女神降臨
背中の硬い感触と共に目が覚めた。
青白い光が目に入る。知らない天井だ。どうやら路上では無いらしい。とても静かで音がない。ふむ。死に戻ったか。たちの悪い初心者狩りらしきものに出会ってしまったが過ぎたことは仕方がない。いまは先に進まなくては。
ところで、ここはどこだ。
起き上がって回りをみる。つなぎ目のない石造りの部屋。女性の像と思われる彫刻もある。頭上から差し込む青白い光で幻想的に見える。狭い小部屋だ。頭上の窓からは月が覗いてる。さっきまで寝ていたところは石で出来た祭壇?のようなものか。さて、えーっと、ドアは…ドアは…ドア…は…ドアは?
回りをぐるっと見渡してもそれらしき扉はない。隠し扉かと思い、壁伝いに探してみるも…ない。なるほど。閉じ込められたか。なるほどね。俺もなかなか舐められたもんだ。全く。死に戻りでここが復活地点に設定されたのか、それとも誰かが運び込んだのか。
とりあえずまずは自分が寝ていた祭壇らしきものを調べる。横には何の模様かは分からなかったが彫刻してある。…特に変わったところはない。床と繋ぎ目がないという所を除けば。
次は頭上の窓…と思ったが祭壇らしきものに乗っても届かない。なるほど。となるとあとは女性の像か。すごく神々しい。この青白い月明かりに照らされて、より神々しさが際立つ。綺麗な立ち姿で思わず跪くほど素晴らしい。…よし。これぐらいでいいだろう。
祈りを捧げる。
『お世辞をわざとらしく並べるんじゃないわよ!』
怒鳴られた。何故だ。あれだけ褒め称えたのに。性格の部分が褒めたりなかったか!?
『そのわざとらしい褒めをやめなさい!』
あー、理解した。理解した。褒められ慣れてなくて照れてるパターンね。わかるわかる。日頃褒められることがないとどうしても突然褒められると反射的に否定しちゃうよね!わかるわか『一緒にしないで!』
違うの?
『全く、一緒にされるのはやめて欲しいものです。』
てか、どこから声が聞こえてるんだよ。
『あなたの心に直接語りかけています。』
なるほど。遂に俺の頭もおかしくなったか。
『あら。よろしいのですか?せっかく加護かなにかを与えようかと思ったのですが。』
いやー、ほんとに素晴らしいお声だなー。是非お姿も拝見したいなー。きっと超絶美人で惚れちゃうくらいだろうなー。
『棒読みな上にハードルを上げてくるあたり嫌な人ですね。』
美人に褒められると照れちゃうなー。
『褒めてません。』
あ、で、おたくどちら?目の前にある像の女性なのは分かるんだけど。
『私ですか?そういえば名乗っていませんでしたね。私は、月の女神、《ルーナ》です。』
ルーナ様ね。
…かみさま?!ひぇっ。今までなんて失礼な態度を…。どうかお命だけはお許しください!
『今更白々しいですよ。むしろ、わざとじゃなければ頭を抱えてます。』
なんだ。バレてたのか。
『神を欺こうなど百年早いです。お見通しですよ。』
声が綺麗なのは本心なんだけど。
『…照れますねー』
照れてねぇ。言われ慣れてやがる。
『グダグダ喋ってる暇はないので話を進めますね。』
あ、はーい。
『あなたにはたまたまですがこの《月の神殿》が復活地点となりました。なので、死亡してしまったばいここに死に戻ります。』
なるほど。珍しいのかね?
『今のところあなた一人だけです。』
レアってもんじゃねぇな。
『そこでせっかく私の祀られている神殿で復活するのですからなにか差し上げたいと思いまして。』
おお。太っ腹!
『誰がデブじゃボケぇ!』
グフッ?!
『女神の神前ですよ。言葉には気をつけなさい。』
怖ぇ。見えない拳で腹パンされた…。痛てぇ…。
『気をつけてくださいね?で、差し上げるのは私の加護です。』
《«月の女神の加護»を取得しました。》
あ、あざっす。
『どういたしまして。この加護の効果は月の出ている時の回復行動の強化、攻撃行動の補助です。月の満ち欠けによってふたつの効果の割合が変化します。』
なるほどね。回復力アップとモーションアシストといったところか。
『ところで、あなたはトーランと言うのでしたっけ?』
良くぞ聞いてくれた!この、三白眼の渡り人が一人、名をトーランと言う!この世界の歴史は長けれど!我が名トーランは永遠と語り継がれること間違いなし!この名を覚えておけば、後の世の吟遊詩人の詩にも語られ、必ずや得意げになれること間違いなし!ささ、どうぞ、お見知り置きを〜。って止めろよ。どのタイミングで止めるか分からなかったわ。
『あ、終わりました?』
スルー!まさかのスルー!なんて非情なやつなんだ!
『で、時にトーラン。あなたは今のところ無職ですね?』
スルーを重ねた上に心をえぐりに来たァ!
『あら。気にしていましたか。それはちょうど良いですね。トーラン。あなた、神官になってみませんか?』
▼
唐突過ぎるだろ。というツッコミは無言の圧力によってかき消された。声だけだというのに何故だ。
ところで。神官は不評だという評判だった。
理由は簡単。面倒だから。
一つ、神官になるためのクエストが面倒。
何せ、お掃除やら聖典を読み尽くさなければならないとか。
二つ、上位職にあがるための条件が面倒。
巡礼に、修行。寄付など宗派によって違うようだが、主に戦闘以外で大変のようだ。
三つ、戦闘においては下位互換。
治癒師という職業がある。回復をするという点においては神官と役割が被るのだが、実際に戦闘になると治癒師がつよい。なにせ、治癒師は快復の手段が多彩だ。継続回復にパーティー全体の回復、複数回復もある。さらに、単体回復でも、三種類以上あり、同じスキルを再使用するための待ち時間の間に回復できるという強さ。
一方の神官。
同じように回復はできるものの、戦闘参加者全体への回復、味方への防御力上昇などの支援など。
どちらかと言うとパーティーよりは大規模な戦闘で活躍する。パーティーレベルだと回復特化では無いから使いづらい。
さて。俺が神官になるかって?
こんなに面白そうな職業ならない訳がないだろ!
掃除とか面倒?神官になるんだよ!神に仕えるなら掃除ぐらいするだろ!
上位職に上がるの大変?神官としてロールプレイしてればそれくらいやることになるだろ!
治癒師下位互換?知ったこっちゃねぇ!パーティー組まなきゃいい話だ!
Q.E.D.!
というわけで神官になろうと思う。
『だいぶ無理のある証明でしたね。』
ただし!条件がある。
『内容によっては聞いてあげましょう。』
一つ!姿を見せてください!
二つ!月の女神に仕えるからには”月の女神”の神官にしてください!
『ふむ。まあ、いいでしょう。』
《*神官(月下教)*になりました。》
無職卒業!これで俺も馬鹿にされない!
『では、姿を見せてあげましょう。』
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結論から言おう。
めっちゃ綺麗だった。声が出なかったよ。何も言えねぇレベルで女神だった。
声失ってたら『あまりジロジロ見ないでください。』って言われちゃったよ。
俺。この女神に一生仕えます。てへっ☆
『わざとらしさが心の中からダダ漏れですよ。』
この人に仕えられるなら人生を引き換えに出来るぜ!
『もしもしー。聞こえてますかー?』
はいっ!何でしょう!
『気持ち悪いくらいの変わり身!最初のあの態度はなんだったのでしょう?』
あれは過去の過ちです。どうかお忘れくだされ。
『ゴホン。わざとらしいですが、まあ、いいでしょう。では、トーラン。あなたはこれから私を祀る月下教の神官として励みなさい。あ、あと、ぜひロールプレイをしてみて下さい。では。』
▼
さて。私はトーラン。月下教の新米神官だ。ん?様子がおかしい?元々頭がおかしいだろ?ほっとけ。”私”のときはいわゆるロールプレイというやつだ。神前以外ではこのトーランを演じることとする。まあ、あれだ。クールってやつだ。
『シスターを呼びましたので、詳しくは彼女に聞いてください。』
そう言ってルーナ様は霞となった。
窓から空を見ると、既に白み始めていた。
さて。すっかり閉じ込められたと思っていたのだが、シスターはいったいどこから出てくるのか。
ドンっ!
ん?今なにか落ちたような音が…。
「着地に失敗してしまいました…。」
振り向いた後ろに修道服の女性が座り込んでいた。
スキルとか称号とかの取得条件って気になりますかね?見たかったら後書きのところに書こうかと思いますが。
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