第117話 康太は公安と仲良くなる:その22「夕暮れの海岸、そして……」
俺とコトミちゃんがマユ姉ぇの元に帰ったのは、2人で泳ぎに行ってから1時間弱くらいしてから。
コトミちゃんのにこやかな笑顔と少し腫れた目元を見てマユ姉ぇは安堵半分、心配半分といった感じ。
「コウちゃん、貴方の事ですもの。ナニも無かったとは思うけど、大丈夫よね」
「うん、コトミちゃんは大事な友達で後輩なんだから変な事はしないよ。まあ、少しは動揺したけど」
オトコだもの、真っ白な肌、良い匂い、柔らかい大きな胸の女の子に抱き付かれ泣かれては動揺しないはずは無いよ。
「そうよね、コウちゃんってそういう度胸は無いから大丈夫よね」
「えー、マユお姉様何言っているんですか? 先輩はイイオトコですよ。そりゃもう少し女の子に積極的になってもらいたいですけど」
「そうよね、コウちゃん。悪魔には容赦ないけど女の子の涙に弱すぎですもの。ちょっと甘すぎて八方美人なのよ」
おい、そこ2人とも俺に対して酷い事言ってないかい?
「コウタ君。どうもありがとう。コトミちゃんを大事にしてくれて」
将棋で正明さんに完勝した教授、どうやらコトミちゃんの件が解決した途端、本気モードで蹂躙したらしい。
そのためか、正明さんの表情が少し虚ろだ。
「いえ、俺は何もしていませんよ。何かしたのならチエちゃんだし、教授でしょ。聞きましたよ、過去の武勇伝」
「それこそ私は何も出来なかったんですがね。彼女に対して話を聞いて、少々知恵を授けたくらいですから」
「でも、あの時教授が助けの手を伸ばしていなかったら今のコトミちゃんは居なかったんですから、恩人には違いありませんよ。それにコトミちゃんが元気だから助ける事が出来た人もいた訳ですし、全部教授のおかげです。俺もずいぶん助けてもらっていますし。このご恩はいずれお返しします」
「いえ、老い先短い私に返さなくて良いんですよ。他の困っている人を助けてあげて下さいね」
ホント、教授って立派だよ。
ん? あれ、今おかしい事言わなかった?
「教授、老い先短いってどういう意味ですか? 教授ってまだ五十路ですよね。人生30年は残っていませんか?」
「まあ、普通ならそうですね。一応健康診断でも酷く悪いところは無かったですし。でもね、この歳になると先を考えちゃうんですよ。もはや老いていく一方ですから。ならば残る力を若い者を育てるのに使っていきたいですからね」
うーん、この辺りはまだ20代前半の俺には分からない境地かな。
そこにだいぶ日焼けしたナナ、少し赤くなったリタちゃん達幼年組が帰ってきた。
「海、いっぱいあそんじゃったよー!」
「うん、うみ、しょっぱくておおきくて、すっごいの」
「お姉ちゃん達、また一緒に遊ぼうよ。マリと一緒に遊べる人なんてお姉ちゃん達以外にいないもの」
「うむ、ワシも存分に遊んだのじゃ。これでまた頑張れるのじゃ!」
「皆、十分遊べてよかったね」
皆、楽しめたのなら良かったよ。
マサト、子守お疲れ様でした。
女子高生組もアヤメさんに存分に鍛えてもらったのか、姿勢が良くなっている。
「先生、私どうですか?」
「ワタシもどう?」
うむ、そんなに見事なプロポーション見せつけなくても良いです。
「コウ兄ぃ、鼻の下伸びているよ。カオリお姉ちゃん達、そのくらいにしないとコウ兄ぃ、困るから。ね、下半身固くなると」
ナナはちゃっかり俺の腕に抱き付き、カオリちゃん達に言う。
おーい、ナナどこでそんな下ネタ覚えたんだーい!
「ナナ、冗談はそのくらいにしようか。下ネタなんて女子中学生が言っちゃダメだよ」
「はーい」
舌をぺろっと出して可愛く誤魔化すナナ。
抱き付くことも含めて、こうやって自分が正妻だとアピールしているのかも。
うむ、その可愛い仕草すら計算づくだとしたら恐ろしや。
「姉御、何かいりませんか?」
「タクト君、もういいから」
アヤメさんにコバンザメしているタクト君。
俺も意中の人が出来たら、あのくらい必死に食いついた方が良いんだろうか?
「さあ、後片付けして帰りましょうか。皆忘れ物ないようにね」
「はーい」
こうして俺達の海水浴は終わりを告げた。
◆ ◇ ◆ ◇
カーテンを閉め切った部屋。
クーラーの稼動音だけが響いている。
「あのバカ共にバカ親、絶対後悔させてやるんだから」
虹色に光る「石」が付いたペンダントを握っている少女。
長い髪を纏めもせず流している姿は「貞子」風。
その「怒り」の念を吸った「石」は怪しく光り、少女の姿を異形のモノへと変えていった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふむ、ようやく新たに『石』が眼を覚ましましたか。なかなかうまくはいきませんねぇ。この『世界』、妙に『殻』が固いのか、別世界からの干渉がうまくいきません。おかげで端末である我ですら、時々『電波』が圏外になるのですから」
雨戸やカーテンを閉め切った真っ暗な部屋の中、若い女の裸体を押し伏せる「アル」。
「最近、目覚めた『石』が直ぐに撃退されてしまうのはどうしてでしょうねぇ。どうも同じ人達に倒されているようですし。早く『殻』を破って我の本体や他のモノ達をこの世界に呼び出したいものです。その為にも『石』をどんどん活性化させて『殻』に穴を沢山開けないといけませんね」
「アル」は女を無視して独り言のように話す。
実際、アルの身体の下にいる女は、うわ言めいた嬌声以外の反応を示していない。
「ああ、この子もダメですか。かなり存在力の容量があったはずなのですが、もう電池切れとは。本体から存在力の供給が来ない以上、こちらでチマチマと吸い集めるしかないですし」
「アル」は何の感傷も無く、自らの下で呻く女を見た。
「さあ、最後に『この世』で最高の快楽を授けますよ。貴方の全部を咲かせて下さい。そして貴方の全てを我に下さいな」
「アル」は邪な笑みを浮かべて、動き出した。
その顔には燃え盛る3つの眼が光る。
そして部屋には女の激しい喘ぎ声が響いた。
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