第129話 康太は公安と仲良くなる:その33「リブラとの戦い:2」
「ほう、コイツ俺をご指名かよ。そんな一文にもならん事する訳ないじゃん」
リブラことアキラは、掲示板の自分関連スレッドを見ながら呟く。
スレッド内容はリブラ賞賛が3割弱、関係ないのが2割、残り5割が反リブラ。
今までのように全否定されるよりは、アキラにとってはマシ。
自演せずとも3割も賛同者がいる事が嬉しい。
世の中への不満を持つ者達がリブラの思想に同意したのであろう。
反対者の中には、大胆にもリブラとの対決を要求するものすらいた。
どうせ冷やかし半分だから、アキラがリブラの姿で現れて少々怖がらせれば逃げていくだろう。
そうアキラは、簡単に思っていた。
「その前に次の仕事だよ。今度は脱税・証券取引・汚職疑惑の大会社会長か。コイツ死刑にする程の罪じゃないけど、ビジネスだもんな。それにそんなに儲けるんだったら、俺に金くれよ。どうせ殺すんだ、少しくらいは金盗ってもいいよな。恨むんなら、俺じゃなくて依頼者を恨むんだね」
しばしばする眼を押さえながら、モニターを眺めるアキラ。
「次は、新しいワザ出来たからそれでかっこよくヤルかねぇ。じゃあ、マスコミに予告状出すか。依頼には無いけど、俺がカッコよく目立つ為にはマスコミ呼ぶのが一番だし、無能な警察には俺を捕まえる事なんて出来やしない。依頼通りじゃ地味すぎて王様な俺のよさが目立たないじゃん。ぐふふ」
下品な笑いをするアキラ。
その脳内には、賞賛され持て囃される己の姿しか見えていない。
◆ ◇ ◆ ◇
「コイツ、本当のバカじゃ! まさか自分から予告状をマスコミに出すとは!」
チエちゃんはアヤメさんから電話を受けて、びっくりしている。
俺は電話が終わったチエちゃんに話す。
「どうしたの? 今の感じだと『リブラ』が自分からマスコミ宛に予告状を出したように聞こえたけど、そんなバカな事したの?」
「うむ、そのまさかのバカなのじゃ。誘いに乗りはせんじゃったが、自分から襲撃日時・場所を指定してきたのじゃ!」
えーっと、どれだけ自意識過剰なんだか。
マスコミに連絡すれば警察や襲撃先に連絡が行く。
そうなれば自分はワナの中に飛び込むのも同じだ。
こっちからワナの準備をしていたら、自分で作った落とし穴に落ちるようなバカだ。
「おそらく初回の襲撃がうまくいきすぎたのと、その後マスコミでひっきりなしに注目を受けたんじゃ。それに酔いしれたんじゃろうな」
「なら、ここが勝負どころかな? 戦力を一気に投入してアイツを逮捕しちゃおうよ」
しかしチエちゃんは渋い顔。
「問題は襲撃場所が場所なのじゃ。真っ昼間の東京地検特捜部を指定しおった。ターゲットは疑獄事件になりそうになっておる商社会長じゃ。彼の取調べ時に暗殺するとの事なんじゃと」
東京地検特捜部とは経済犯罪、政治汚職を中心に捜査する部署。
過去、ロッキード事件等を捜査した有名なところだね。
調べたところによると、現在は千代田区九段の東京地方検察庁九段庁舎にあるらしい。
「あんな日本を代表する重要拠点を襲うなんてバカぁ?」
「うむ、想像以上のバカじゃ。しかし、こちらはSATを大分失っておるから厳しいのぉ。戦力不足じゃ」
俺は手持ちの「カード」で使えそうなものを考えた。
「チエちゃん、こんな手はどうかな?」
「ふむふむ、それは面白いのぉ。ワシと『朧』2人で協力すれば可能じゃ。それなら絶対逃げられる事もあるまいし」
「いいでしょ、戦力ならマユ姉ぇに頼んで『御山』から出してもらおうよ。カレンさん達なら頼りになるし、経費は公安に見てもらえば良いでしょ。最悪、検察庁にも見てもらおうよ。庁舎内で戦闘して破壊されるよりは随分マシでしょ」
俺が思いつく中でもっともエゲツナイ方法を、チエちゃんに話した。
「コウタ殿、お主悪賢くなったのぉ。ワシの『むせる君』退治もそうじゃったし、実にイイ傾向じゃ」
ニヤリと笑うチエちゃん。
戦略級女性がいっぱいのこっち、「アル」には手の内がバレているだろうけど、今回の「リブラ」の行動は絶対に「アル」は関与していない。
なら、こちらが情報的に圧倒的に優位だ。
「だって、こちらには『エース』も『ジョーカー』もいるんだもの。マジメに勝負してやるギリは無いよ。戦術的に完全勝利が俺のモットーだし」
「その割には、マサト殿にTCGで一向に勝ち越せぬと聞いておるのじゃが?」
「う、それは相性と資産問題があって……。もー、チエちゃんのイジワル!」
しょうがないじゃないの、だってマサトってランキングも高くて世界大会にも行った事あるんだから。
そんな人と一般プレイヤーを一緒にしないで欲しいよ。
◆ ◇ ◆ ◇
首都高速がすぐ横を通り、千代田のお城お堀沿いにある九段第1合同庁舎。
高層ビルが立ち並ぶ中、庁舎玄関には多くのマスコミが「ごった返し」ている。
警備員も普段より多く、警察官も近くの警察庁、警視庁から多く派遣されている。
今日は、「リブラ」による襲撃予定日。
誰もがピリピリしている。
その中をまるで誰にも気が付かれないように歩いていく「リブラ」。
その特殊能力に熱光学迷彩があり、まるで透明人間の様に進んでいく。
目的地は、ターゲットの取調べが行われている庁舎上層の会議室。
少々めんどくさいが階段を歩いていく「リブラ」。
警備が厳しいエレベータでは、無人で上昇してきた時点でバレる。
ターゲットがいる、いないは関係ない。
いなければ、臆病者だとマスコミの前で煽るだけ。
いれば虐殺してマスコミの視聴率向上に貢献できる。
「ぐふふ。ここまで気が付かないとは警察は無能だねぇ」
小声で嘲笑するリブラ。
自分がワナに嵌っているとは思いも付かない。
「さて、この階層の会議室だよな。うん? 妙に人影は無いな。今までのフロアーには職員がいたのに? まあ、俺の襲撃を知って逃げたんだろうよ」
リブラは、目的の会議室を見つけた。
「さあ、どうやればカッコよく登場できるかな? よし、派手に行こうか!」
リブラは熱光学迷彩を解き、全力の蹴りをドアに叩き込んで会議室になだれ込んだ。
「正義の使者リブラ様の登場だ! さあ、俺を楽しませてくれよ!」
そこには若い男が3人、そして幼女が1人、少女が2人、若い女性が4人椅子に座っていた。
目的の会長も職員・警官らしき人物も見当たらない。
「おい、ここに疑獄事件の被告がいるんじゃなかったのかよ! 逃げたのかよ!」
「残念、最初からそんな人はココには居ないよ。おバカなリブラさん」
若い男の内、マジメそうな男が話す。
その男の手には篭手があり、何か仏教道具を持っている。
他の女達も手に手に得物を持つ。
「まさか、王様の俺をハメたのかよ! ゆるせん! ガキだからって容赦はしない、皆殺しにして下のマスコミに見せ付けてやるさ」
◆ ◇ ◆ ◇
まったくバカなリブラだこと、ナニが許せないんだよ。
こっちはオマエの力を知ってて戦力を揃えたんだ。
オマエには勝機なんて一切ないぞ!
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