第128話 康太は公安と仲良くなる:その32「リブラとの戦い:1」
気絶してしまったルナちゃんを介抱するマユ姉ぇを見ながらチエちゃんが叫ぶ。
「皆の衆、アレは『アル』、這い寄る混沌の尖兵じゃ!」
アイツが「アル」が作った俺達へ向けての「コマ」かよ。
「あんまり良く見えなかったんだけど、アイツに『石』あった?」
俺の質問に渋い顔で答えるチエちゃん。
「ホレ、今再放送しておるぞ。虐殺シーンにモザイクかけてアヤツをアップにしているのじゃ!」
俺は騒然としているテレビ画面を凝視した。
リブラを名乗る異形の特撮ヒーローもどき、いやヴィランになるのか。
その姿はどちらかというとアナザー系と呼ばれる怪人ライダーに似てはいる。
ん、律儀に変身ベルトを装備しているな。
あ、ベルトに「次元石」があった!
「今までと違ってベルトに『石』があるんだ」
「そうじゃ、どうやら変身者の趣味に併せてチューンしたんじゃろ。まさかライダー系で来るとはワシも思わなんだのじゃ」
俺も、幼少期にライダーにはお世話になった口だ。
確か記憶喪失の主人公が同じ異形の力を授かったもの達と戦い、そして協力していく物語だったはず。
その後も、俺はシリーズをちょくちょくは見ては、時代の変貌と変わらぬ正義を感じていた。
けど、その正義の味方を自己解釈で「独善的」なヴィランにしてしまう変身者、そしてそれを利用してほくそ笑んでいるであろう「アル」には強い怒りを覚える。
「あれは今流行りのアナザー系ってヤツじゃな。3眼が『アル』と似ておるがアヤツは黄色、『アル』は燃え盛る朱。その上に手袋、マフラーが黄色ときた。そういうところもパチモン、偽ライダーの系列のままじゃ」
こういう時に冗談で緊張を解いてくれるニヤニヤ顔のチエちゃん。
まあ、今回はオタク系ネタだから「素」でやっているかもしれないけど。
「とりあえず、生配信部分を録画するのと、アヤメ殿に連絡じゃ! さあ、これからネット情報も漁るのじゃ。忙しくなるのじゃぁ!」
一転、真剣な表情に戻りテレビを操作して、自動録画されている映像をテレビに接続された据え置きHDDから取り出すチエちゃん。
「怖いことになったわね、コウちゃん。アレ、見た目以上に強いわよ。油断したら私でも厳しいわ。早く捕まえないといけないわね」
気絶から戻ったルナちゃんをナナ達にまかせて、マユ姉ぇは俺に話す。
「そうだね。ふざけた格好だけど、やっている本人はマジで『正義』やっている厨2病患者だよ。自我はあるっぽいけど、理性が無さそうだから説得は難しいかもね」
「厨2病なんて困ったヒトねぇ。これは最悪の事態も考えておくべきだわ。コウちゃん、覚悟はしておいてね」
マユ姉ぇ、オタク系文化には詳しいから「厨2病」ってのが通じてくれる。
さて、命をとるかどうかは別にして、手足の一本は叩き切らないと大人しくなりそうにもないだろう。
「えー、アレは『石』で変身したバケモノなの? 私、あんなのになるかもしれなかったんだ」
がくがく震えるルナちゃん、それはしょうがないだろう。
一歩間違えば自分がなっていたバケモノのおこした惨劇を見たのだから。
「大丈夫、ルナちゃんは絶対あんなにはならなかったから」
「そうだよ、るなおねちゃんは、やさしいから、だいじょうぶ」
2人の妹達に慰められるルナちゃん。
俺もルナちゃんなら、あんな事は決してしなかったと思うよ。
◆ ◇ ◆ ◇
「よし、うまくいったぞ。これで俺もヒーローだ!」
まだ興奮が収まらないリブラことアキラ。
大声で叫び、薄くなりつつある長髪を振りながら、モニター画面でインターネット掲示板を見る。
「お、俺を話題にしたスレがあっという間に30も立ったぞ! スレ数記録突破も夢じゃないな」
アキラは、自分がまるで王様、ヒーローにでもなった高揚感に満ちていた。
「ナイア商会からメール着たな。うむ、契約成立で次回も宜しくとある。よしよし、これで俺が世界の王になるのに一歩近づいたぞ!」
アキラは吼える、今まで溜まっていた鬱屈を吐き出すように。
「アーちゃん、どうしたの? 今日は昼間にお外にいったり、さっきから大声で叫んだり。何かあったの?」
アキラの部屋の前に立つ老婆が話す。
「ババア、うるせーんだよ! オマエはメシ作って部屋の前に置いとけばイイんだよ。オマエ達が俺の人生、台無しにしたんだから、何も言わず俺のいう事だけやっておけよ!」
80代になり足腰も弱ってきた母に対して、アキラは毒づく。
自分の人生を台無しにしたのは自分でありながらも、それを親や社会が原因だと言う。
歪みきった認識と肥大化しつつも脆い自我が、彼を「アル」のもたらした「石」に関係なくモンスターへと変貌させていたのだ。
「さあ、次はどいつがターゲットかな? もっと練習して華麗に殺せないと映像栄えしないよな」
今回の事件前に、野犬や路上生活者を襲って変身で得た力を把握していたアキラ。
彼には、派手に動けば自分が捕まるであろう事すら気がつかない。
もはや救いようもない愚鈍鬼畜、悪鬼羅刹になりさがっていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「今回の事件前に路上生活者を同一人物が襲っていたという目撃情報及び映像が残っています」
今は捜査会議、アヤメさんから報告される。
「同時期に路上生活者が事故扱いで死亡報告されていた例も再調査の結果、リブラによって殺害されていた事が判明しました。またその近郊では野犬が虐殺されていたとも」
人間では出来ないような殺害方法だっただろうから、事故と判断されていても不思議ではない。
アイツ、膂力だけはケタ違いだろうから。
「事件発生現場をマッピングしたところ、今回の事件以外は半径20km程度に集まっています。どうやら被疑者は自動車やバイク等の移動手段を持っていない可能性があります」
「へー、こうやってマッピングするんだ。じゃあ、私の時もモロバレだったのね。やはり子供の浅知恵じゃ勝てないや」
先だってのショックで家への帰宅が遅れてしまったルナちゃん。
一応事件参考人でもあるので、会議にも参加している。
もちろん彼女には犠牲者の写真は見せない。
PTSDとかになってもらっては本末転倒だから。
「つまり被疑者は、あらかじめ路上生活者や野犬を実験台にして、今回の惨劇に臨んだ訳なんだね」
「はい、おそらくそうだとは思います。事件現場に遺留物は残ってはいませんが、映像記録はあるのでかなり絞り込めると思います」
俺の質問に答えてくれるアヤメさん。
「なら、力に慣れぬ今のうちに、こちらから宣戦布告してみるのはどうじゃ? 裏におる『アル』は悪賢いじゃろが、コヤツは愚か者じゃ。コヤツを暴走させて勝手にこちらに攻撃させるのじゃ。今ならコヤツはまだ未熟者じゃ、それにうまく殺戮できた事で油断しきっておるのじゃ。じゃから、ワナに追い込んで一気に倒してしまうのじゃ! さすれば、親玉の『アル』も動くのじゃ。そこを一網打尽でどうじゃ?」
「そうですね。本人前にして言うのもなんですが、ルナさんの時もそれが成功しましたし」
「えー、やっぱりそうだったのね。もしかして私を挑発したの、ナナちゃんじゃなかったの?」
「うむ、ワシが仕組んだのじゃ! ルナ殿、まことにすまんかった!」
チエちゃんはルナちゃんに謝罪をする。
「まあ、いいわ。だってあの時捕まっていなかったら、今私はこんなに笑っていないもの。改めて皆さん、ありがとうございました」
逆に頭を下げる笑顔のルナちゃん。
ホント、良かったね。
リブラ相手には同じようにはいくまいが、おびき寄せて早期に叩くのは俺も賛成だ。
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