第131話 康太は公安と仲良くなる:その35「リブラとの戦い:4」
膝を着いてダウン・ピヨピヨ状態のリブラに、タクト君の発火能力が命中する。
「うぉぉ!」
顔を燃やされているはずなのに、声を出して苦しんでいるリブラ。
よく見ると横腹部分に昆虫の呼吸器官、気門が並んでおり、そこからも呼吸をしている様だ。
「皆、リブラは横腹にある気門からも呼吸しているから、そこも狙って!」
「はい、皆さん息を止めてくださいね。行きます! ノウマク サマンダ ボタナン センダラヤ ソワカ! 月天酒精呪!!」
俺の指摘を聞いたシンミョウさんから放たれたアルコール散布呪文が、リブラを襲う。
この呪文、チエちゃんが作った迷宮第一層で対小鬼王戦で使用された酩酊呪文。
「うむぅぅ!」
リブラは周囲に散布されたアルコールを含む空気を気門から吸い込む。
「タクト君、気門に向けて着火!」
「あいよ、兄貴!」
タクト君によって放たれた火花はアルコールに引火し、リブラを外側内部共に焼く。
「ぎゃぁぁぁ!」
気門内部や口から煙を吐き出しながら、全身丸焦げのリブラ。
うん、ちょっとやりすぎたかもしれない。
確実に呼吸器官を全損させちゃった。
「これ、死んじゃうかも」
「大丈夫じゃ、コウタ殿。あれでやっとバリア含めて防御能力を全部削り切ったのじゃ。まあ、内部から焼けたのは想定以上に効いたのじゃがな」
既に幼女形態に戻り、後方にいる俺達の元へ朧サンと共に下がるチエちゃん。
「チエちゃん、朧サンお疲れ様でした。チエちゃんってまだ全力出してないよね。ハリセンなんて遊んだんじゃないの?」
「ハリセンじゃが、バリアをぴっぺぐのに使うたんじゃ。剣じゃチマチマとしか削れなんだから、隙をついてぶっ叩いたのじゃ!」
まあ、理屈は合うよね。
「でも態々ハリセンにしたのは、面白さ重視だよね」
俺は、じーっとチエちゃんの顔を見る。
それに耐えきれないチエちゃんは、白状した。
「そうじゃ、遊んだのじゃ! 悪いのかじゃ!」
「いいえ、効果抜群だから最高だよ、チエちゃん。けどこれって、俺の出番必要ないんじゃないのかな?」
「いや、そうでもないのじゃ。あ奴は圧倒的な防御力、体力、生命力を持っておる。その上再生能力持ちじゃ、削り過ぎくらいでちょうど良いのじゃ!」
確かにリブラを見ると、表面装甲が徐々に再生してきている。
これは長期戦の構えが必要だ。
そういう意味では、かわるがわる襲い掛かれる俺達の方が優勢だね。
「では、行きます! タクト君、もういいわよ」
そして今度はマユ姉ぇ達がリブラに襲い掛かる。
「こんどはババァかよ。俺を馬鹿にするなぁ!!」
吠えて毒づくくらい、まだまだ体力を残しているリブラ。
しかし、マユ姉ぇの地雷を踏みぬいたからには、もう終わりだ。
「へー、自分より年下の女性をババァ呼ばわりするんだ。命惜しくないのね」
マユ姉ぇの冷ややかな目は、普段の「ヒマワリ」のような笑顔を見慣れた、そして「恐怖の殺気」を知る俺達にとっては恐怖でしかない。
チエちゃんに至れば、「ひぃ!」と震え上がり、思わず横にいた俺にしがみつく。
「チエ姉ぇ、コウ兄ぃに抱き付くなんてどうしたの?」
「うん、ちえおねえちゃん、だいじょうぶ?」
妹達が俺とチエちゃんを覗き込む。
ナナは意地悪そうな目で、リタちゃんは純粋に心配そうな目で。
「だって、母様のアレ、ワシ死にとうないのじゃ!」
しっかりトラウマ抱え込んでしまったチエちゃん。
その怯えた姿が可哀そうになり、俺はそっと抱きしめる。
「チエちゃん、大丈夫だよ。まだマユ姉ぇ、正気だから。それに俺達が後ろにいるんだからアレはやらないよ。ナナ、あんまりチエちゃんをイジメないでね」
「はーい、ボクも本気でチエ姉ぇをいじめる気はないよ。チエ姉ぇならコウ兄ぃを貸しても良いし」
あら、ナナってチエちゃんにちょっと嫉妬してたのね。
俺達がそんな事を話している間に、マユ姉ぇ&カレンさんがリブラに襲い掛かっていた。
「くそー、ちょこまかと!」
2人とも瞬動法で分身を出しながら、リブラへ向かって攻撃を行う。
そして決してリブラの攻撃範囲には入らない。
2人の得物は、本気モードの光兼さんによる薙刀
と、チエちゃん謹製の万能変形武具による長巻。
比較的距離を取っての攻撃で、接近戦しか想定していなかったリブラを翻弄する。
どんどん削られていくリブラ、再生能力を超えた攻撃を連続で喰らっているうちに徐々に再生能力が落ちていく。
「あら、オバサン呼ばわりする割には、もう足がふらついているわよ?」
「そうですね。偉そうに言う割には強くないですね。まだチエお姉様が作った単眼巨人の方が手ごわかったですね」
「ちくしょぉぉ!!」
リブラはよろめきながら吠え、さっきチエちゃんにレーザーを発射した時と同じ構えをする。
「マユ姉ぇ、レーザーだ!」
リブラは顔を右に向けるとレーザーを発射し、照射している2秒程度の間に首を左に回し、レーザーによる薙ぎ払いを行った。
レーザーは俺達の元へも来たが、あらかじめフル装備展開状態のシンミョウさんによる防御結界とナナのタイル小物によって完全に防御された。
「残念ね、バカな子。同じ技は、聖闘士には二度は通じないのよ」
マユ姉ぇとカレンさんは完全に無傷。
なんらかの方法で防ぎ切ったらしい。
しかし、突っ込んでイイかな、マユ姉ぇって聖闘士な訳ないでしょ!
「なんで、今ので死なないんだよぉ! それになんでオンナが聖闘士なんだよぉ!」
うむ、どうやらリブラは古いオタクネタが通じるらしい。
「だって、当らなければどうということもない、ですもの。それと最近のリメイクでは女性聖闘士増えているのよ」
赤い彗星の台詞で煽るとは、イジワルなマユ姉ぇ。
その上、沢山リメイクされた聖闘士ネタで弄るとは。
さっきの「オバサン」発言でえらくお怒りだよね。
そういえば、さっきマユ姉ぇはリブラの方が年上って言っていたけど、何の根拠があっての事なんだろう?
確かに微妙に古いネタには反応あるけど、新しいネタへの反応薄いし。
「そんなの知るかよ! オマエ、シャーにでもなったつもりかよぉ!」
うーん、ガンオタは間違いないけど、それだけでは年齢判断できないよね。
俺やナナでも知っているネタだし。
怒り心頭なリブラは、強引にマユ姉ぇに突撃する。
「残念ね!」
しかし、マユ姉ぇお得意の瞬動法脚払いで、転んで顔から地面にぶつかるリブラ。
「カレンちゃん、アレお願い!」
「はい、お姉様! オン ハンドマダラ アボキャ ジャヤデイ ソロソロ ソワカ! 不空羂索観音菩薩 捕縛呪!」
カレンさんの手に持っている縄、羂索が幾重にも分裂して転んでいたリブラを幾重にも縛り付ける。
「おい、コラ、なんだよ、この紐は。引きちぎっても、まだ絡まるなんて!」
ただの力技では絶対に解けない捕縛縄、あの単眼巨人ですら一網打尽になるんだから、リブラ程度じゃどうしようもあるまい。
「皆、本気で行くから防御してね。光兼よ、主たる我が命ずる。風神の力を纏いて我らに仇名す怨敵を滅ぼすべし!」
〝御意!!〟
うわお、本気の呪文詠唱からの大技だよ。
対爆姿勢を急いでとらなきゃ。
「皆、対爆姿勢宜しく!」
「ナウマク サンマンダ ボダナン バヤベイ ソワカ! 風天神烈風斬!」
マユ姉ぇの持つ薙刀の刃先に、すさまじい勢いの竜巻が巻き付く。
その様子は、まるでどこかのキンピカ英雄王の持つドリル剣の様だ。
そして腰を下げて薙刀を持つ右手を後ろに引き絞り、そっと左手を添える。
その姿は槍を持って突撃する形によく似ている。
「行きます! 滅びよ、リブラ!!」
そしてマユ姉ぇは3身に分身した後、3身から渦を巻く真空衝撃波を同時に叩き込んだ。
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