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Hemiscrub  作者: なしえそ
1/6

プロローグ

37%、42% 、43%、48%……

「upload」と書かれた横長の長方形のメーターが少しずつ溜まっていく。

サムネ良し、タイトル良し、概要欄良し、ツイート準備良し。

常日頃大雑把な自分は血液型占いというものを鼻から信じていなかったが、こうやって細かい所まで隅々とチェックしている行為はA型のそれであると気づいたのは割と最近の事だ。

82%、85%、92%、94%……

この待ち時間手に汗握り、興奮して心臓がおかしくなりそうだと感じていたのはいつの頃までだっただろうか。自分の曲を世界に公開する事に何一つ感情を抱かなくなったのはいつからだっただろうか。パソコンモニターの明かりだけが付く暗い部屋で、その唯一の明かりの前にただ座り照らされる自分は、今どんな顔をしているんだろうか。

99%、100%。

自分のチャンネルを見て曲がアップロードされていることを確認。そこにはちゃんと今日上げた、

『【ホウセンカ】トンネル lotus MV』

というタイトルの動画がある。

説明すると、「ホウセンカ」はボーカロイドの中の1人、つまりこの曲を歌っている機械音声のことであり、「トンネル」は曲名、「lotus」はアーティスト名である。勿論、「MV」が「Music Video」の略であることは既知の通りだ。

さて、新曲報告ツイートも終えた所で肝心なのは動画自体のハグである。再生回数は待ち伏せでもされていたかのように動画を上げた瞬間あっという間に増えていく。バグがあった場合多くの人に見られる前に一刻も早く直さなければならない。

タイトルをクリックすると、飽きる程聴いたイントロが流れ出す。と同時に、既に聴き始めた視聴者のコメントが一斉に横から流れた。

『うぽつ』『待ってました』『イントロから神曲』『ktkr』etc...

溢れ出る期待と賞賛のコメントをぼーっと眺めながら、つい先日まで自分で作っていた曲を聴く。

―――どうやらバグはなさそうだ。

そう結論づけ、パソコンの電源を切る。達成感も、喜びも何も無い。あるのはただただ、ひと仕事終えた後の虚無感である。もっとも、最近は作曲関係なく虚無感しか感じていない気がする。

と、急に扉のノックの音が2回響いた。

「お兄ちゃん、入るよー?」

鈍い音を立てながら扉が開き、顔を出したのはまだ顔立ちに幼さが残るツインテールの女の子………俺の妹だ。

「…眩しい」

数秒の間をおいて、漸く発することが出来たその言葉には、力、覇気なんてものは自分でも驚くくらい、微塵も感じられなかった。

「眩しいじゃない!お兄ちゃんの部屋が暗すぎるだけ!」

その通り、パソコンの電源が落とされたその部屋は殆ど何も見えないくらい暗闇であった。

「…トンネル、聴いたよ!すごくかっこいいね」

「別に聴かなくてもいいのに」

「別にいいでしょ聴いても。それでね、お兄ちゃん…」

明るい調子から一転、躊躇うような、怯えたような声色に変わる。

「…なんだよ栞」

こちらは自然に緊張感を含んでしまう。

「…何でもない!ほらもう夜ご飯できるよ!」

栞は明らかに作り物の笑顔で部屋を出ていった。

なんだったんだまったく。

ぽつりと呟き、いつの間にか悲鳴を上げ始めたお腹を擦りながら俺も部屋を出てダイニングに向かった。


その後、動画に批判コメントがちらほら流れ始めるまでそう時間はかからなかった。

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