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功刀 康太の遺跡探訪、時々お祓い ~女難あふれる退魔伝~  作者: GOM
第一部 第三章 功刀康太は家庭教師をする

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第12話 康太の家庭教師:0日目「次なる戦いへの序曲」

 あっという間に夏休み期間が終わり、ナナは中学校へ通いだした。

 ナナが学校に行っている間、姫様、いやリタちゃんはマユ姉ぇと一緒に日本語の勉強をしている。


 リタちゃんは、「リタ姫ファン倶楽部」と正明さんの協力で、無事(?)記憶喪失で身元不明の子供と認定され、とりあえずの戸籍を得ることが出来た。

 正明さんは家庭裁判所だ、警察だ、市役所だと大忙しだったようだ。


 「リタさん、これで貴方は私たちの娘です。よろしくお願いしますね」


 そういって、正明さんはリタちゃんを家族に迎えた。


 「Dankeありがとう


 そうこれで、リタちゃんは戸籍上ナナの妹になったのだ。


 そしてひと段落ついた後に、正明さんは再びアメリカへ旅立っていった。



  ◆ ◇ ◆ ◇



「お・か・も・と・り・た」


 リタちゃんは嬉しそうに、紙に鉛筆で自分の名前となった文字を読み上げながら書いている。

 「ひらがな」しかまだ無理みたいだけど、書き始めた頃よりも随分うまくなっている。

 また、日本語での会話も徐々に出来るようになっていた。

 これは夏休みの間、ずっとナナと一緒にいたからだろう。

 更にびっくりしたのは、逆にナナが念話術を覚えちゃった事だ。

 これも長い間二人が一緒にいたからだろう。


「えっへん、ボク偉いでしょ」

〝コウ兄ぃにも出来無い事、ボクが先に覚えちゃったよ〟


 念話込みでナナに自慢されたけど、実際俺がまだ使えない術を先に覚えられちゃったのは事実だ。


「はいはい、偉い偉い」


「なんで頭撫で撫でしながら褒めるの! ボク子供じゃないからやめてよ」


 子供扱いされて怒るのはお子様だけだよ。

 そうそう、リタちゃんが姫様って言われるのをやめて欲しいって言ってきたのもこの時。


「ひめさま、いわないで。ちゃんで、よんで」

〝もう私は岡本家の一員、ナナお姉さまの妹です。この世界にいる以上、私は姫でもなんでもありませんので、お願いします〟


「おねがい、おかあさん」


 こう言われた時のマユ姉ぇの嬉しそうな顔ったら。

 特に「おかあさん」って呼ばれたのが嬉しかったんだろうな。


「もー、可愛い事言うのね、リタちゃん。そうよお母さんですよ」


 そういってマユ姉ぇはリタちゃんを抱きしめた。


「もう少しこっちの世界の事と日本語の勉強をしたら、リタちゃんも学校に行きましょうね。ドイツ系の外国人学校でも良いし、日本の学校でもいいわ」


「がっこう、どうして、いく?」


「それはね、この国では子供を学校で勉強できるように親がしなさいという決まりがあるの」


「それ、いいこと。もし、わたし、かえる、むこう、がっこう、つくる」


「そうよね、教育は大事よ。誰もが自分で考える力を得られれば、悪い人に騙される事もおきないし、少しでも世の中が良くなるわ」


「わたし、がんばる」


「良い子ね。リタちゃん絶対良い女王様になれるわ」


 マユ姉ぇは、嬉しくなりすぎてリタちゃんを抱きしめすぎたのはご愛嬌か。


「おかあさん、くるしぃぃ」



  ◆ ◇ ◆ ◇



 さて、俺の方だが順調に修行の効果が出てきたようで、大分サマになってきていた。

 もちろん、マユ姉ぇには勝てるはずないけどね。


 ただ、どうしても俺の呪には弱点があって、射程距離が短い。

 マユ姉ぇだと火球を20m近く飛ばせるけど、俺は2m程度がやっと。

 雷撃でも同様で、威力ではマユ姉ぇと俺で殆ど差は無いんだけれども、ここまで射程が無いと戦い方を考える必要がある。

 この間のデモン戦では、「石」と聖別されたプラチナチェーンで「炎の剣」を一時的に作れたから射程が稼げただけ。

 本来の俺の力じゃ呪を接近戦に使うしかない。

 この問題に俺が困惑していた時、マユ姉ぇはある道具を実家から探してきてくれた。


「コウちゃん、これ使ってみてはどう?」


 マユ姉ぇが差し出してくれたのは、密教法具の一種、三鈷杵(さんこしょ)

 外観からしてかなり古いもので銀製、全長20cmくらい。

 三鈷杵は、真ん中が膨らんでいて両側に刃がフォークのように3本に分かれたものがついている。

 これが、刃が1個なのが独鈷(とっこ)、5本あるのが五鈷杵(ごこしょ)でまとめて金剛杵(ヴァジュラ)と言われていて、煩悩を打ち砕く効果があるそうな。

 確か弘法大師様の持たれていたのも三鈷杵だったはず。


「これは、私の実家筋で昔使われていたものなの。たぶんコウちゃんなら使いこなせると思うわ。他にも鋼製の独鈷とかあったけど、警察に捕まるかも知れないから止めたの」


 銃刀法に引っかかりそうなものはダメだよね。

 みっちゃん「光兼」なら警察には日本刀として届け出済みだから、袋から出さない限り大丈夫だろうけど。

 流石に銀製の密教法具なら警察も文句は言うまい。


「これって普通に呪の媒体に使えばいいの? 流石に強度が足りないから武器としては使えないと思うけど」

 しかし、俺の予想を超えた事をマユ姉ぇは言った。


「それはね、ビームサーベルになるの」


 え、今なんて言いましたか?

 まさか、マユ姉ぇからビームサーベルって単語出るとは。

 マユ姉ぇ、Gダム見ていたのかな? ファースト派かな、それとも「種」派かな、まさか「鉄血」派ではないよね、だってあれビーム全否定だもん。

 と、普通言いそうもない人からの衝撃の単語を聞いた俺の思考は現実から斜め上へ離れていた。


「コウちゃん、ちゃんと聞いているの? 私が言った事分からないの?」


「えーっと、今の科学力ではビームサーベルは出来ないんだけど」


「じゃあ、ライトサーベルって言えばいいのかしら、『星の世界の戦争』じゃあそう言ってたわよね」


「つまり、『光の剣』という事だよね。最初からそう言ってよ。突拍子もない事言われたからびっくりしすぎちゃったよ」


「コウちゃんだから持ち方とかは知っているのよね。真ん中を握って「刃」を作る念を込めれば光の剣が両側から出るはずよ。使いにくいなら片側だけって念を調整すればいいわ」


 どれ、じゃあ使ってみますか。

 俺は水平に三鈷杵を持ち、念を込める。

 〝光の刃よ! 片側だけ〟


 すると、三鈷杵の真ん中の刃から光の剣が伸びた。

 ほいっと振ってみると重さは全く感じないし、伸びていた庭の夏草を払ってみるとスッパリと切れた。


「流石、コウちゃんね。ちゃんと剣が作れているわ」


「すごい、こうにいちゃん。かっこいい」


 姫様、いやリタちゃんに片言で褒められるのは、くすぐったいや。


「確かに見栄えはいいけど、コウ兄ぃがカッコいいのはどうなんだろう」


 ナナ、そんな処に疑問を挟むなよ。


 しかし、この剣重さを感じない分取り扱いが難しいね。

 間違って自分を切っちゃいそうだ。

 そういえばライトサーベルもそういう事で使いにくいって話だった。


「後、もちろん呪の強化アイテムとして使えるから射程も延びるはずよ」


 どれ、では火炎呪を。


「ナウマク サマンダ バザラダン カン!」


 不動明王火炎呪の1呪バージョンを三鈷杵から打ち出すイメージで唱える。

 そうすると剣先から火炎弾がひょろひょろながら10mは飛んでいった。

 うん、使えるねコレ。


「これで、たぶん大丈夫。コウちゃんが使いこなせれば次の戦いでも安心ね」


 え、マユ姉ぇ、その意味深な発言は何ですか?

 また何かに俺巻き込まれるんですか?

 前もマユ姉ぇの予言当たっていたから怖いんだけど。

 

「今のはどういう意味?」


「いえね、私と吉井先生の共通の知人から頼まれている事があるのよ」


「一体何を頼まれたの、マユ姉ぇ?」


「コウちゃん、家庭教師やってみない?」


 なぜに家庭教師が危ないのですか?

 まさか妖怪の家庭教師とかじゃ無いよね。

 

 俺の疑問は増すばかりだった。

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