第125話 康太は公安と仲良くなる:その29「アルの正体!」
「アヤメさん、それ触っちゃダメ、トラップだ!!」
俺は叫んだが時既に遅く、鑑識の人がその奇妙なオブジェに触ってしまった。
俺の叫びにチエちゃんも飛んできて、そのオブジェを見て驚愕した。
そのオブジェは四方を奇妙な魔獣らしき装飾の金属細工で縁どりしたガラスらしきもので出来た不均一な容器と、中に入っている多面体からなっている。
多面体は漆黒ながらところどころに赤い線があり、黒く輝きながら容器の中に鎮座している。
そして多面体は、金属製の帯と不可思議な7本の柱で容器の中で固定されている。
「輝くトラペゾヘドロン!」
チエちゃんが呟く。
そう、それは「とある邪神神話体系」において「這い寄る混沌」を召喚できる神器。
鑑識の人がその神器に触った瞬間、トラップが発動した。
神器から圧倒的な邪気、いや神気が溢れだし、その気に侵されて周囲の人間が苦しみだす。
「これは、精神爆弾かよ!」
俺は、なんとか精神防御をしながら耐える。
チエちゃんも結界を貼って防御していた。
しかし、耐性が無い鑑識の人は白目を向き、泡を吹きながら崩れ落ちる。
アヤメさんも倒れ、苦しそうにもがく。
「これはなんじゃ! まさか『アル』の正体は?!」
チエちゃんは結界の維持に精一杯で身動きできず、苦しんでいる。
このままでは部屋の中の人は確実に全滅するし、屋外に待機しているマユ姉ぇやナナ達も危ない。
「こんちくしょー! 壊れろー!!」
俺は残る精神力全てを三鈷杵に注ぎ込み、三鈷杵から伸びる摩利支天太陽剣を振りかぶって輝くトラペゾヘドロンに全力で叩きつけた。
光の剣は神気と鬩ぎ合い、まるで神器周囲にバリアがあるように剣が弾かれ押し込めない。
剣と神気は干渉しあってバチバチという火花を発生させたが、俺は構わずそのまま剣を押し込んだ。
「ぃやー!! 斬艦刀一刀両断!!!!」」
俺の技をイメージした気迫が神気を上回ったのか、光剣は厚みと長さを増して斬馬刀サイズとなり、バリアを突破した剣は神器を真っ二つに切断し、干渉エネルギーの余波で容器毎内部の多面体を粉々に粉砕した。
容器が粉砕されると、それまで空間を犯していた神気は消え去った。
「ふぅー。必殺技叫んじゃったよー、恥ずかしー」
こういう土壇場で大事なのはイメージ勝負。
必殺の気合いを叩きこむ「技」のイメージをはっきりするために某「オヤブン」のお力を借りたけど、効果はあったみたい。
とっても恥ずかしいけどね。
「コウタ殿、助かったのじゃ。しかし、必殺技叫ぶのは気持ちイイじゃろ?」
俺は急いで声の元、チエちゃんを見た。
チエちゃんは座り込んではいるものの、大丈夫っぽい。
俺をニヤニヤと見上げる余裕すらある。
「比べるのもなんじゃが、母様の殺気の方が上じゃったな。アレに慣れたおかげか、十分耐えれたのじゃ」
チエちゃんは立ち上がって周囲を見ながら話す。
「アヤメ殿、無事やか? そこの鑑識のお主、生きておるか?」
アヤメさんは意識を失わなかったのか、頭を振りながら起き上がる。
「一体今のはなんだったのですか? ものすごい精神波攻撃に思えましたが」
「うむ、あれは邪神による精神攻撃じゃよ。お、心臓が半分止まっておるのじゃ。AED代わりの電撃じゃ! ほい!」
チエちゃんはアヤメさんに説明しながら、鑑識の人の胸に手を当てて電撃を与えた。
心臓が止まりかけ、心室細動を起こしている時にAEDを使うと、除細動電撃を与え心臓の動きを正常なものに治す。
完全に心臓が止まる、つまり心静止をしてしまうとAEDでは無くて心肺蘇生やアドレナリンの注射が必要になるそうだ。
「うむ、呼吸も戻ったし、これで大丈夫じゃ。しかし全く怖い罠を仕掛けるものじゃ。コウタ殿が現場におらねば全滅じゃったぞ」
〝ほう、お前が我のワナを破ったとな〟
その時、ものすごい「気」圧と共に念話とイメージが送られてきた。
その「声」の主は、浅黒い肌ながら日本人の顔だちをしている、どこにでもいそうな30代の男。
しかし、その気配、「輝ける闇」というべきモノは異質かつ圧倒的なものだ。
「おう、お主が『アル』、いや伝説に名高い『這い寄る混沌」じゃな。というても本体じゃあるまい? 本体ならばワシら等ひとたまりもあるまいて。伝説や物語では、千なるともいえる多数の分身や端末、顕現、化身を持つという。お主はその一編じゃな」
〝なるほど、オマエはヒトではない様。お察しの通り、我は端末に過ぎん。この世界、妙に『殻』が固くて本体とも連絡がなかなかつかぬ。おかげで我は、お前らすら仕留め損ねる訳だ〟
チエちゃんは邪神を相手に煽る。
「なれば、ワシらに勝機はあるという事じゃな。ここにおる男、今のお主を倒せる逸材じゃ。その上ワシやまだまだ多くのワシ以上の手練れが、こちらにはおるのじゃ。じゃからこの辺りで手を引かぬか? お主、滅びたくは無かろう? 手打ちするのは今しかないのじゃぞ?」
〝妖魔ごときが神に意見するとはおこがましいわい。次に会う時はお前らの最後と思うがよい〟
俺もチエちゃんを習って、邪神を挑発する。
「アル! お前が何をたくらんでいるかは分からない。けど、俺はお前が許せない。邪神だろうがなんだろうが、必ず倒す!」
〝ニンゲン風情が吠えるわ。よし、面白い。次はお前らを倒すコマを作ろうぞ。我が直接相手をするまでもないわ。楽しみにしておけ〟
そう言って念話は途切れた。
「ふー、良い啖呵を切ったものじゃ、コウタ殿。アヤツ、こちらの誘いにまんまと乗ってくれたわい」
「チエちゃん、やっぱりそうだったんだね。アルを小馬鹿にしていたから」
「そうじゃ。ああいう手合いはプライドの塊じゃ。つついてやれば必ず騒ぐのじゃ。後、絶対自分の手を汚さずにターゲットを始末に来るのはアヤツの手よ。これでむやみに『石』をばらまかずに強敵を作るように動くのじゃろうて」
「そうだね。だから俺もアイツを煽ってみたんだよ」
アイツ、神様の割に沸点低いね。
もしかして本体じゃなくて憑依している人間の思考の影響を受けているのかな?
攻撃がこちらに集中するなら良し、被害を最小限に出来る。
それに伝え聞く通りの邪神であるなら、直接攻撃をせず後ろから相手を陥れる事を好むはず。
さあ、やってこいよ、這い寄る混沌!
どうせなら、どっかの世界にいるだろう美少女タイプだったら良かったけどね。
なお、精神爆弾が発動した際にマンションの近くで待機していたマユ姉ぇ、ナナ、リタちゃん、コトミちゃんは距離が離れていた事もあり、なんら被害無しだったそうだ。
彼女達の近くにいた警察官達やタクト君は、白目向いてことごとく昏倒していたそうだけど。
マユ姉ぇに到れば、チエちゃんがマユ姉ぇの殺気の方が怖かったと言ったタイミングで「くしゅん」と可愛くクシャミをするというお約束までしたんだとか。
正真正銘の邪神よりも強いマユ姉ぇ、マジチートじゃね?
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