第112話 康太は公安と仲良くなる:その17「馬頭との戦闘!2」
「では、門を開きます!」
朧サンが宣言すると、グラウンドの中心に木製に見える大きなドアが出現する。
しばらくするとドアを蹴破るようにして馬男、萩原 和夫が飛び出てきた。
「ここは?」
馬男が不思議そうに周囲を見る。
「萩原さん、貴方には不法侵入、拉致監禁、傷害、軽犯罪法、迷惑防止条例その他もろもろで逮捕状が出ています。大人しく変身・武装を解除し我々と同行して頂けませんか?」
中村警視が、馬男に逮捕状を提示する。
逮捕状って裁判官が被疑者を逮捕する理由を審査して発行されるそうなんだけど、どうやって超常犯罪を裁判官に納得させたんだろう?
寺尾室長が味方についたから出来たかな?
「ぐるゥぅ! どうして俺が萩原だと分かるんだよ。それにどうやって俺を捕まえるんだい?」
馬男はそう言うと、その脚力を生かして長距離の跳躍をする。
「残念な男じゃ。さっきの迷宮から学習をしておらん」
チエちゃんが呟いたとおり、馬男はマユ姉ぇ達によって張られた結界に弾き飛ばされて、グラウンドから出てはいけない。
「なんだよ、これは!!」
着地に失敗して尻餅をつきながら文句を言う馬男。
「キミはもう詰んでいるんだ。大人しく捕まれば悪いようにはしないよ。暴れるつもりなら大分痛い目みちゃうぞ」
中村警視が優しく説得する。
いかなバケモノとは言え、今回はまだ話が出来るし殺人も起こっていない。
罪状が傷害程度で終われば、一番だ。
「何を言う。俺が怖く無いのか! バケモノだぞ! お前らなんか一ひねりだ!」
うん、こりゃ痛い目見てもらおうか。
そう思い俺が前に進もうとすると、先にナナとリタちゃんが馬男の前に進む。
「ナニ、バカ言ってんのよ、この馬男。そうか、馬だからバカなんだ」
「うん、ばかだよね、このおじさん」
いきなり面と向かって女子中学生に批判された馬男は狼狽する。
「ん、なんだこの小娘共は。さっさと退けよ。お前等の相手なんてしてる暇は無いんだ!」
「だから、奥さんとか娘さんに逃げられちゃうんだよ、オジサン」
「そうそう、おくさんかわいそう」
なんか、ご機嫌斜めで怒りによる攻撃対象を馬男にしている妹達。
どうやら寝不足なのと馬男の娘さんに対する同情からか、怒り心頭らしい。
「お前ら、分かった風な事言うなよ。どうせ何も知らんくせに!」
「知っているよ、オジサンが競馬で会社のお金使い込んでクビになった事も、奥さんと娘さんが逃げたのも」
「うん、むすめさんもかわいそう」
「うぅぅ、どうして知っているんだよ!」
どんどん妹達に追い込まれる馬男。
そして、その様子を眺めている俺達や警察。
というか、口を出せる雰囲気では無い。
マユ姉ぇやチエちゃんが黙って見ているから大丈夫なんだろうけど、とりあえず危なくなったら助けに行けるよう呪の準備をしましょうか。
「そのくらい調べたから逮捕状出ているんでしょ。ボクでもそのくらい分かるよ」
「わたしもわかるよ」
「じゃあ、俺が復讐している理由も分かるだろ!!」
叫ぶ馬男に妹達は冷静に言い返す。
「分かる訳ないじゃん。懲戒解雇だったっけ? 罰になるところをお情けでリストラ対象にしてもらったのを逆恨みしているだけじゃないの?」
「さかうらみ、だめ」
「逆恨みなんかじゃない! 俺にはアイツらを罰する権利があるんだ!!」
涙を流しながら叫ぶ馬男。
あれ? これ大分説得の効果が出ているぞ。
馬男、大声は出しているけど狂気は感じないし、妹達を襲う気配も無い。
「そりゃ会社だから色々あるんだろうね、ボクには分からないけど。でも人を恨んでも何もイイ事無いよ。自分も傷つくし、他人も傷ついちゃう。奥さんも傷ついたからオジサンから逃げたと思うよ」
「うらみは、だめだよ」
「じゃあ、俺はどうしたら良かったんだよ!」
号泣する馬男にナナ達は答える。
「謝ったら良かったんだよ。悪い事をしたら謝りなさいって教えてもらわなかったの? 奥さんにも謝った? 多分、酷い事言っちゃったから逃げたんだじゃないの?」
「うん、おじさん。すなおにあやまったらいいんだよ」
謝る事を勧める妹達。
大人になるにつれ、自我が肥大化して謝る事が難しくなるらしい。
それを言われて混乱する馬男。
「もう、遅いんだよ、お嬢ちゃん達。遅いんだよぉ!!」
そう叫び、妹達の前から逃げるように飛び上がる馬男。
それを見たナナは叫ぶ。
「オジサンのバカぁぁあ!」
そしてナナの背後で待機していた九十九神小物達が展開して砲撃を開始する。
タイル小物が馬男を囲い込み、そこに漏斗が攻撃を加える。
「あう!」
撃墜された馬男に望遠鏡と、もうひとつ新たな九十九神が砲撃を加える。
「あれって、まさか砲筒?」
俺の疑問にマユ姉ぇが答えてくれる。
「あれはね、打ち上げ花火の打ち上げ筒なの。ついこの間ナナが仲間にしたのよ」
そうか、この間の修行でタクト君が吹っ飛ばされていたのはアレね。
「打ち上げ筒サン、どんどんいけー!」
レーザーと爆裂弾を満遍なく喰らい動けない馬男。
「おねえちゃん、こんどはわたし!」
そこにリタちゃんが加わる。
「どっかーん、ふっとベ――!!」
魔法少女杖に光が点り、茶色っぽい色に変わった後、馬男の足元に着弾する。
そして馬男は大量の土砂と一緒に天高く打ち上げられた!
「たまや――!!」
そして馬男が着地する寸前、リタちゃんから魔法が放たれ、再び馬男は打ち上げられる。
「かぎや――!!」
そして延々と空中に打ち上げられる馬男。
「アレって無限コンボじゃない? 地面に足が付かなければ逃げられないよね」
俺の問いにチエちゃんが答えてくれる。
「そうじゃな。もう馬男はリタ殿の術からは逃れられまい。じゃが手加減をしておるのは分かるよな、コウタ殿?」
うん、あ! そうか。
落ちる前に打ち上げているって事は逃げられない代わりに落ちた時のダメージを受けないんだ。
「落下ダメージを受けないように、ずっと空中に打ち上げているんだね」
「そうじゃ。一見スゴイダメージを受けているように見えるのじゃが、打ち上げておるのが爆発じゃのうて土砂が吹き上がる勢いなのじゃ。なので、案外痛くはないのじゃよ。言わば手荒い胴上げじゃな。ホレ、見てみろや。馬男、文句を言いながら打ち上げられておるじゃろ?」
「おい、やめろ。やめろって。やめて。やめてー!」
段々情け無い文句を言い出す馬男。
ダメージが少ないかもしれないが、空中でかき混ぜられるんだ。
三半規管にものすごい負担がかかりそう。
俺、実はあまり乗り物に強くないから、アレ喰らったら直ぐにゲロダウンしそう。
「やめて、やめてぇ、やめてくださーい、やめてよぉぉ!」
すでに泣き言モードに入っている馬男。
しかし、リタちゃんは寝不足からのハイモード。
もはや、そう簡単に許してはもらえない。
「たまや――! かぎや――!」
「リタちゃん、どんどんやっちゃえ!」
これを見ていた機動隊のオジサン、俺に近づいてきて、
「アレ、おっそろしいなぁ。坊主、オマエ絶対浮気できないぞ」
「はい、肝に銘じておきます」
うん、ウチの妹達を怒らせたら怖いよね。
「やめてぇぇ! ごめんなさーい。 俺が悪かったぁぁ! 許してぇぇ! 早く逮捕してぇぇ!!」
この後、馬男が泣き叫び、許しを請いながら謝り、逮捕してくれと叫んだ後も、馬男は哀れな事に5分間ほどミキサーされ続けたとさ。
おしまい。
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