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功刀 康太の遺跡探訪、時々お祓い ~女難あふれる退魔伝~  作者: GOM
第三部 功刀康太は邪神と戦う
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第126話 康太は公安と仲良くなる:その30「毎度の後始末?」

 朝のマンション周辺は、警察・消防関係者・マスコミで「ごった返し」ている。

 「アル」を逮捕しようとアジトに乗り込んだところ、トラップとして設置されていた「輝く(シャイニング)トラペゾヘドロン」が起動したからだ。

 その起動時間、わずか30秒にも満たない時間だったけど、マンションを中心に半径数百メートル内の住民は、多大な被害を受けた。

 「爆心地」となった部屋のあるマンション棟では、警察・住民ともにほぼ全員が昏倒した。

 「爆心地」室内の警察関係者の半数強は一時心肺停止となるも、チエちゃんの活躍で命は取り留めた。

 しかしかなり精神を削られる、つまり俗に言うSAN(正気)値を削られたため、心身の療養に長期間が必要であろう。

 マジで、SAN値直葬便(さんちちょくそうびん)だった訳だ

 鍛え上げられていたSATのチームですら半数以上が入院という状況で、もはや戦力としては壊滅状態。

 マンション住民も酷いもので、チエちゃんとマユ姉ぇ、リタちゃんの緊急治癒呪文が無ければ死者も出ていただろう。

 

「酷い有様じゃな」


 とりあえず緊急度合が下がったので、マンション隣接の公園内に仮設された警察のテント内で休憩中の俺達。

 チエちゃんは、周囲を忙しく走り回る人々を見て呟く。


「本来邪神の召喚に用いる貴重な神器(アーティファクト)を爆弾代わりに使うだなんて、かなり贅沢な使い方だね」


「警察じゃと、普通の爆弾までは想定したじゃろうが、まさか魔法爆弾、それも邪神による精神爆弾は想像外じゃろうて。ワシも予想外じゃったしのぉ」


 おそらくだけど、神器で『アル』自身を召喚させる事で異世界に居る邪神本体との直結ラインを作って、そこから神気を垂れ流させたのだろう。


「そうね、コウちゃんが直ぐ(そば)に居てくれて壊してくれたから良かったけど、もしそのまま起動し続けたら周辺数キロは死の街になっていて、死を触媒に何か邪神を召喚していたかもね」


 マユ姉ぇが恐ろしい事を言う。

 ただ、「爆心地」で直接攻撃を受けた俺、チエちゃん、アヤメさんの総合意見としては、マユ姉ぇの「オバサン殺気」の方が威力が上だ。

 あまりに馬鹿らしいけど、ほんわかとしたアラサー風味の若奥様なマユ姉ぇの方が、端末とはいえ邪神よりも恐ろしい存在とは。

 つくづくマユ姉ぇが味方でいてくれて良かったよ。

 俺がそう内心思うと、こっちを見たチエちゃんが頷く。

 どうやら以心伝心らしい。


「あら、2人とも私を見るなんて何かあるのかしら? そういえば、さっき変なクシャミしちゃったんだけど、2人とも心当たりないかしら? アレってイヤな噂された時の感じなんだけど」


 チエちゃんは表情も変えず、しかし棒読み気味に話す。


「ナンノ コト ジャロウ? ワシ、ココロアタリ ナイノジャ」


「そうだね、俺も分からないや」


 やべー、これ早く誤魔化さないとヤバイよ。


「そういえば、ナナ達はどうしたの? 大丈夫だったよね。ここに居ないんだけど」


「女の子組は、全員無事よ。こっちはタクト君が、ちょっとダウンしたくらいね。(みんな)、先に公安さんに家に送ってもらったの。もしマスコミに見つかったら大変でしょ。私達も、もうすぐここを離れられると思うわ」


「そうか、確かにマスコミは怖いじゃからのぉ」


 チエちゃんは俺の方を見ながら、さりげないタッチで"ナイスフォロー! 話題変更、助かったのじゃ"って接触念話(テレパス)をしてくれた。


 この事件は、後にガス漏れによる集団中毒事件という事でマスコミに報道された。

 無関係なのに罰被(ばちかぶ)りした都市ガス会社さんには悪い事をしたと思うけど、そこは死者を出さすに解決した事で許して欲しい。

 さて、タクト君は後でもう少し修行してもらわねば。

 彼って炎のコントロールだけに特化しているから、防御系の術のひとつくらい覚えてもらわないと困るよね。

 ウチでも、ナナは九十九神(つくもがみ)コントロール特化型だけど、補助呪文を数個は覚えていているし。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「では、第何回目か忘れたのじゃが、捜査会議の開始じゃ! ぱふぱふ、どんどん!」


 なぜか、効果音付きの開幕コールで始まる捜査会議。

 まあ、イイ事無いのでせめて楽しく会議したいというチエちゃんの思いからなのだろうけど。


「チエちゃんって、いつもこんな感じでふざけているんですか? 私、こういう人(?)に負けたのか。まあ、ネクラに1人でやってた私じゃ絶対勝てないわよね」


 いつもの面子に加えて今回限りだけど、まだマユ姉ぇ宅に滞在中のルナちゃんが会議に参加している。


「では、いつも通りじゃが、アヤメ殿からお願いするのじゃ!」


 今日もキリっと凛凛(りり)しいアヤメさん。

 その代わりか、横に居るタクト君はヘロヘロ。

 先日のダウンから完全復帰しきれていない。

 うむ、どうやら邪神の精神攻撃は後を引くんだ。

 マユ姉ぇの「殺気」喰らった時はすぐ復活したのにね。

 まあ、そこが後腐れないマユ姉ぇの性分通りだけど。


「『アル』の捜査についてですが、先日の強襲以降、彼の足取りは不明です。ただ、それまでに行動については全て詳細に解明され、もう1人の犠牲者も発見されました」


 今回助けた女性の前にも、同じく若い女性を喰らっていた様だ。


「現在、日本全土に『アル』の手配写真を配布し、歓楽街を中心に経営者や従業者にむやみに男性に付いていかないように、指導を徹底的にしています。まあ正体が正体ですので、姿かたちがそのままという訳でも無いですし、認識障害は常時発動しているようですから、気休めではあるんですけどね」


 千なる化身を持つという邪神、けどどうもネーミングセンスに欠けるのか、本来の名前の一部を使うことが多く「ナイ」とか「アル」なんて名前を良く使っているらしい。

 なんにせよ、本当なら人類が太刀打ちできる相手じゃないけど、今回の相手は端末にすぎない。

 こいつを早く倒して、本体を呼ばないようにさせないとね。


「そういえばチエちゃん、アイツ『世界の殻』が厚くて本体と繋がりにくいなんて言っていたけど、どうしてなのか知っている?」


 俺はアイツの発言で引っかかった点をチエちゃんに聞いてみた。


「それはじゃな、あくまで仮説じゃが心当たりはあるのじゃ! まいどまいどじゃがワシは悪魔じゃけどな」


「えー、それ面白くない! チエちゃん、それいつも言っているの?」


 ルナちゃんからのツッコミは的確だけど、チエちゃんのギャグは場を和ませるもので、面白いネタじゃないからね。


「面白くないので良いじゃないのじゃ! 場を和ますギャグなのじゃ! ルナ殿、お主悪魔に高度なギャグを要求するのか? なら、お主ならどうやるのじゃ!!」


 ほら、チエちゃん、ポーズとはいえ怒っちゃったよ。


「ルナちゃん、あまり無茶いわないでね。 チエちゃんもホラ、いつもがんばってくれているのは知っているから、機嫌治して俺の質問に答えてよ」


 もう、俺に仲裁なんてさせないでよぉ。


「コウタ殿がそういうのなら許してやるのじゃ。ルナ殿その代わり後でワシとオセロ勝負じゃ。お主が参ったいうまでやるのじゃ!!」


「えー、私オセロ弱いのにぃ」


 まあ、それでチエちゃんの機嫌が治るのなら良し。

 たぶんチエちゃん的には、じゃれてルナちゃんにかまってあげているんだろうけど。


「うぉほん。さてコウタ殿の疑問じゃが、それはワシらの由来から説明になるのじゃ! ルナ殿以外にはすでに話しておるのじゃがワシら悪魔(デーモン)族は、この世界由来じゃのうて(無くて)世界外からの寄生体、いわば病原体、ウイルスみたいなものじゃ。ワシらの祖母、全ての悪魔達の母なる女王悪魔(マザーデーモン)が最初にこの世界に寄生した時に最初にする事は、世界の『殻』つまり世界の境界を強固にする事じゃ。何故かと言うと、他の寄生体がこの世界にもぐりこんでワシらの繁殖の邪魔にならんようにする為じゃ」


 ほう、そういう理由だったのね。


「ワシらは他の世界に飛び立つ際には世界の『殻』を壊す必要はあるのじゃが、それまでに十分育っておかねば、次の世界まで持たぬ上に他のモノ達との生存戦争に負けてしまうのじゃ。じゃから世界が簡単に割れたり(ビックリップ)しぼんだり(ビッククランチ)せぬように調整しておるのじゃ」


 まさか、ここで宇宙終末論について聞くとは思わなかった。

 俺はマサトに色々話を聞いていて知っているけど、他の人で分かっている人どれだけいるんだろう?

 ナナの方をを見てみると頭を捻っている。

 マユ姉ぇは、毎度のニコニコ状態だけど、こりゃどっちなのか分からないや。


「寄生虫は寄生虫なりに世界を守っておる訳じゃ。世界無くしては、ワシらも生きてはいけぬからの。特にワシら第三世代目以降は、この世界が生まれ故郷じゃ。故郷を守るのは当たり前なのじゃ!!」


 つまりチエちゃんと同属が寄生している世界では、「外なる神々(アウターゴッズ)」は関与しずらいのね。


「じゃから、『アル』は本体の強大な力は使えぬはずじゃ。ワシらで十分倒せるレベルじゃろう。アヤツ相手ならワシも全力で戦うのじゃ!」


「えーと、チエお姉様からのお話で、『アル』は倒せる可能性があるという事が分かった訳ですね」


 話の腰をバキバキに折られたアヤメさんが話を少し強引に(まと)める。


「すまんのぉ、また暴走してしもうたのじゃ! アヤメ殿、お疲れ様じゃったのじゃ! さて、他に議題が無ければ終わるのじゃが、コトミ殿どうじゃ?」


「お姉様、今のところ変な噂はありませんね。ルナちゃん関係のイジメ撲滅活動は別途活動中です。SNS等で拾い上げた情報を即時児童相談所等に送るシステムをマサト先輩やお姉様の協力で完成して既に運用開始しています」


「え、そんな事してくれていたの、コトミお姉さん?」


「そうよ、ルナちゃん。ほっとけないって言ったわよね。アタシ、これでもそれなりに力もコネもあるんだから。やれる事あるのならやらなきゃね!」


「ありがとう、お姉さん、(みんな)!」


 これで少しでも苦しむ子達が減れば良いよね。

 さあ、『アル』よ、どんな手で来てもぶっ潰してやるぞ!


  ◆ ◇ ◆ ◇


「思いのほか、この国の警察機構は優秀ですね。うかつに素顔で動けませんね。まあ(われ)は十分「存在力(エントロピー)」を貯めましたから、しばらくは『餌』を食べなくても良いでしょう」


 どこかの暗闇の中で1人(つぶや)く「アル」。


「今度、あの生意気なモノ達にぶつけるのに強くなりそうな(けが)れたターゲットはいませんかねぇ。お、コヤツは良い具合に『腐って』いますねぇ」


 「アル」が見たのは、とある巨大掲示板の1スレッド。

 1人の「男?」が妄想と怨嗟をひたすらに撒き散らし、相手をしにきた人を罵倒し見下げた発言をしている。


「ここまで歪んだ自我と妄執を持つものは、なかなかいませんねぇ。これは逸材です!」


 暗闇の中で燃え盛る3つの赤い眼が光る。

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