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鯉の餌やり  作者: ガイア
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ちがう

一応このお話は私のストレス発散のような感じなので吐き出すように書いてます。

ストレス発散でこんな話を書くのはどうかと思いますけどね。

彼は、近寄ってきた赤い金魚をサッと別の虫かごに移し替え、ミミズをその中に入れた。


うようよと水槽を這うミミズと、美しく動く金魚。

私は、なんとなく察しがついてその二つの生き物から目が離せなかった。


ミミズに、スゥと近づいた金魚は、ぽこっと口をあけた。大きな口だ。

そして、金魚はミミズの頭に向かってそのまま口を突っ込んでいった。


「あはっ...堪らないですね...」


彼は、恍惚とした笑みで両手で自らの顔を隠すようにして笑った。

彼は、変態だ。私と同じ変態だ。


ミミズをズルッ、ズルッと吸い込んでいく金魚に対し私は先ほどまで"愛らしかった"金魚の印象がなくなっていた。


「ねぇ、金魚にミミズをあげる事に関し、君は具体的にどういうところにそんな風に興奮を覚えるのだ」


彼は、顔をあげて微笑んだ。


「僕があげた特別な餌をこのこだけが喜んで食べてくれるところです。このこは普通の餌は食べなくなってしまいました。このこはこうして僕がミミズをあげないと食べるものがなくて死んでしまうんですよ。それが堪らなく可愛いなって」


「成る程」


彼もそうなのか。

自分が餌をあげないとこのこは死んでしまう。

そういうところに愛らしさ、愛おしさを感じてしまうのだろうか。

成る程、そうか結局は彼も私が鯉達を愛しているように、彼もこの赤い金魚を愛しているという事なのだろう。

彼は金魚にミミズをあげるようになった経緯などを楽しそうに話していた。


「成る程ね」


私は今まで恋というものをした事がなかった。

彼がどんどん私に心を開いていく様子に、私が彼に徐々に好感を覚えていくのに、これが恋だと思っていたが。


成る程、恋とは、愛というものはそういう事だったのか。


***


「──さん、僕はあなたの事が好きです」


次の日、私は彼に告白された。


「こんな頭のおかしい僕を理解してくれて、金魚にミミズをあげる僕を引かないでいてくれて、僕はあなたしかいないと思いました」


私がパワハラしてきた上司から守ってあげたことより、何かするたびに褒めてあげたことより、自分を認めてもらえたときの方が嬉しいんだな。君ってやつは。

なんだか、はぐれものの鯉にたんまり餌をあげたあの時を思い出した。

今の状況はきっとあの餌をあげた鯉だったら、


「餌をあげた事より、隅で泳いでいた自分に気づいて近寄ってきてくれたところが嬉しかった」


という事なのだろうか。うーむ、なんだか少し違うような。


「ありがとう。私も君の事、好きだよ」


だが彼は、私と付き合ってから変わってしまった。

金魚の餌やりが好きだという変態なところは変わらないが、オシャレなんかに気を使い、長かった髪を切った。職場の女達の中で、


「なんか彼、ちょっと格好良くなったよね」


なんて言われるようにもなっていた。


「どうしたの?お洒落なんてして」


彼は、照れたように笑った。


「──さんの恋人になったんですから。──に釣り合うようにと思って」


ちがう。

ちがうよ。そんなの全然嬉しくない。

私は、私だけが餌を与えて、私が声をかけたら寄ってきて、餌をもらうだけの君が可愛くて好きだったのに。

他の人間に、君が餌をもらうなんてあり得ないよ....あり得ないから。


「──君、今日これから飲みにいくんだけど来ない?」


「あっ、僕は結構です。──さんと帰るので」


「あーラブラブ〜。いいなぁまた誘うね」


前までは彼の事陰キャで気持ち悪いっていってたくせに。

吐き気がする。気持ち悪い顔で笑いやがって。死ねばいいのに。


「えぇ、ありがとうございます」


私が体調不良で休んだりしたら彼はあの女達と飲みにいくんだろうか。


「雨だ」


「僕の傘に入っていってください。送っていきますよ」


ザァッと降る強い雨が私と彼が入る傘を打ち付ける。叩きつけるような雨の音を聞きながら、私は彼の横顔を眺めていた。


前に楽しそうに金魚の話をしていた彼はこんな顔をしていなかった。

こんなに人生を楽しそうに生きていなかった。

私だけしかいないというような顔を私にだけ向けていた。あんな女達に作り笑顔なんてできなかったでしょう。

何で、何でだ。

どうしたらあの顔に戻る?どうしたら私だけになる。

どうしたら、どうしたら彼を私だけのモノにできる。


「──さん、あの、ずっと前から言おうと思っていた事があるんですけど...」


「しばらくの沈黙から、彼が口を開いた。


「あの、今度よかったら僕とデートしませんか?」


「デート?」


「はい、はい。よかったら、ですが。僕の家で」


どうして急に、そんな事を言ってきたのだろう。


「僕、どうしても恋人ができたらしてみたいことがあったんですよ」


「してみたいこと?」


「はい。はい、だめ、ですか?」


言葉は可愛らしくおねだりしているようだが、私は彼の顔を見て息が止まりそうになった。

彼は、あの時の金魚にミミズをあげていた時のような顔をしていた。

一緒にミミズを金魚にあげようとかそんなところだろう、私はそんな事を思いながら、


「いいよ」


軽い気持ちで返事をしてしまった。

金魚にミミズをあげた経緯に関してはそうですね。

たまたまその日は雨が降っていて、庭に死にかけのミミズがいたんですよ。私の飼ってた赤い金魚めちゃくちゃ大きくなってて、このままミミズも食べるんじゃないかって思って、死ぬより私の金魚に食べられて死ぬ方がいいんじゃないかと思ってあげてみたんですよ。

そしたら、金魚がうようよ動くミミズに近づいていって、あっこいつ食べれるなと思ったのか、ズズってミミズを金魚が吸い込んだんですよ。

あぁ、金魚ってミミズ食べるんだと思って。

ちゅるんって吸い込んだのをみてすごく興奮しましたね。ビリっと体に電流が走りました。ほんとうに。あっ雷に打たれたわけではないですからね。

その話は誰にもしてないんですが、ジョジョの吉良吉影がモナリザの手を見て勃起したように、私も金魚がミミズを吸い込むのを見て興奮したんですよ。性的にではないですけどね。

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