第111話 康太は公安と仲良くなる:その17「馬頭との戦闘!1」
馬男、萩原 和夫はとても焦っていた。
先程から、どことも分からない迷路の中で迷っていたからだ。
馬男は走りながら叫ぶ。
「アイツ、一体何者なんだ! どうして俺の事を知っているんだ! ここは一体どこなんだ! クソォ、どこが出口なんだよぉ!!」
◆ ◇ ◆ ◇
復讐をする為に向かっていた専務宅に到着する寸前、黒い執事服姿の細身の男が馬男の前に現れた。
「私は、あるお方の執事をしております朧と申します。萩原様、お急ぎのところ申し訳ありませんが、しばらく私の相手をして頂けませんか?」
華麗、かつ慇懃無礼に挨拶した黒執事に対してイラついた馬男は、
「邪魔だ、どけ!」
と叫び、その膂力溢れる腕で黒執事を全力で薙ぎ払う。
萩原は、薙いだ瞬間手加減を忘れていた事に気がつき、しまった殺してしまったと思った。
しかし、その腕が通過した空間には黒執事はおらず、腕は空を切った。
「ん?」
何の感触も無かった事を不思議がる馬男だが、周囲の風景が急に変わったことに気が付き、更に困惑した。
深夜の住宅街に居たはずの馬男、今は5m以上の石壁と石でできた灯篭が立ち並ぶ幅4m程度の石畳な路上にいた。
「おい、おまえ! 何処に行ったんだよ! ここはどこなんだよ!!」
馬男は叫ぶが、壁に反響した声に答えるものはいない。
黒執事は何処にも見当たらないからだ。
「くっそ! こんな壁くらい飛び越えてやる!!」
馬男はその強化された脚力で壁を飛び越えるように跳躍をした。
「ぎゃ!!」
しかし、馬男は壁の上にある「見えない壁」に衝突し、地面へ跳ね返された。
「なんだよ、ここは? まさか迷路かよ! なんで俺がこんなところにいるんだ!!!」
納得できない馬男、今度はすさまじい脚力を走る事に使い、迷路内を延々と走る。
「出てこい! そして俺をここから出すんだ!!」
馬男の叫びは迷路内に広がるが、これまた誰も答えてはくれなかった。
◆ ◇ ◆ ◇
「『朧』よ、ご苦労じゃったな。馬男は、走り回っておるようじゃが、もうしばらくはこのまま暴れてもらうがいいわい。その間にこちらも逮捕の準備が出来るのじゃ」
今、俺達がいる場所はA地点、外資系会社勤務の専務宅にほど近い運動公園だ。
「ここをバトルステージにするんだね、チエちゃん」
俺の質問に答えてくれるチエちゃん。
「そうじゃ、深夜の住宅街で戦闘なぞしとうもないわい。ご近所迷惑じゃし、被害が出たらたまらんしのぉ」
今、馬男は朧サンが作った奇門遁甲迷宮の中、延々と走り回っているそうだ。
「もうじき所轄の方々が到着します。逮捕の準備が出来次第、迷宮から馬男を出して頂けませんか?」
寺尾室長のお願いにチエちゃん、
「このグラウンドから出ぬように結界中じゃ。その準備も待ってから勝負に出るのじゃ!」
今、マユ姉ぇ、ナナ、リタちゃんが協力してグラウンドを囲っているフェンスに結界設置用のお札を貼っている。
「ねむいよぉ、はやくどっかーんしたいよぉ」
「ボクも眠いぃ、リタちゃん、もう夏休みだから帰ったら夕方まで寝ようねぇ」
「うん、そうしよう。おねえちゃん」
「ナナ、リタちゃん。もうちょっとだから頑張って。帰りの車の中で寝ていいからね」
時はすでに7月後半、世の学校は夏休み入りしている。
因みに大学院研究生の俺には、まとまった夏休みなど無い。
この事件が片付いたら、また修士論文との対決が待っているのだ。
でも、出来たら夏休み中に皆で海とかプール行きたいな。
浴衣姿は堪能できたので、今度は水着姿も見たいと思うのが若い健康な男としての正常な思考。
もちろん鑑賞以上の事は考えていない、見るだけでも満足だね。
うん、そういうエロ楽しい事をご褒美にがんばりますか!
と、無駄思考を2秒ほど使った俺だった。
だって、今なら忙しそうにしているマユ姉ぇやナナ達に思考盗聴(笑)されないもん。
実のところ余所の「胸」見るだけでも正直、妹達からの嫉妬が怖いし。
◆ ◇ ◆ ◇
そのうち、数台のパトカーと機動隊やSATのバスが運動公園に到着した。
警察の先頭には中村警視、機動隊の方々の中には魔神将「騎」戦の際に一緒に戦ったオジサマもいらっしゃる。
「坊主、あれからずいぶん逞しくなったな。今回もよろしくな!」
「はい、こちらこそ宜しくお願い致します」
こうやって戦友達と再び一緒に戦えるのは嬉しい事だね。
お互い手の内が分かっていると協力・連携もしやすいし。
「コウ君、この間はあまり話せなかったけど、君らどんどんすごくなるよね。まさかあの時の悪魔まで味方につけるなんて」
中村警視が俺に話しかけてくる。
そういえば、警視は警察署で俺と一緒にマユ姉と朧サンの対決を見ていたよね。
「まあ、最初のいきさつはどうあれ今では心強い仲間ですよ。今回も張り込みやら追い込みは朧サンにまかせっきりでしたし。チエちゃんに至れば、今では絶対いなくちゃならない姉でもあり妹でもありますから」
そうこうしている内にマユ姉ぇ達の結界設置が完了し、グラウンドを囲うフェンスがぼんやりと光りだす。
「皆、結界の準備が出来たわ。寺尾室長、チエちゃん、宜しくね」
マユ姉ぇの掛け声で、皆戦闘準備をする。
「警察側、準備できました!」
「ワシらも大丈夫じゃ! 朧よ、準備良いな?」
「はい、チエ様。 これから、こちらに門を開きます。おそらく萩原様が飛び出してくると思いますので、宜しくお願い致します」
さあ、気合入れて勝負開始だ!
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