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月下教

「だ、大丈夫ですか?」


びっくりである。


「あ、ああ、はい!大丈夫です!」


よかった。どうやら無事なようだ。


「貴方がシスターでいらっしゃいますか?」


「はい!新しい神官さんを迎えに来たシスターの『アルナ』です!教育係も担当してるのでこれからよろしくお願いします!」


このシスターが色々と教えてくれるようだ。


「右も左もも分かりませんが、どうかよろしくお願いします。ああ、申し遅れましたが私の名はトーランと申します。」


「はい!トーランさんですね。では、何を話すにしてもここは神前ですし、まずはここらか出て教会の方に行きましょう。」


ここから…でる?それに、ここは教会では無かったのか。


「シスターアルナ。失礼ですがこの部屋にはドアも梯子もなく、シスターはロープなどもお持ちでないようですがどのようにしてここから出るのですか?」


「ああ、それなら問題ないですよ。」


そう言ってシスターは胸元にかかっていたロザリオを手に握りしめて祈り始めた。


「シスター?」

「トーランさん。こちらへ来てください。」


彼女の言う通りにシスターへ近づく。


「もう少し近くに。横に並ぶくらいです。」


さらに近づくとロザリオをに握りしめていた手から光が漏れ出てさらに足元に複雑な円形の模様が現れた。


「トーランさん、ちゃんと魔法陣の中に入ってますね?飛びますよ?」


どうやって、と問おうとした時、シスターが私の腰に手を回した。


次の瞬間、突然上から押し付けられるような感覚と足が地についてないような感覚に襲われる。どうやら、上に上昇してるようだ。いま、窓から外へと抜けた。


と、思ったのもつかの間。浮遊感に襲われバランスを崩しかける。


が、バランスを崩し、再びあの部屋の中へ戻ることなく、シスターが体を支えてくれたおかげで外に着地することが出来た。短い間に色々と起こった。



「外に出られましたね!」


確かに外には出られた。だが、もう少し説明は無かったのだろうか。


「え、ええ。ありがとうございます。」


まあ、無事に出ることが出来たから何も問題はないのだが。


「初めてだと流石にあれは怖いですよねー。」


なら何故やったのですか。


「そのうち慣れていくと思いますので次は1人でやれるようになりましょうね!」


私の教育係をチェンジして欲しい。


「ところで、トーランさんは月下教についてどこまでご存じですか?」


女神像のあった小部屋から脱出した後。

すでに空は朝焼けが広がっている路地裏。

シスターはそんな質問をしてきた。


「恥ずかしながら渡り人でして、月下教については何も分からないのです。」


私は偽りなく正直に話した。ここで嘘を吐こうと後から齟齬が出てきたり嘘がバレれば何も得をしない。


「渡り人ならば仕方ないでしょう。何も恥ずかしがる必要はありません。せっかくですから簡単に月下教について教えておきましょうか。」



「月下教は決して人々を救いに導くことはしません。例え我々がした行動が原因で誰かが救われたとしてもそれはその人が勝手に救われたのです。」





月下教の教えは要約するならば、

『全ての人を救うことなどできない。ならば初めから救いたいものだけ救って他はおまけ。救えなかったものなど気にしない。そもそもそいつを救おうとなどしてない。犠牲は付き物だし、手段は選ぶな。自分が救いたいものだけを救え。』である。この考え方は月下教の誕生にも由来する。

まず初めに。この世界には教会連合、通称大教会なるものが存在する。これはこの世界にある、様々な神が存在し、様々な教えの元に様々な教会をまとめあげて、危険ではないかを認定したり教会間の争いを仲裁したり、教会にくる依頼を斡旋したりということをしている組織だ。今回は詳しい組織の中身やその全ては説明しないが、この世界で教会として人々に教えを説くならばこの大教会に属さなければ邪教として追われる身となる。

長くなったが月下教ができたのはこの大教会が出来た後だ。

月の女神はある日少女を見つけた。その少女は泣いていた。何故かと女神が訊ねると母親が殺されたと言った。女神は少女の母親がなぜ殺されたのかを調べた。すると、大教会にたどり着いた。訳を話し、何故かと問うと、大教会の司祭はこう言った。彼女の母親を殺さねばもっとたくさんの人が死んでいた。ならば、母親を殺すことは正義だと。

と、ここから女神が怒り、鬼神のごとく彼女の代わりに大教会に復讐をする。そんな流れの後に生まれたのが月下教だ。

大教会は多くの宗教をまとめる。その教義は共存と大多数への救済だ。

一方の月下教は手段を問わないことをも是とする。もし、1人の人間と多数の人間を天秤にかけた時、それが母親だとしても多数を取らねば悪徳となるのが大教会。母親ならば母親を、知らぬ人ならば多数を、が月下教である。あくまで大教会の基本的なスタンスであり、そこまで厳しいものでは無い。月下教も己の大切なものが危機に晒された時、手段を問うなと言ってるだけである。己の利己的な欲求だけを追い求めるものは月下教の信徒自ら粛清しに行く。


と、長くなってしまったが、まとめるならば、

大切なものは手段を問わず守りきれ。

日頃は人に親切に感謝されることをやれ。

行ったことに対して見返りを求めるな。

である。


「だからか、あまり信徒は増えないんですよね。」


シスターはそう言った。


「手段を問わないとはいえ、強硬な手段にめ出る人はあまりいないですし。」


そう言って空を見上げる。


「でも、そういう事で怖がられてるのは事実のようですから仕方ないんですけどね。」


足を止めて苦笑いしながらの三日月を見上げた。


「ですから、生半可な人が神官になられるとこちらが手を汚さなくていけないんですよ。」


…月?


「…信徒トーラン。あなたに問います。この月下教の教義を守れますか?」


そう言った刹那、彼女は何かを振りながらこちらへ向き返った。


「シス…っ?!」


反射的に身体を反ってかわす。

シスターのその素早さたるや振り回した残像が見えるほどである。


「シスターアルナ。なんのおつもりで?」


彼女から距離をとる。どうやら手に持っているものはナイフのようだ。


「何事にも犠牲は付き物です。私のために贄となってください!」


そう言って彼女はこちらへナイフを向けて向かってくる。1歩踏み出したのを確認した瞬間、目の前にナイフが迫ってくる。なんとか、頭をずらしナイフが耳元をかすめる。


シスターが出していい速度ではない。10mはあったはずだ。どこに踏み込んだのを確認した瞬間にナイフで耳元をかすめるシスターがいるのか。


「ちっ!」


そして舌打ちするシスター。

兎にも角にも後ろへ下がる。こちらは丸腰どころか初期装備としては最初から身につけている布の服だ。もう1度距離を取らねばと後ろに下がる、バックステップをしようとした瞬間気づく。


誰かがいる?


「後ろっ?!」


横に飛ぶ。

着地は無理やり飛んだせいか背中を擦ってしまう。が、悠長に寝転んでいる暇はない。


はね起きて直前まで後ろにいた人物をみる。

直前建物の影になって顔は見えないが、どうやら重装備のようだ。月明かりが金属に反射している。おまけに、先程までいた所に斧が降りている。石畳は粉々だ。


「シスターの次は聖騎士(パラディン)という訳ですか!」


シャレにならない。


「…これを避けるか。シスター、これは骨が折れる。話に聞いてないぞ。」

「私も予想していませんでした。しかし、計画は変わりません。」


野太い声がシスターと話す。


さて。後ろは行き止まりだ。袋小路の丸腰の相手に対して彼女らは如何様にして襲うのか。


「行きますよ!」


シスターが動いた。低い姿勢で先程見せた速さを上回る速度で距離を詰めてくる。

後ろのやつは動かない。となると逃げるという選択肢はは消える。流石にシスターより早く動いて壁を登るということはできない。

ではどうするか。

まず、直線的に突っ込んでくるシスターのナイフをスレスレでかわす。


もしここで回り込むような動きをされたら何も出来なかった。


が、シスターは最高速度を最短距離で詰めてきた。ナイフをかわせれば無防備な身体全体が的になる。この場合、腕が顔の横を通っている。ならば最も確実で簡単なのは一つ。腹に一撃をあたえる。女だからといって容赦はしない。


「グフッ?!」


流石にグーパンで腹を殴ればキツかったのか衝撃でナイフを落としてくれた。うずくまってるのでシスターはとりあえずは大丈夫だろう。

次に警戒すべき重装備の人間を睨む。シスターがこちらに突撃してから一歩たりとも動いていない。


「25点。」


「は?」


野太い声が突如言い放つ。


「最初の奇襲を避けたのは素晴らしかったよ。なかなか出来ることではないね。が、その後シスターが突撃した時、待ち構えていたのはいただけなかったかな。せめて同じように突っ込むぐらいはしなくては相手が有利になりやすいよ。。それから、シスターに一撃を食らわせたまでは良かったがその後とどめを刺しにいかなかったのはよくないね。そこから狙う相手もいる。以上の観点から君は25点だ。信徒トーラン。」


矢継ぎ早にダメ出しをされた。


「ああ、そうだ。これを言ってなかったね。シスター?」


「そうですね。」


シスターが起き上がる。


「「ようこそ。月下教へ。汝に月の祝福を。」」


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