第106話 康太は公安と仲良くなる:その12「火炎魔人との戦い!2」
俺は、どこを見ているのか分からない火炎魔人の虚ろな眼を見ながら接近戦を挑む。
魔人は俺に向かって右手を伸ばし、火炎放射をする。
俺は、火炎の伸び先を見切ってステップで軽く避ける。
火炎を避けられたの見た魔人は、今度は左手を伸ばして火炎弾を撃つ。
うん、放射と弾が逆だったら厳しかったけど、これなら避けられる。
チエちゃんが言うように意思が無くて本能的なもので動いているだけ、戦術とか全く無い。
火炎放射だと薙ぎ払う攻撃があるのだから、接近戦で使われると避けずらいのだ。
飛んでくる火炎弾を、俺は冷静に一発ずつ右手からの冷却波で叩き落す。
また朧サンも俺に当たりそうな弾を迎撃してくれている。
ようやく薙ぎ払う事に気が付いたらしい魔神が右手を薙ぎ払う方向に動かすが、既に手遅れ。
もう俺は、得意の間合いに踏み込んでいた。
俺は瞬動法で魔人の向かって左側へ、火炎放射を一瞬で飛び越え火炎が薙ぎ払った跡へ踏み込む。
防御円等の防御呪文が掛かっている上に、瞬動法で瞬間的に火炎を越えられるからヤレる博打。
既に焼き払ったところからは、普通もう攻撃されないという思い込みを利用して俺は火炎魔人の懐に踏み込み、魔人の右手に氷の剣を上段から叩きつける。
その攻撃は効果抜群だったのか、魔人の右腕前腕部を切断するまでは氷の剣が持ちこたえてくれた。
俺はそれ以上の追撃は望ます、瞬動法のステップバックで魔人より距離を取る。
追撃は簡単だっただろうけど、トドメになる攻撃以外のなまじな攻撃は、こちらが無防備になってしまい攻撃を受けかねない。
こっちは防御を呪文に頼った生身の人間。
一撃でも喰らってしまえば戦闘能力を失い、簡単に死んでしまう。
こういう場合は、確実に削っていく防御重視の戦法が正解だ。
しかし、靴底が徐々に溶けてきている。
どうやら靴の耐久性がタイムリミットらしい。
尚、俺が切り落とした右腕はしばらく燃えていたが、炎が消えた途端ひびが入り砕け散った。
「グわぉぉォォ!!」
火炎魔人は切断された右手を左手で押さえ苦しんでいる。
助かる事に狼男みたいな再生能力は、コイツには無いらしい。
そこへすかさず切断波を飛ばして切りつけるアヤメさん。
隙がある魔人の右手側に回りこんでの攻撃がいやらしい。
俺も魔人の注意を引き付けるべく、魔人の左手側から冷凍光線を撃つ。
朧さんも空間断裂で魔人を削る。
今度は無理して接近戦はしない。
徐々に削り込んで俺達に魔人の注意を向けるのと、脚を止めさせる為だ。
チエちゃんも時々魔人の足元を狙って切断波を飛ばしたり、瓦礫を魔人の顔面目掛けて飛ばして牽制してくれている。
「じゅうてんかんりょう! いつでもうてるよ!!」
リタちゃんの掛け声でチエちゃんが動く。
「よっしゃ! おんどりゃ埋まっておけ!!」
チエちゃんは、空間操作で魔人の足元に落とし穴を作る。
そこに見事に嵌り込み動きが止まる魔人。
「いっけ――!!! ぜったいれいど!!」
リタちゃんが杖から放った弾、それは以前迷宮内で発射した弾と違い小さく蒼く輝いているだけ。
しかし、その弾が魔人に着弾した際、それは着弾点から半径1mのみを急速に冷却した。
そして失われた熱エネルギーは、運動エネルギーと変換され、すさまじい強風となって周囲に吹き荒れた。
爆風に近い風が吹き荒れた後、公園内で燃え盛っていた火炎は全て消えていた。
そして火炎魔人の身体を覆っていた火炎もほぼ消え、ブスブスとくすぶる程度までになっていた。
それを見た俺はすかさず瞬動法で魔人に突っ込む。
右手の独鈷を放り出した俺は呪を唱える。
「ナウマク・サンマンダ・ボダナン・バルナヤ・ソワカ! 水天神 水撃弾!」
俺は右手に水天の力で作った水の弾を纏わせて魔人の胸元、虹色の石のところへ抜き手を突っ込む。
ジュっつ
あっという間に右手の水は蒸発する。
そして俺の右手が焼ける前に、俺の指は硬いものに当る。
「とったどー!」
俺はその固いものを魔人から引き抜いて、転がりながら魔人から遠ざかる。
「御免!」
そして、アヤメさんの踏み込んだ一撃は、魔人の首を切り飛ばした。
首を失った魔人は血の替わりに炎を吹き出してしばらくもがいていたが、まもなく動きを止め、身体や切り落とされた首にヒビが入ったかと思うと粉々に砕け散っていった。
「痛ったい! 熱っつい!」
俺の右手は真っ赤になり、いたるところに火ぶくれが出来ている。
これだと火傷2度、まだ痛いから神経が生きており組織破壊度が低いので腕や指を失う事はまずあるまい。
白くなったり黒くなって痛くなければ、それは3度以上の火傷。
組織破壊されている為に皮膚移植や患部切断が必要になってくる。
座り込んでいた俺は頑張って水天呪を使って、もう一度右手を水で覆い冷やす。
そういえば、「石」握っていたよね、と思って火傷で固まっていた握った手のひらをゆっくりと開く。
手のひらから零れ落ちた石は、すでに色を無くしており、地面に落ちると同時に砕け散った。
「石」もすでに能力を使い切っていたらしい。
「コウタ殿、無茶しすぎなのじゃ!」
心配顔で俺に近づいたチエちゃんは、俺の右手を見て顔をしかめてから治療をしてくれた。
「いくらワシが無事なら、死んでおらねばなんとかなるといっても、それが無茶する理由にはならんのじゃぞ」
俺を心配して「お小言」をくれるチエちゃん。
ホント、ありがたいです。
俺の中で「トリガー」が戻る感じがした。
俺は無事な左手でしゃがみこんで治療をしてくれているチエちゃんを抱いた。
「いつもありがとうね、チエちゃん」
感謝の言葉以上にハグにびっくりしたチエちゃん、顔を茹蛸のように真っ赤にする。
「おい、乙女のカラダに勝手に抱きつくのはダメじゃぞ。浴衣が汚れるのじゃ! もうオトコは図体が大きくなっても、いつまでもガキなんじゃから」
口で怒りながらも、ハグを拒否せずに治療を続けてくれるチエちゃん。
「俺はナナやリタちゃんがいるから戦えるし、マユ姉ぇやチエちゃんが後ろで支えてくれているから安心できているんだ。ありがとう、大好きだよ!」
俺の方をもう見てくれないチエちゃん、
「ほら、もうキレイに治ったのじゃ。次はもっと自分の身体を大事にするのじゃ!!」
俺の腕を治した後は、さっさと俺から離れて後ろを向いた。
「あー、ちえおねえちゃん、ないてるよ!!」
「リタ殿、これは泣いているんじゃないのじゃ! 眼にゴミが入っただけなのじゃ!」
「我が主、宜しかったですね」
「オイ、朧よ。お主までワシを茶化すでないわい!」
俺はすっかり元通りになった右手をにぎにぎして、チエちゃんに感謝した。
泣き虫で慈愛溢れる魔神将、チエちゃん大好きだよ。
俺が周囲を見ると、火災は鎮火の方向へ行っている。
白いものが舞い落ちているから灰かと思ったら、それは雪。
リタちゃんの方をふと見ると、杖の上から上空に拡散気味に冷凍弾を振りまいている。
夏に雪とはキレイなものだ。
あっという間に儚く消えていく雪、それは周囲の火災を鎮火していく。
こうやって火炎魔人との戦いは、犠牲者を数名出して終結をした。
俺達が現地に到着した段階で既に死者が発生しており、それはどうしようもなかった。
ただ、俺達が現着後は被害を抑制できたし、マユ姉ぇやチエちゃんの活躍で重症者も出さずに終わらせられたのは良かった。
タクト君もある程度火炎コントロールが出来たため、延焼を阻止できたそうだ。
トドメはアヤメさんに譲ったとはいえ、俺の一撃が事実上魔人の命を奪った。
もはや怪物化してしまえば手遅れだし、犠牲者を出さない様にする為には彼を倒すしかなかった。
しかしこれ以上の犠牲者を出さないようにするには、今までのように事件発生後に動いていてはダメだ。
こっちから先手を打てる方法が無いのか、皆で相談しよう。
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