第108話 康太は公安と仲良くなる:その14「捜査!1」
「うみゅぅ、なかなか情報無いですぅ」
ゼミ室でクーラーの風を浴びて涼むコトミちゃん。
いかな「耳」が早いコトミちゃんとはいえ、神出鬼没で身元もはっきりしない人物の情報ともなると難しいらしい。
「ご苦労だったね、はい麦茶だよ」
「ありがとうございますぅ」
吉井教授から麦茶を貰って一息いれるコトミちゃん。
「犠牲者の方々の周辺調査は出来ましたけど、警察筋の情報と大変りしなかったですし、お手上げですね」
「コトミちゃんがお手上げなら俺なんて何も出来ないよ」
「ただ、妙な話は聞いたので聞いてくれますか?」
コトミちゃんの「妙な話」は大抵何か意味がある。
「うん、何かな?」
「なんでも馬頭の怪人が出て、人を簀巻きにして晒すんだとか」
なんだ、それ?
どこかのラノベじゃ女の子をポニーテールにしたがる馬ズラのポニ男って居たけど。
「ただ、殺すでもなく痛めつけるでもなく、路上に放置して晒すだけだから、『石』がらみの事件とは少し違う気がするんです。愉快犯というか恨み絡みなのは確かなんですが」
うむ、今までのような暴走パターンとは違って、犯人は理性コントロールは出来ているよね。
必要以上に傷つけていないし。
「後は、馬頭なんですが妙にリアルで被り物とも違うみたいです。写真も頂きましたので、見てもらえませんか?」
コトミちゃんが提示するスマホを見た感じ、写真に写るのはリアルな馬の顔を持った大男。
確か地獄にいる鬼に牛頭馬頭という牛と馬の頭を持つものがいるそうだけど、馬頭っぽいなコイツ。
ん? 胸元に光がある。
「この事、アヤメさんに連絡はしたの?」
「いえ、今日仕入れた情報なので、マダです。先輩の見立てではどうですか?」
「胸に光が見えているから可能性アリだね。後、能力をコントロール出来ているっぽいから、うまくすれば容疑者を確保できるかも」
「じゃあ、早速連絡しますね。これでご褒美もらえるかな? わくわく(笑)」
ご褒美目当てとはいえ、早速情報を仕入れてくれたコトミちゃんに感謝だ。
◆ ◇ ◆ ◇
「馬男と仮称しますが、人を襲っている映像が残っていました。これがそうです」
再びマユ姉ぇ宅での捜査会議、今回は上役の寺尾室長も来られている。
「胸元の『石』が見えるから当りじゃな。音声は無いのじゃな? ふむ、襲われた人物の顔がもう少し鮮明なら、何を話しておるのか分かるのじゃが。この犠牲者は生きておるのじゃろ? 証言は得られんのか?」
チエちゃんの疑問に答えるアヤメさん。
「それが外傷は少ないものの、全員意識不明です。おそらく魂の消耗と思われますので、チエさんから教えて頂きました対処法で処置をしています」
襲われた方々からの証言は暫くはムリという事か。
「なれば、次は襲われた人物に共通点はどうなのじゃ?」
刑事ドラマを海外系から時代劇まで網羅しているチエちゃん、なかなか堂に入っている。
「彼らの共通点としまして、全員同じ外資系会社の重役及び管理職でした。その会社ですが、近年日本支社の売り上げが良くないので、本社重役の投入及び人員整理中です」
あら、こりゃもう犯人はそこでリストラ対象になった人物じゃないの。
「ならば、もう皆分かっておろうと思うが、その外資系会社で最近リストラされた人若しくはリストラされそうな人物が容疑者じゃな」
「はい、そういう事で該当する人物のリストを既に入手しております。後、コトミさんからの情報で更に絞りこんでおり、おそらく彼が容疑者では無いかと」
ありゃ、仕事が速いというか早すぎですよ。
一体、どんな事したら警察の情報網を上回るんですか、コトミちゃん?
「コトミちゃん、多分また『ヒミツですぅ』だろうけど、何やっているんだい?」
「え――、先輩私の事を買いかぶりすぎですって。ただ、ご近所で噂集めただけですから。社宅での奥様の会話は恐ろしいものですよ。ご主人のポストでカーストが変わるんですもの。私は将来誰かと結婚しても社宅には住みたくないですね」
うむ、大体の事情が分かったよ。
オンナの嫉妬は怖いという事だね。
「で、彼が容疑者だってどうやって分かったのですか?」
俺の質問にアヤメさんが答えてくれる。
「はい、まず彼は事件が起こる数ヶ月前にリストラをされています。その後家族に逃げられ、再就職もうまくいかず、最近は引っ越したアパートに閉じこもっているそうです。また、リストラされた原因ですが、業務成績とかではなく会社の資金を競馬につぎ込んでしまったからだそうです。本来ならば懲戒解雇になるところを、損金を持ち家を売却して全額返したのでお情けということでリストラという形での退職にしたそうです」
ありゃ、逆恨み以外の何でもないじゃん。
しかし、競馬ね。
馬顔なのもそれが原因かな?
「しかし、今までと違うのは誰も死んでおらんという事じゃな。意識不明状態とは言えトドメを刺しておらんという事は、まだ容疑者の意識や良心が残っておるという事か。ならば、早うにコヤツを抑えてコヤツまで死んでしまう前に抑えるのが得策じゃな」
「そうですね。なので今夜以降容疑者宅近隣で張り込みということになります」
アヤメさんの話を受けてチエちゃんは、
「ならば、早速住所と顔、氏名のデータを開示するのじゃ! 『朧』おるのじゃろ? 早速出番じゃ!」
呼び出されるのを待っていただろう朧サン、華麗に礼をしながら姿を現す。
いつもカッコいい登場の仕方をする朧サン。
彼は如何にカッコいい登場シ-ンにするか研究している様な気がしないでも無い。
「はい、了解致しました。では、ただいまより容疑者に張り付いておきます。何かございましたら我が主経由でご連絡致します。それでは!」
出てきたときと同じく華麗にお辞儀をしながら瞬間移動をする朧サン。
その様子を見て驚愕する寺尾室長。
そういえば寺尾室長と朧サンは、先日のマユ姉ぇご乱心の時に会っていたはずなんだけど、あの時はそれどころじゃなかったので覚えていないのね。
「キミタチ、今のなんとも思わんのか? あれは一体ナンなんだ?」
しかし、もはやチエちゃん達に慣れ切った俺達は何も思わない。
「寺尾の旦那、ここじゃあのくらいは日常茶飯事だから慣れておかないと。第一、チエ姉さんだって悪魔なんだし。」
タクト君に言われてもまだ落ち着かぬ寺尾室長。
「そうじゃ、ワシの正体はこんなんじゃぞ!」
と、一瞬悪魔形態に変化するチエちゃん。
「ひぃぃ!」
悪魔なチエちゃんを見て腰を抜かしちゃう室長。
どうやらアレが普通のヒトの対応なんだろう。
俺達ってもうフツウに戻れないのね。
と、冗談を1秒ほど脳内でかましながら俺は容疑者のデータを見た。
「萩原和夫か」
そこにはえらくヤツれた中年男がいた。
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