第130話 康太は公安と仲良くなる:その34「リブラとの戦い:3」
「まさか、王様の俺をハメたのかよ!」
リブラが俺達に向かって吠える。
「そうだよ。お前自分からいつ襲うなんて宣言するバカだもの。いくらでもワナ仕掛けられるのは当たり前じゃないか」
俺は容赦なくリブラを煽る。
「そうじゃ、この建物内にお主が入った時点で『アリジゴクに落ちた蟻』なんじゃよ」
チエちゃんも煽る。
「くっそー、お前ら皆殺しにしてやる!」
「下品な王様じゃな。さて、出来るかな、のじゃ!」
チエちゃんが吠えると共に部屋の様子は一変して、遠く地平線まで何もない地面が広がる異空間に変わった。
「何! ここは何処だ! 特捜部じゃないのかよ!」
周囲を見回すも、もはや逃げ場すら失って狼狽するリブラ。
「ここはワシらの内、誰かが作った結界・異空間じゃ。この建物は、あらかじめワシらの手によって結界と重なって存在するようにしておいたのじゃ。お主が建物内に入った時点で、もはや逃げられぬ訳じゃ」
チエちゃんは、お得意の「無い胸」を張り出してのドヤ顔だ。
「じゃから、お主はワシらを誰も殺す事は出来ん。誰かを殺した時点で、この異空間は永久に閉ざされた閉鎖空間になるのじゃ!」
もちろん俺達は、この結界がチエちゃんと朧サンの共同作業という事は知っている。
しかし、リブラに揺さ振りを掛ける事で、彼の攻撃を躊躇させる事が出来る訳だ。
「うぬぬ。まあいい! 様はオマエら全員生殺しにして、ここからの脱出方法を吐かせればいいんだからな」
よし、これでこちらの策にリブラは、ますます嵌った。
これで即死攻撃は無くなったぞ。
「それが出来るかな、のじゃ! ここに居るのは幼かろうが凄腕の術者達じゃ。お主のようなハンパな初心者とは違うのじゃ! さて、では殺り合うとしようかの。おっと、お主はワシらを殺せぬか。ワシらもお主は殺さんから安心せい!」
そう言ってチエちゃんは、悪魔形態に変化する。
「朧、初手はワシらで掛るのじゃ!」
「御意!」
悪魔姿のチエちゃん、黒執事姿の朧サンが、リブラに襲い掛かる。
◆ ◇ ◆ ◇
「バカが、建物内に入ってきたのじゃ! 皆の衆、そろそろ準備するのじゃ!」
チエちゃんの掛け声で戦闘準備をする俺達。
「まず先方がワシと朧じゃ! ここで色々やってみてリブラの手の内を見るのじゃ! 次は、母様とカレン殿、ここでも手の内探りながら、とことん削るのじゃ! お次はコウタ殿・アヤメ殿じゃ! 手足の一本を切り落としても良いのじゃ! 最後は、ナナ殿・リタ殿。手加減無しに最大攻撃を叩き込むのじゃ!」
うわー、えげつない連続攻撃だよ。
最初の方で手の内晒させて、後は複数手段で手を替え品を替え攻撃。
リブラを休ませる事無く、削り殺す気だよ、これ。
「シンミョウ殿は防御呪文や治療呪文で後方支援を、タクト殿は支援放火をお願いするのじゃ。これでどんなに防御能力・バリアがあろうとも、必ず削り倒せるのじゃ!」
そういえばリブラって最初の襲撃の際に、拳銃のたぶん.38SP系弾を喰らってもなんともなかったんだ。
それなり以上の防御力があると思うのが当たり前か。
「今、リブラは階段を歩いて来ておるのじゃ! 監視カメラに写らんとこを見るに、熱光学迷彩能力をもっておるようじゃな。まあ、隠行系の気配や魔力を漏らさぬ術を持っておらんから、ワシらには筒抜けじゃがな」
なるほど、最初の襲撃の際にも光学迷彩で近づいてきて、逃げる時もそうだったんだね。
「じゃあ、皆怪我しないで勝ちましょうね。後、たぶん逮捕したら『アル』出てくるから注意して。」
マユ姉ぇからのエール、怪我しないでというのが、実にマユ姉ぇらしいね。
「ぐふふ、もし『アル』が来たのなら好都合じゃ! ワシには秘策があるのじゃ! 今度こそ根城を見つけて退治するのじゃ!」
鼻息の荒いチエちゃん、やる気まんまんだ。
そういえば、俺達チエちゃんの戦闘は幼女形態のでしか見たことは無いけど、今回はどうなんだろう?
「チエちゃん、まさかその姿で戦うの?」
「いんや、久しぶりに本気出すのじゃ!」
ニヘラと得意げに笑うチエちゃん。
戦いに向かう心持ちとしては不謹慎だけど、チエちゃんの本気が見えるのなら楽しみかも。
◆ ◇ ◆ ◇
「おい、なんだよお前は!」
リブラがチエちゃんが悪魔形態になったのを見て驚く。
「自分が変身しておるのに、どうして相手が変身した程度で驚くのじゃ。アホじゃなぁ」
チエちゃんはリブラを挑発しつつ、まずは距離を取ってプラズマ火球で様子見攻撃をする。
「そんなチャチな攻撃なんて!」
リブラは火球を殴って撃ち落としながらチエちゃんに近づく。
撃ち落とせない火球は、リブラ直前で「見えない壁」に当たって弾ける。
「我が主には、近づけさせません!」
リブラの前に立ちふさがる朧サン。
「じゃまだよ!」
朧サンに殴り掛かるリブラ、しかし朧サンはひらりと攻撃を躱し、逆にリブラの腹に右掌底を押し当てて衝撃波を叩きつける。
「ぐわぁ!!」
衝撃が内臓まで浸透したのか、その場で蹲るリブラ。
「バリアはあるも接近戦には非対応、そして表面は固いのですが、内部は人体と変わらないようですね」
いつも通り黒執事的な冷静さで状況把握をする朧サン。
もしかして朧サンって、大悪魔形態よりも人間体の方が強くない?
「くそう。どけよぉ!」
リブラは両手の甲から3本づつ、50cm程の「爪」を生やし、朧サンに向けて薙ぎ払う。
しかし、油断は一切しない朧サンは、瞬間移動で爪の間合いから遠ざかる。
「この攻撃は、初めてですね。これが新しく得た能力でしょうか。しかし、暗器としては早く使ってしまいましたね。これでは、警戒されて効果半減です」
「どうして当たらないんだよぉ!」
リブラを煽りつつ説明してくれる朧サン。
こうやって手の内を全部晒させてくれると、後で戦う俺達は非常に助かる。
爪を手の甲から生やすヤツって、アメコミでのアイツとかコインを集めていたライダーが居たかな?
「朧、お主だけ遊んでは面白うないのじゃ。ワシにも遊ばせるのじゃ!」
「御意」
今度は、チエちゃんが交代して攻撃を開始する。
「さて、ワシは剣でお相手するのじゃ!」
チエちゃんは右手に魔力で作った刃渡り1m強の真っ黒い両刃剣を握り、リブラに切りかかる。
「この巨乳ビッチがぁ。王様の俺が負けるとでも思っているのかよ!」
リブラは、蹲った状態から立ち上がり、上段から繰り出されるチエちゃんの剣に対して爪で切り結ぶ。
しかし、あっさりと両断されるリブラの爪。
「ほいほい、そんなヤワな爪じゃ、ワシの剣すらも止められぬのじゃ!」
容赦なくリブラに切りつけるチエちゃん、リブラの装甲は爪よりは強固みたいだけれども、どんどん傷が刻み込まれていく。
「ビッチババァ、いい加減にしろよ!」
リブラは大きくステップバックしたかと思うと、咆哮を上げる。
「死ねやぁ!!」
リブラは気合を入れ踏ん張ったかと思うと、彼の額にある3眼から光が迸り、その光はチエちゃんに向かった。
光速で放たれた生体凝集光はチエちゃんに直撃した、……かに見えたが、そこには「あっかんべー」をしたチエちゃんがいて、すぐに姿が消えた。
「残念なのじゃぁ!」
既にチエちゃんは、リブラの後方に回り込んでおり、剣ではなくて2mを越える巨大な「ハリセン」を握っていた。
おそらく、以前俺達に見せてくれた、次元鏡映分身を使っての回避だろう。
その後の行動は誰もが予想出来る。
そう、全力でのドツキ漫才だ。
「切ってダメなら、ドツくのが一番じゃ!」
リブラの頭部にチエちゃん全力でのハリセンが叩き込まれる。
一瞬、バリアとハリセンがぶつかるが、バリアは簡単に砕け散る。
ずどぉぉん!
ハリセンとは思えぬ重低音と風圧、いや爆風が発生した。
アレ、衝撃波が発生していたから、ハリセンの末端速度は音速超えていたよね。
「きゅぅぅ」
そんな打撃を喰らっては、いくら重装甲であっても衝撃は内部に通る。
完全に脳震盪で膝を着き、ダウン状態になったリブラ。
「タクト殿、リブラの顔を狙って燃やすのじゃ! 母様、そろそろバトンタッチ良いか?」
「ええ、良いわよ。カレンちゃん、フォロー宜しくね」
「はい、お姉様!」
あー、これって一方的な「なぶり殺し(殺しません)」だよね。
でも戦闘としては、それが正解。
どこかの老兵が言っていたそうだけど、「殺し合いはやらない、一方的な殺しをする」って。
自分の生存を考慮した戦いをしないとね。
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