第109話 康太は公安と仲良くなる:その15「捜査一休みしての修行回!」
「うむ、ワシの姿を見切れるのか、試してみるのじゃ!」
今は捜査結果待ちの修行中。
休憩を必要としない「朧」サンが容疑者に張り付いて監視してくれているから、安心して待っていられる。
俺は修行で焦げた身体を回復しながら、チエちゃんとアヤメさんの対戦をリタちゃんと観戦中。
「こうにいちゃん、いたくないの?」
心配そうなリタちゃんに俺は笑って答える。
「もう大丈夫だよ、リタちゃん」
今日の俺の相手はリタちゃんだけど、10回挑んで2回程タッチするのがやっとだ。
「いきます!」
アヤメさんは、チエちゃん相手に踏み込む。
尚、得物は危険防止ということでスポーツチャンバラの剣。
普通の日本刀だとチエちゃんなら大丈夫だけど、アヤメさんの方が無意識に手加減してしまうので、逆に手加減の必要が無い得物の方がやりやすいんだとか。
「甘いわ!」
チエちゃんは、右手に握ったチャンバラ剣で無造作に剣の腹を叩き攻撃を逸らす。
そして、アヤメさんの後方に現れた別のチエちゃんがアヤメさんの頭部をチャンバラ剣で軽く打つ。
「え、チエちゃん、分身したの?」
「チエさん、これは一体?」
「ちえおねえちゃん、ふえた!」
俺もアヤメさんもリタちゃんも、何がなんだか分からない。
普通の分身は高速移動による残像で、本体と同じ動作しか出来ない。
しかし、チエちゃんは全く違う行動をする分身、忍者漫画でいうところの「影分身」をしたのだ。
「これか、某影分身と似てはおるが原理は別じゃ!」
「これこそ、次元鏡影分身じゃ!!」
2人のチエちゃんが続けて話す。
すっかり呆れている俺達を前にして自信満々で「無い胸」を張り上げてステレオで笑うドヤ顔チエちゃん。
その内、双方ともノイズが入ったようになった後、チエちゃんは1人に戻る。
「様は、ワシお得意の空間操作で時間差を作り、ワシが複数この時空に存在できるような鏡像を作ったという事じゃ。これの利点は別の行動を同時に行えるのと、どちらも鏡像じゃからやられても問題ないのじゃ!」
それ反則攻撃じゃないの?
「コウタ殿、反則とでも言いたそうじゃな。じゃが、魔物相手ならどんな攻撃をするか、初見で対応出来ねば死ぬのじゃ。じゃから、相手の策を見抜く『目』を養う為に、理不尽な攻撃を喰らうのも修行なのじゃ」
チエちゃんの意見にアヤメさんは同意する。
「そうですね、実戦では油断する方が悪いのですから。そういう意味では初見殺しワザを持つのは悪くないですね」
「そうじゃな。見せワザと必殺技、手札は多いほうが良いのじゃ。うむ、このワザならアヤメ殿でも出来るかもなのじゃ!」
その時、俺は強烈な殺気を後方から感じて振り向いてしまった。
アヤメさんも同じくそうしたが、そこには何も無いし誰もいない。
「どうじゃな、今のは実体と気配の分離じゃ。一種の幻覚、催眠術の類じゃが、これも分身と同じ様な効果があって、気配感知に頼る敵に効果的じゃ! フェイントに使うと強敵ほど面白い程にはまるのじゃ!」
チエちゃんは、自らの殺気だけを後方へ動かしていたらしい。
確かに次元反転とか言われたら人類には無理だけど、これもいい加減大概じゃないかな?
「チエちゃん、面白そうな事をしているのね。私も少し相手してくれない?」
そこに参戦するマユ姉ぇ、実に大人気ない。
「母様相手では手加減もしずらいのぉ。本気ださねば厳しいのじゃが」
「いいじゃないの。私チエちゃんとは戦った事ないし、一度は遊んで欲しかったんだもの」
そういえば確かにマユ姉ぇVSチエちゃんという我が家の2大巨頭の対決は見ものではある。
マユ姉ぇはアヤメさんから得物のチャンバラ剣を借り、軽く振って感覚を掴んでいる。
尚、向こう側ではナナVSタクト君の対決が行われており、爆発音とともにタクト君が吹き飛んでいるのが見える。
知らぬ間にナナって爆発系攻撃できるようになったんだ、おっそろしや。
「では、参ります!」
マユ姉ぇはチエちゃんに踏み込む。
しかし、マユ姉ぇはアヤメさんとは違い、瞬動法を利用した多重分身をしながらの攻撃を行う。
それを同じく分身で迎え撃つチエちゃん。
これは眼が追いつかない。
「めがまわるぅ!」
「気配も分散している分、すさまじい攻防ですね」
激しい攻防は延々と続く。
おそらく、どちらかが一瞬でも隙を見せれば勝負が付く。
「ならば、これでどうじゃ!」
チエちゃんはステップバックして攻防から離れる。
そこに踏み込むマユ姉ぇの足元に落とし穴が開く。
この間の火炎魔人戦で見せた技だ。
「あらぁ」
穴に嵌るマユ姉ぇに飛び掛り攻撃をするチエちゃん。
「隙アリじゃぁ!!」
「うん、そうね。でも、それはチエちゃんも同じね」
空中にあって避けられないチエちゃんに向かって、まるで千手観音みたいに腕だけ瞬動法で多重分身させて両手で突きワザを行うマユ姉ぇ。
マユ姉ぇから分身した腕の数だけ真空を伴う衝撃波が、ほぼ同時にチエちゃんへ向けて放たれる。
広範囲に空間を穿つ打撃からは、空中では避けることが出来ないチエちゃん、モロに攻撃を受ける。
体重が軽いチエちゃんは、マユ姉ぇからの攻撃をガードをするもキレイに吹き飛ばされた。
「チエちゃん、大丈夫? ちょっと本気出しすぎちゃったわ」
穴に落ちたときにすこし足を痛めたのか、落とし穴から出て足をさするマユ姉ぇ。
しかし、隙を逆転のきっかけに使うマユ姉ぇはすごいや。
「うみゅう。流石は母様じゃ、あそこからひっくり返されるとは思わなかったのじゃ!」
吹き飛ばされても案外元気そうなチエちゃん、しかし着ているTシャツには数箇所切れた後が残っている。
「攻撃時が最大の隙ですもの。特に空中から攻撃は悪手よ。いかなチエちゃんでも空中機動は楽じゃないでしょ」
「うむ、そうじゃな。落とし穴が決まりすぎたので油断したのじゃ。しかし母様、一体なんじゃあの攻撃は?」
マユ姉ぇの足を治癒しながら聞くチエちゃん。
「あれね、立ち止まらないと出来ないんだけど、昔漫画で見たのを試してみたら出来ちゃったの。今度、呪文も併用して真空竜巻波とか真空光輪を試してみたいわ」
えーと、それって確か超人達がロボット乗って戦う神話漫画の技だよね。
そんなの現実に出来るのマユ姉ぇくらいだって。
しかし、マユ姉ぇってよく漫画とかのネタ技を現実にしちゃうんだから、怖いよねぇ。
前に教えてもらった漫画技の「後頭部にみかん」は実際俺にも出来て役に立ったけど。
「あれか。うむ、ワシも愛読しておるが最近連載休まぬので助かっておる。いかな最終回まで年表が出来ておるとは言え、書いてもらわねば読者は読めぬのじゃ。後、ロボのデザインいきなり替えるのは反則じゃぞ。」
チエちゃんならロボデザイン家として有名な作者の作品を読んでいてもおかしくないか。
俺も、彼のデザインしたロボットが好きだから読んでいたりする。
タクト君をボロボロにして修行が終わったナナがそのまま俺達に加わり、オタク談義が始まるのは毎度の事。
マユ姉ぇの娘だからナナってオタク度高いのでは無いかと最近思う俺だった。
でも俺もどっちかと言うとオタク系だから、まさか「秋山」の血は霊能力だけでなくオタク度も遺伝するのかな?
そうこうしている内にチエちゃんが反応する。
「皆の衆、容疑者が動いたのじゃ。修行後でお疲れじゃろうが行くのじゃ!」
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