第101話 康太は公安と仲良くなる:その7「黒幕登場?」
真っ暗な部屋の中で3つの燃え盛るように赤い目が光る。
その目の主は暗闇を睨み、低い声で独り言を囁く。
「うむ、砕けてしまいましたか。やはり『力』無きモノに持たせても、あの程度ですか。しかし『力』持とうとも邪念無きものでは我の望みに適うどころか、敵対する事もありえます。これは『石』を渡す相手を良く選抜せねばなりませんねぇ」
目の主の後ろには、暗闇の中でも虹色にきらめく「次元石」が多数転がっている。
石と一緒に干からびてミイラ状態になった遺体も転がっている。
着衣から女性、それもおそらく若い女性と思われる。
「ここもあまり長期間滞在するとバレますねぇ。この子も心身ともに美味しかったですが、容量が足らないのはしょうがないですよね」
燃え盛る真紅の3眼が怪しげに輝く。
◆ ◇ ◆ ◇
有坂 誠は、どこにでもいるような目立たない青年。
肌が日本人にしては浅黒い三十路中頃で中堅商社の係長、いまだ独身ながらそこそこの生活をしていた。
彼の運命を変えたのは、「石」。
それは康太がリタ姫と出会う5年程前だった。
彼がイヤイヤながら参加した職場の忘年会の帰り、国道をふらふらと歩いて帰っていた時、急に尿意を感じた彼は路上に立っていた電柱に小用をした。
「ふんふん」
気に食わない上司や同僚、こいつらと二次会なんて行ったらムダ金は使うし、イヤな事ばかり増える。
だったら、適当に理由を作って一次会で逃げるに限る。
ほろ酔いで気分が良い内に会場から逃げられた彼は、小用をしているうちに近くに祠がある事に気が付いた。
そういえば、この辺りは交通事故多発地帯。
妙なモノを見て事故をしたとかという話も聞いた。
「こりゃ、こんなところでオシッコしていたら祟られちゃうな」
決して信心深くなく、いつもはこんな事を思わない彼であったが、お酒の力なのか、祠を拝んだ。
すると、祠の中から虹色の光が彼の眼に入った。
「なんだ、虹色の光なんて聞いた事ないぞ」
彼は祠の中を覗き込むと、そこには小さな石があった。
それは虹色にきらめき、オトナになったはずの彼の心をもドキドキさせた。
「へー、こんな石見たことないや。ちょっと触るだけなら大丈夫だよな」
周囲をきょろきょろした彼は石をそっと触れてみた。
すると、彼の頭の中に「声」が聞こえた。
〝それこそ、我を封印し石なり。汝、かの石を握り念じるのだ。さすれば我の封印が解放され、汝の望み全て適うだろう〟
彼は急に聞こえた声にびっくりして石から手を離し周囲を見るが、真っ暗な国道には時々走行する自動車以外には何も無い。
もう一度、そっと石を触る彼。
〝我の封印を解くのだ! 我が従者よ!〟
彼は石を祠から出し、願望、自分をバカにしたヤツらを見返す、オンナどもも選り取りみどりにする、そんな邪な願いを念じて「石」を握る。
その瞬間、彼の中で大きな「声」がした。
〝ありがとう、我が端末よ。これでようやくこの世界で我が動けるようになる。オマエの望みは我が適えてやろう。オマエは、これでさようならだ〟
彼の自我は「石」から流れ込む強大な意思に流される。
しかし、彼の手は石を握ったままで石を離す事が出来ない。
もはや彼の身体の支配権は「石」から流れ込む意思にある。
〝まだ足掻くのか。オマエは元々我の端末に沸いた人格の一部に過ぎない。その身体の本来の主は我なのだ。大人しく消え去るがいい!〟
激しく痙攣を起こす哀れな男。
邪ながら強大な神の意思の前では、人間の意志なんて暴風雨の前の看板以下。
吹き荒れる嵐の前で、男の意思は吹き消えた。
最後に男が思ったのは、田舎で待つ老いた父母の顔だった。
「ふぅぅ、流石は我が端末の意思だ。ニンゲン風情とはいえ中々のものだったぞ。さて、この男の記憶を利用してコチラで生きるとしようか。さあ、この世界も我らの庭とするのだ」
男の額には燃え盛る真紅の眼が開く。
男本来の眼も燃え盛り真紅の輝きを灯す。
男の影が国道を走る自動車のライトで照らされて伸びる。
その影は歪んで頭が長く伸びて、まるでムチか蛇の尻尾、触手みたいに見えた。
そう、とある物語に書かれた混沌なる邪神の姿そっくりに。
◆ ◇ ◆ ◇
俺は、「次元石」についてもっと情報が欲しいと思い、チエちゃんが行くのに付いて教団へ行った。
石を配っている男に接触した人物で俺が知る無事な人物といえば、教団教祖の黒田光道こと光男さんしか居ないからだ。
「これは功刀様、その節はお世話になりました。今日は何か御用なのですか?」
俺は、クリームソーダ(メロン風味)を喜んで飲んでいるチエちゃんを横目で見ながら教祖に俺は尋ねる。
「教祖さん、あの時俺が聞きそびれた事を今日は聞きに来ました。貴方に『石』を渡して唆した者について教えて頂けますか?」
プクプクとストローから息を出して遊んでいる「神様」をニコニコして見ながら教祖は俺に話す。
「そうですね、これは功刀様やチエ様にお話すべき事でしょう。私に「石」を渡した男の事を」
さっきまでの笑みを消し真剣な表情をする教祖。
「その男ですが、確か『アル』とか名乗っていました。ただ肌が浅黒かったのですが、顔つきは日本人だったので、仮名だとは思います」
アル?
うーん、心当たりがあまり無い名前だなぁ。
「彼ですが普通のどこにでもいそうな感じで年恰好は三十代くらいでしょうか。ただ雰囲気が妙な感じで、輝いている黒という様に私は感じました。そして彼は私に『これで貴方が望む事は何でもできますよ』といって『石』を渡してくれたんです」
今、教祖の胸元には「石」は無い。
彼が「石」を所有しているのは危険なので、現在公安で保管している。
マサトの研究室の「石」は大半が「死んでいる」のか色を失っていたが、一部色が残っていた部分は、マユ姉ぇ経由で封印して公安に渡してある。
「この事は公安の方にお話したのですか?」
「はい、神楽坂さんですか。美人さんがあれから聴取に来られて話しました」
アヤメさんが既に知っているのなら大丈夫か。
「のう、ワシが思うに、その『アル』とかいうモノ、おそらく人間ではないのじゃ。じゃが、ワシらの同類とも思えん。別の邪なる悪意を感じるのじゃ。2人とも注意するのじゃぞ」
真剣に俺達を心配して話すチエちゃん。
ただ、溶けていくアイスクリームと格闘していなきゃカッコ良かったのだけれども。
しかし、教祖さんにとっては、まさに「神様」。
「はい、ご心配ありがとうございます。チエ様!」
チエちゃんを拝む教祖だけれども、チエちゃんはそっけない。
「じゃから、『様』はイヤじゃと言うて居ろうが。せめて『さん』にして欲しいのじゃ。一番良いのは『ちゃん』じゃがな!!」
「はい、チエ様。いや、チエちゃん様ぁ」
まあ、心身共に救ってもらえた「神様」なんだから、チエちゃんの事を感謝し拝むのはしょうがないよね。
イヤなら来なきゃいいのに、なんのかんの言いながらも御菓子目当てという「名目」で教団に赴いてあげるチエちゃんだもの。
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