第124話 康太は公安と仲良くなる:その28「ルナちゃんの保護、そしてアル逮捕へ」
ルーナちゃん、いや松本 るなちゃんを保護して3日程経過した。
確保後、しばらく泣き止まなかった彼女を警察で一旦保護したは良いけど、毒親の元にそのまま返すわけにもいかなかった。
また夏休み、お盆前ということで児童相談所も動きずらい時期だったので、各方面の了解を得て、ルナちゃんはマユ姉ぇの家で預かっている。
諸経費は公安や県持ちにしてくれるとはいえ、女の子をもう一人預かるのは大変じゃないかと俺は心配したものの、今のところ大丈夫みたいだ。
同年代の2人に加えて1000歳超えの乙女幼女(笑)が傍にいてくれるのは、ルナちゃんの精神安定に良い傾向を与えるらしい。
「ルナちゃん、それボクのだよ!」
「あーん、るなおねえちゃんも、ちえおねえちゃんも、わたしのぶんまで、とらないでぇ!」
「勝負じゃ、ルナ殿! ワシとどっちが大きなスイカ取るかじゃ」
「私が勝つに決まっているでしょ! これが一番大きいんだから」
「あらあら、皆喧嘩しないでね。スイカは全部同じ大きさよ。グラム数も1gと違わないように切ったんだから」
まあ、マユ姉ぇの常識外れた「技」は置いておくとして、4人で姦しくしているのは、微笑ましくて良いね。
なお、漢字のとおり姦しいとは女性が3人集まれば賑やかになるという意味で、女性が4人以上集まるマユ姉ぇ宅は、より賑やかなのは言うまでもあるまい。
ルナちゃん、背中の中ほどまで無造作に伸ばしていた髪を肩くらいまででカットして綺麗にしてもらったからか、表情も明るくなり年齢相応の可愛さに溢れた感じになっていた。
ルナちゃんの取り調べだけど、彼女への負担も考えてマユ姉ぇ宅にてコトミちゃんも加えた5人がルナちゃんのフォローに付き、アヤメさんと所轄の婦警さんが対応している。
そこで分かった事実だけど、ルナちゃんが「石」を手に入れた方法はネット通販。
しかし、その通販サイトはルナちゃんが保護された翌日には削除されていた。
「まー、ワシ程ともなると削除されても、どーとでもなるんじゃがな」
そこはチエちゃんやマサト、コトミちゃんの暗躍(笑)で掲載サイトの情報はアクセスログ込で保全したけど。
「事後承認はもろうたからセーフじゃろ?」
不正アクセスについては、この場合しょうがあるまい。
アウトに限りなく近いセーフだけどね。
サイトの情報を元に事務所所在地に、カチコミ強襲をかけた俺達だったが、すでに「もぬけの殻」。
そこは港湾地帯の一角にある倉庫だったけれど、「アル」が自宅で使っていた家具類と商品だったであろう雑貨の残り、そして男性と思われるミイラ化した遺体だけが残されていた。
男性は死後1か月弱、これまた高温多湿時期にあるまじき遺体状況で、「アル」に喰われたものと思われる。
男性の身元はDNA・指紋・遺留物より倉庫のオーナーと判明。
家族からは1週間程前に捜索願が提出されていた。
おそらくだが、口封じを兼ねて「アル」に「喰われた」のだろう。
「一歩遅かったのじゃ! くっそー、もう少しじゃったのに。引き際が良すぎるのじゃ! まるでワシらの動きが見えている様じゃ!」
どこかで俺達の動きが「アル」には見えているのかもしれない。
その割にはこちらへの「攻撃」も無い。
逃げの一手で犯罪を繰り返している分、魔神将「騎」よりも狡猾だ。
早くなんとか次の犠牲者が出る前に阻止したいよ。
◆ ◇ ◆ ◇
「お母さん、そんなに心配しなくても良いよ。私、皆に大事にしてもらっているから。うん、もうちょっとしたら家に帰るからお母さんも元気で待っててね」
ルナちゃんが母親に電話をしている。
ルナちゃん自身、「石」から離れたおかげで精神状態も安定していた。
また彼女の母親にも医療カウンセリングが行われて、今までの親子関係の問題を改善すべく治療を受けている。
母親は更年期障害に加えて夫との夫婦関係の無さ、更に彼女自身母親(ルナちゃんからすれば祖母)から枠にはめられた窮屈な教育を受けていた反動で、自由奔放な娘に嫉妬し、更にルナちゃんの思春期独特な反感に怒りを持ったそうだ。
またルナちゃんの父親も、家庭を放置していた事を後悔、反省しているようで、来年には帰宅できるよう行動するんだそうな。
これ以上の詳細は俺は関与すべきでは無いから、あえて聞きはしないけど、親子で何でも話し合える環境になってほしいと思う。
だって、どうやっても親子の関係は切れはしないから。
そんな折、サイトのログファイルを調べていたチエちゃんがサイト管理サーバに対して固定IPからのアクセスが数回、管理者権限で行われていたのを発見した。
チエちゃんの方が優秀なのに、警察・公安の科捜研は何やっているんだという話もあるけど、他にもいっぱい仕事を抱えている科捜研と、休みなく分身まで使って高速で動けるチエちゃんを基準に考えたらダメだよね。
だって複数のPCを使って次元鏡映分身したチエちゃんが同時解析しているんだもの。
人類が勝てるわけないじゃん。
「このIPじゃが、アクセス時に時限コマンドを仕組んでおる。一定期間、管理者がアクセスをせねばサイトをリセットするようにしておるのじゃ。おそらくこの発信源が隠れ家の一つじゃ! 早速、アヤメ殿に連絡してカチコむのじゃ!」
よし、これで「アル」に追いつけるぞ!
◆ ◇ ◆ ◇
IP確認から翌々日の早朝、俺達はプロバイダに登録されていた住所を元に「アル」の潜伏場所と思われるマンションの前に集合していた。
該当するマンションの一室の居住者は、ここ1週間程勤務先のキャバレーを無断欠勤している女性。
今までの手口からして、ここに「アル」がまだ潜伏していると思われた。
明らかに魔神将以上のバケモノと対峙する訳だ、綿密に逃亡出来ない様マンションの敷地には多重結界を敷き、そう簡単に逃げられないようにした。
「じゃあ、1、2の3で突入するわ。SATの皆さん宜しくお願い致します」
アヤメさん、俺、チエちゃん、そしてSATの突撃隊がドアの前に集合する。
SATは海外ドラマで見るような破壊槌と蝶番破壊用の爆薬を準備している。
もちろん、窓側からも突撃できるように屋上から垂直懸垂したSATが待機中だ。
「一応、玄関の仕掛け爆弾には気をつけてね。コイツ油断ならないから」
イラクとかの戦場やテログループ相手だとトラップ爆弾を注意しないといけない。
まさかとはいえ油断は禁物だ。
「いくわよ、1、2、3! 突撃!」
SATが蝶番を少しの爆薬で吹き飛ばすと同時に破壊槌でドアを蹴破った。
なお、日本ではドアは外開きなので、破壊槌だけじゃドアは開けられない。
アメリカでも破壊槌が無い場合、ショットガンで蝶番を吹き飛ばす事もあり、それ専用にアサルトライフルの下に装備されたバージョン(M26 MASS)もある。
超音波やX線透視で確認済みとはいえ、幸いなことにドアには仕掛けは無かった。
もし仕掛け爆弾があるなら、ドアでは無くて横の壁に破砕用導爆線で穴を開けて、そこから突入するんだそうな。
機敏な動きで突入するSAT隊員。
SATの次にチエちゃんを先頭に俺達が突入したが、そこは見たところ普通の若い女性の部屋だった。
奥の方で呻き声らしきものが聞こえた。
「ダイニング、クリアー」
「トイレ、クリアー」
「洗面所、脱衣所、浴室クリアー」
完全装備の上自動拳銃を構え、軽快な動きで確認していくSATのオジサン、オニイサン方。
どっかの海外ドラマで見た銃だとその時は思ったのだけど、後から聞いたり調べたらSIG SAUER P226だそうな。
屋上からの人たちも軽い動きでベランダに着地、中から鍵を開けてもらい室内へ侵入する。
かなりの特訓をしたんだろうと思える動きだ。
「ベットルーム、要救助者発見!」
「うむ、ワシが行くのじゃ!」
チエちゃんがベットルームに向かう間、俺とアヤメさんは一旦警戒を解き、部屋の中を見回した。
どうやら今回も「アル」は逃げた後らしい。
ただ、要救助者ということは「生贄」になった女性はまだ生きていた様で、それは幸いだ。
毛布に包まれた、おそらくこの部屋に住む女性、ひどくやつれており骨と皮だけに見える、が後から入ってきた機動隊の方々によってタンカで運ばれていく。
「コウちゃん、大丈夫! どうも、逃げられちゃったみたいよね」
マユ姉ぇからの電話が入る。
「うん、また一歩遅しだよ。けど、今回は女性を助けられたから良かったね」
そう話していた時、機動隊と一緒に入ってきた鑑識の方がアヤメさんを呼んだ。
「これ、なんでしょうか? 寝室の脇机の上ににあったんですけど、魔術的というか不思議な感じに見えるのですが」
俺はその「モノ」が気になって電話を切り、アヤメさんの後についてベットルームに入った。
ん! あれ、どっかで見たというか聞いた事があるような? んん!! まさか!
ものすごく嫌な予感がした俺は叫ぶ。
「アヤメさん、それ触っちゃダメ、トラップだ!!」
しかし時既に遅く、鑑識の人がその奇妙なオブジェに触ってしまった。
そして、トラップは発動してしまった。
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