第119話 康太は公安と仲良くなる:その24「蜘蛛少女の葛藤」
「次のターゲットは、この学校ね。うわー、えげつないイジメね。こういうヤツらは酷い目にあわないと自分の悪を自覚しないんだから」
ボサボサの長い髪の少女はスマホ画面を凝視している。
「これはその次ね。この子の親も毒親か。こんなキラキラネーム付けたら子供がどんだけ苦労するか分からないのね」
少女、松本 月々菜は苦々しく画面を見ている。
月々菜と書いて「るなるな」と読む。
月だけで、もしくは月菜で「るな」と読むならまだ分かる。
月の女神ルーナ(ローマ神話、ギリシャ神話ではアルテミス、セレネ)から由来しているのは、彼女も知っている。
だけど、いくらなんでも「るなるな」は、あり得ない。
母親が親戚全員の反対を無視して出生届けを出してしまったそうだ。
彼女、ルナは母親が大嫌いだった。
このキラキラネームのおかげで学校でもイジメられていたから。
その上、母親は何かと彼女の行動に干渉して、母親の思い通りになるようにしようとさせていた。
ルナは学校側に自分から、自分の変な名前がイヤで「るな」とひらがな表記で呼んでもらうようにお願いしていた。
調べたところ、15歳になれば家庭裁判所に申請すれば親の同意が無くても改名できるらしい。
それまでの実績を積むために、中学入学以降は母親を無視して「るな」で通した。
幸い、同じ小学校校区からルナと同じ中学校に通う子達は少なく、同じ小学校だった子達は皆ルナの事情に同情的で、しばらくは問題が無かった。
しかし、中学1年の冬、ふとした事で「ルナ」の本名がバレる事態が起こった。
母親から学校への通知文が、誰かの目に付いたらしい。
小学校時代からの友人達は皆ルナを庇ってくれたものの、多勢に無勢。
ルナはその名前から、からかわれイジメられる対象になってしまった。
「全く学校も事なかれの上に秘密主義なんだから。私の時も学校全体でイジメをもみ消すんだから、あんな目にあうのよ。どこも同じね、普通もう警察とかマスコミが動くのに、まだどこもだんまりなんて。まあ、良いわ。その分、まだ私が戦えるんだもの」
今中学2年、14歳になったルナ。
学校でのイジメと母親の過干渉がイヤで不登校となり、自室から殆ど出ない生活をしている。
今では、部屋の隅っこから現れるハエトリグモが唯一の友達だ。
「キミは良いよねぇ、1人で生きていけるんだもの。人間は、ややこしいよ」
全ての事に不満を持ち、その「はけ口」を探していたルナは、ネット上のとあるスピリチュアルアクセサリー店のページをたまたま見た。
そこには多くの綺麗なアクセサリーが表示されており、その内とある虹色の石を使ったペンダントに、ルナは眼を奪われた。
その虹色の輝きはルナの心に染み入り、これがどうしても欲しくなった。
高額なものだと中学生の自分では買えないし、宅配では母親に詮索されて最悪奪われるかも知れない。
しかし、そのペンダントの価格はルナのお小遣いで十分買える価格で、配達時にも文房具という形で配送してくれるらしい。
ルナは思わず、そのペンダントに飛びついた。
そう、それが「アル」のワナとも知らずに。
虹色のペンダントを入手してからのルナは、いつもそのペンダントを身に着けていた。
何か高揚した感じがして、不満も大分改善されたかに思えた。
しかし、母親が勝手にルナの部屋に入ってきて、ルナの持ち物検査をし始めた時、その不満は爆発した。
母親からすれば、娘がペンダント等を買っておしゃれをして「オンナ」になるのに抵抗があった。
娘が身奇麗にして外に出ようとするのを拒んだ。
本来であれば娘の自立を喜ぶべきなのに、年頃になっていく娘の「若さ」に嫉妬したのだ。
それは最近、夫から相手にしてもらえない自分に対する苦悩もあったのかも知れないが。
その夜、ルナの怒りは石を通じて彼女をアラーニェへと変化させた。
何故か変化を当り前のように受け入れたルナ、彼女の怒りは、最初に母親へと向けられた。
母親は、ルナの異形に恐怖し、そしてその原因が自分である事を思い知らされた。
糸でぐるぐる巻きにして天井から母親を吊るしたルナ。
彼女は、今までに溜まっていた不平不満を全て母親にぶつけた。
「どうして母さんは私を束縛するの? 私は私、母さんじゃないのよ。名前だってどうしてこんな恥ずかしい名前にしたのよ! 子供が自分の思い通りにならないからといって子供の心を踏みにじらないで! それに娘に嫉妬なんて恥ずかしいわ」
母親が泣き叫び、失禁する姿を見たルナ。
その哀れで惨めな中年女を見て、母親に対する恨みや怒りはどこかへ消え去った。
怒りが消えると共に、ルナの姿は再び人間へと戻った。
ルナは、母親にこれ以上干渉しないように、そして蜘蛛女へとなった事を口止めするように脅した。
天井から下ろされた母親は、娘を怯えた眼で見て、ルナの脅しに屈した。
それからルナは、学校で自分をイジメた相手に復讐する事を考えた。
SNSを上手く使い、イジメをしていたグループ、そして彼らを「えこひいき」していた先生を深夜の中学校におびき寄せた。
後は、母親にしたのと同じ事をするだけ。
変身後のルナの顔は、今よりも随分大人びて美人に見えた。
スタイルも今より大人びており、恥ずかしかったけどバストを晒しても異形ながら美しく見えた。
だから蜘蛛女の正体がルナなんてバレはしない。
そして美人の異形な蜘蛛女、そのインパクトは十分だった様だ。
「ひぃぃ!」
「助けて!」
「私達が何したっていうのよ!」
「なんで俺がやられなきゃならないんだよぉ!」
イジメっ子達や先生は恐怖に慄き、泣き喚き、失禁、脱糞と酷い有様だった。
後は、彼らを屋上から吊るしておいて、翌朝その情けない姿が発見されれば十分。
彼らの哀れな姿に満足したルナは、彼らを放置して帰宅した。
その後ルナは、自分と同じくイジメや親から困っている子達をSNSで発見しては、彼らを困らせている人物たちを懲らしめていた。
彼女にとって、同じ境遇の子達の悲鳴は自分の悲鳴と同じ。
なんとしても救ってやりたいと思った。
だからこそ、懲らしめる対象を必要以上に攻撃はしなかった。
なぜなら、自分は彼らバカと同じ次元まで下がりたくなかったからだ。
後、ルナには霊能力の才能があって、「石」を全く暴走させる事無く使いこなしていた。
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