プロローグ
その日、”私”は新聞を読んでいた。
新聞と言ってもいわゆる政治だとか経済だとかが載っている現実の新聞ではない。とある大手の情報ギルドが発行している”この世界の”新聞だった。大手といってもたかがギルド。と侮ることなかれ。このギルドは各地に諜報い…じゃなかった。記者が潜伏していてあありとあらゆる情報をかき集めているのだ。実際、たった1度しか使っていないにもかかわらずその現場を抑えられて新しいスキルが瞬く間に広まったということなど日常茶飯事である。掲示板ではそのギルドから隠れたかったら最前線のさらに先でマラソンをするほかない。などと言われるほどである。
まあ、その情報ギルドが発行しているこの新聞なのだが、載っているのは『今日のクエスト』やら『日刊:シナリオを追え!』などである。オススメの狩場や曜日別のクエストなどをわかりやすく掲載してあるので初心者はもちろん、最前線でのプレイヤーの動きや最新のクエストの報酬などまで載っているのでベテラン勢も買い求めるのである。ちなみに今日の特集は『近衛王宮兵団の運営法!』らしい。トップギルドの構成や経営方法を密着取材で集めたと書いてある。普通に考えればトップギルドが内情を明かす、それも情報媒体に載せて不特定多数に発信するなどあり得ることではない。そういうものは明かせば明かすほどどこからか意地の悪いやつがやってきて不穏な所をついてくるものなのだ。そういうことから見てもこの情報ギルドがとんでもないことをしているかがわかる。そういえば、知り合いが嘆いていた。
『情報ギルドに入るのだけはやめとけ。あそこは絶対に銀行勤めか永田町の奴らがいる。間違いねぇよ。ギルマスが交渉してるのを見た事あるか?あれが身内でほんとによかったよ。相手さんのギルドはすくみ上がってたからな。何で身内に怯えなきゃいけねぇんだよ。ホントマジで怖ぇよ。』
ちなみにその知り合いは本人は自覚していないが、掲示板の『怖い人ランキング』でトップ3に入っていた。
と、まあ、説明が長くなったが、私は新聞を読んでいた。特集には興味はなく、日刊の日替わり記事にも関心はない。見たかったのはこの広告である。
『禁書あります。』