第123話 康太は公安と仲良くなる:その27「蜘蛛少女との戦い?4」
「ルーナちゃん、貴方が行っている事は全部間違いじゃないわ。だけど方法に問題があるの」
マユ姉ぇは、そう蜘蛛少女に話す。
「イジメは悪い事よね。そしてイジメを無くすようにしているルーナちゃんは素晴らしいわ。でもね、今のように隠れて行動をしていたら反発を生むの。何か後ろめたい事があるんじゃないかって。特に異形のモンスターの姿だとそれだけで批判の的ね」
マユ姉ぇは淡々と話す。
「後、ルーナちゃんが使っている『石』、それは次元石といって異空間から力を吸って持ち主に力を与えているの。特にルーナちゃん達が使っている『石』は意図的に歪められていて持ち主の欲望の増幅、心身・魂の異形化を促進するように仕向けられているの」
確かに俺の使っている「石」には異形化の要因は無い。
力に魅せられた霊や魔物が吸い寄せられる傾向は同じだけど。
「どうやらルーナちゃんには『石』を使いこなせる才能があったみたいで、異形化はしても、心や魂までは蝕まれなかったの。でもそれがいつまで大丈夫かなんて誰にも分からないの」
ルーナちゃん、今も暴れずナナ達にハグされて話を聞いている様子からも、心は普通の少女のままらしい。
「じゃあ、私はどうすれば良かったのよ! 私には力なんて無かった。ナナさん達みたいな美貌も知識も何にも無いの! こんな私がどうやって戦えば良いのよ!」
ルーナちゃんの叫びにコトミちゃんは答える。
「ねえ、アタシはルーナちゃんから見てどう見える?」
ルーナちゃんはコトミちゃんをじっと見て答える。
「お姉さん、美人だしスタイルも良いし明るいから、人気者でモテそう。どうせ楽しいキャンパスライフってのを送っているんでしょ。私となんて全然違うよ」
自虐的なルーナちゃんに対して、ニマっと笑った顔でコトミちゃんは話す。
「残念、アタシはモテないからカレシは居ないよ。まあ、最近男友達は増えたけどね。でも美人って言ってくれてありがとね。お世辞でも嬉しいよ」
コトミちゃんは一瞬俺やマユ姉ぇ達の方を見て笑い、辛かった過去を語った。
「アタシって中学校時代はオデブでネクラで図書館で閉じこもっているようなジミな子だったんだ。そんな上に生意気で校内の派閥争いにも加わらなかったのよ。後は異端扱いされて生贄としてイジメ抜かれたわ。だから腕なんて傷だらけだったの」
コトミちゃんの過去を聞いて、驚いているルーナちゃん。
「嘘よ、そんな訳ないわ。だってお姉さん素敵なんだもの。私となんて全然違うわ。そんなのあり得ない。なんでお姉さんみたいな人がイジメられなきゃならないのよ」
ルーナちゃんの疑問に答えるコトミちゃん。
「イジメなんて悲しいけど些細なきっかけで起きちゃうのよ。ルーナちゃんも同じでしょ。ホント馬鹿らしい理由でイジメるんだよね」
なおも過去を語るコトミちゃん。
「アタシの場合は、そんな時に今の大学の恩師と出会って、いろんな事を教えてもらって、情報を武器にすることを学んだの。今、ルーナちゃんがSNSで情報戦をしているのと同じね。その人のおかげでアタシはイジメてくれたバカ共を全部ぶっ潰したわ。その後もいっぱい良い人達に出会えたの」
コトミちゃんはルーナちゃんに微笑み話す。
「そんなヒト、私に居る訳ないじゃん! お姉さんのご両親は良い人なんでしょうね。でもね、私の親、特に母親なんて最悪なの。キラキラネームを親戚全体の反対を押し切って付けるわ、子供の行動を全部監視して支配しようとするわ。典型的な毒親ね。父親なんて居ないのと同じ、単身赴任で家族から逃げているわ」
自虐的に涙を流しながら話すルーナちゃん。
おそらく彼女の話は事実だろう、聞くだけで最悪だ。
人様の親を批判はしたくないけど、毒親の典型的パターンだろう。
「まさか、ルーナちゃん、貴方ご両親に手をかけたりはしていないわよね?」
少し顔色を悪くしたマユ姉ぇ、ルーナちゃんに聞く。
「大丈夫、そんなバカな事しないわよ。私はあんなバカとは違うんだから。そりゃ天井から吊るして、いっぱい文句言ってやったけど」
泣き止んで、怒った風に話すルーナちゃん。
それを聞いてほっと安心するマユ姉ぇ。
俺もその答えに安堵した。
ルーナちゃん、その姿は異形化しようとも、その力に溺れず、自分を失っていない。
彼女、実はものすごい才能と強い自我を持っているのかもしれない。
だからこそ、集団では浮いてしまったのかも。
「ならルーナちゃん、貴方は大丈夫。だから、これからは表に出てイジメと戦ってみない?」
マユ姉ぇの提案を聞いても、バカにした風なルーナちゃん。
「だから言ってるでしょ! 私に味方なんていないの。この『力』さえあれば、もう十分なのよ!」
ルーナちゃんの悲痛な声に、コトミちゃんは優しく答えた。
「味方がいないってのは間違っているよ、ルーナちゃん。アタシが、いやアタシ達が味方になってあげるから」
想像もしなかった言葉に驚くルーナちゃん。
「どうして私なんかの味方になるのよ! 私は醜くて卑屈で怖がりなバケモノよ。どこに好かれたり仲間になろうというところがあるのよ!」
ルーナちゃんの叫びにコトミちゃんはルーナちゃんを抱きしめる力を増して話す。
「ほっとけないのよ、アタシ。ルーナちゃんが自分と同じような子達を救ってきたように」
その言葉にはっとするルーナちゃん。
「ルーナちゃん。ボクも同じだよ。困った人を助けるのは当たり前だもん!」
「るーなおねえちゃん、わるいことやめて、わたしたちとおともだちになろーよ」
「そうよ、貴方は悪の欲望にも負けず、『力』にも溺れず、子供たちを救ってきたわ。だから、もう危ない事はやめて。後は、私達と一緒に人助けしましょうよ」
ナナ、リタちゃん、マユ姉ぇの説得に動揺するルーナちゃん。
「そうじゃ、ワシらの仲間になればもっと沢山人助けできるし、毒親なんぞ警察や児童相談所からこっぴどく怒ってもらうのじゃ! 第一、今のままじゃと遠くの人を助けられんじゃろ? ワシらなら警察・公安とのコネがあるのじゃ。全国規模ですら可能なのじゃ!」
チエちゃん、全国規模とは大きく出たけど、どうせ人助けするなら大きくやりたいよね。
「なんで、私に皆優しくするのよぉ! もう私分かんないよぉ。こんなに優しい人がいるんなら、どうしてもっと早く助けてくれなかったのよぉ!」
号泣するルーナちゃん。
「ごめんなさいね。もっと私達に力があれば良かったのだけど。でもこれからは貴方は私達の仲間よ。だから安心して」
マユ姉ぇが既にハグしている2人の上からルーナちゃんをハグする。
「うわ――ん!」
ルーナちゃんが泣き叫ぶと同時に彼女の体は変化していき、普通の少女の体型に戻る。
マズイ、女子中学生の裸なんて見ちゃダメ。
俺は急いで後ろを向いて教室から逃げる。
「俺、アヤメさん達を呼んでくるから、後は宜しく!」
俺は教室から出ると、すぐそばにアヤメさんと数人の婦警さん達が待機している。
「アヤメさん、後はお願いします」
「はい、良かったですね。戦わずに説得出来ましたから」
うん、そうだよね。
多分「アル」は「石」をばら撒く事が主目的ではない。
でもその為に不幸になる人がいるのは確かだ。
「アル」に大声で言ってやりたい。
人間、捨てたものじゃない。
オマエが邪心を飢えつけようとしても抗う人間がいるんだって。
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