキラはアルに吼えるも、もう手遅れだった。
ドアが開いたのを確認した老婆は、老人とも思えない勢いで部屋に飛び込んできた。
「アーちゃん!!」
そして老婆は見る、無残に全身が焼け焦げて両腕が欠損している息子の姿を。
「ああ、ああ、アーちゃん!! 一体どうしたの! 腕はどこにいったの? 早く病院行かなきゃ死んじゃうわ!」
無残な息子の姿を見て混乱し狼狽する老婆。
「くそう、見るんじゃない。俺は天才で無敵な王様なんだよぉ。こんな惨めな姿見るんじゃねえよぉ!」
泣きながら母親を拒絶するアキラ。
「アーちゃん、アーちゃん!」
しかし、愛する息子の無残な姿を放置できない老婆は、涙を流し息子に抱きつく。
「くそう、ババァ! 見るんじゃねぇ! 殺すぞぉ!」
トス。
それは軽い音を立てて、老婆の胸を貫いた。
「え、アーちゃん……。」
それはアキラのベルトから伸びた「爪」。
鋭い爪は、簡単に老婆の心臓を貫いた。
それを驚きの目で見る老婆。
「アーちゃん……」
コフっと血の塊を吐き、胸から大量の血を流して動かなくなる老婆。
何が起こったのか理解できておらず放心していたアキラは、無残な母親の姿を見てようやく己がしてしまった事を把握した。
そう、母殺しをしてしまった事を。
「ババア、母さん、母ーちゃん、ママァ! あ、あ、あ、ああ、あああ、ああアアア、ああアアああ!!!」
己がしてしまった事に耐え切れず絶叫をするアキラ、いやその姿はリブラへ変身しつつある。
「あらら、やってしまいましたか。貴方が悪いんですよ。殺すぞなんて言うからベルトが反応してしまうんですよ。まあ、でもイイでしょう。母親なんですから、再生の為の『材料』の肉としては最適ですもの」
この惨劇を見てなお嘲笑するアル。
「ああ、ああ、あああああ、あああああ!」
もはや意味のある言葉を話さないリブラ。
母親だった遺体を融合させて、姿が人体の枠からどんどん離れていく。
そしてリブラは、まるでスライムやショゴスの様に全てのモノを飲み込んで巨大化していく。
「これは、暴走してしまうかも知れませんねぇ。でも理性無い方がバカよりも強いですから、いいかもしれませんね」
リブラの肥大化は止まらず、部屋一杯になった後、家屋全体に広がっていく。
「さて、少し離れておきますか。これだとすぐに彼らが来ちゃいますねぇ」
邪悪な笑みを貼り付けたまま、空中に逃げるアル。
「さあ、邪神戦争と参りましょうか」
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