三話
ガッチガチのシリアスだぜ!
超絶手直ししたぜ!
やっぱり栄養不足で小説は書かない方が良いな!
沈んだ心で歩く足取りは重く、夕陽に照らされた私は寂しさに押し潰されそうになっていた。
虚ろな足取りで歩く足元では、相変わらず大惨事な光景が広がっているが、今の私にはどうでも良い。
産まれてきて十七年、私は人並みに色々経験してきた。
でも、ここまで孤独感で人恋しく思うのは初めてだ。
私以外の全てが小さい世界で、まともに話せる人もなく、まともに接する人も居ない。
気が狂いそうだ。
相変わらずミニチュアのような世界を眺めて歩く私は、ぼんやりと、地球で普通に生活していた頃のネット小説を思い出す。
流行りのネット小説の主人公は、ひたすら悪を倒してヒロインに言い寄られていたっけ。
それに比べ、今の私はどうだ。
確かにネットの小説の様に世界で一番強いだろう。
それも、この世界には私に抗える存在は居ないくらいには強い。
でも、これは強さと言って良いのだろうか。
怪獣の様な力の強さは、果たして人を救う『人のために振るえる力』となれるのだろうか。
勇気を出して私の前に出た村の少女を思い出す。
広い私の手のひらに何度も体を打ち付けながら転がり飛ぶ少女の顔は、痛みと恐怖で歪みながら私を見ていた。
少女が手のひらから零れ落ちた時、あの全てを失った様な表情で落下していく彼女の瞳が私の頭から離れない。
私には、あの時の少女の瞳が全ての疑問の答えの様に私は感じる。
沈む気持ちを胸に、少女に聞いた港町に向かって歩みを進める。
どうやらあの村は、普段は誰も訪れない様な、本当に忘れられた様な位置にある村だったらしい。
少女の話では、一番近くて大きな町である港町でさえも、片道3週間らしい。
恐らく私の足でも相当歩かないと見えて来ないだろう。
港町に着いてどうするのか、相変わらずノープランだ。
いや、ノープランで良い。
今の私は先の事など何も考えたくない。
どれ程歩いただろうか。
辺りは薄暗く、私の足元で起こる大惨事で魔物と呼ばれる多くの生き物が命を散らしているのも最早気にすること無く、空の星を眺めては時たま感じる夜風を楽しんでいた。
夜空を見上げながら歩いてい私は、ふと顔を前に向けると遥か前方に何か煌めく地面が目に写る。
何だろうと不思議に思い、よく見る。
灯りだ。
それも沢山。
町の活気を感じる灯りだ。
地面に輝く炎の色の灯りは、石造りの建物を互いに照らしているのが遠くからでもわかる。
街灯、民家、灯台。
港町の後ろ、月の光でキラキラしている地面は、海かな。
外壁に囲まれた要塞都市は、月明かりに照らされた海面に彩られているようで、美しい。
キラキラ光る海にも灯りが見える。
貿易の要の町であることは、確かなようだ。
予定通り港町に着いたが、何も考えたくない一心でここまで来た私は、完全にノープランだ。
港町を前にして、今さらプランを考えても遅い。
正直、今の私は、相手がどんな反応をしようがどうでも良かった。
どんなに気を使っても、どんなにアピールしても、この世界の人間から見たら私は等しく怪獣に見える。
沢山の村人と勇気を振り絞って私の前に出た少女を等しく踏み潰したのは紛れもなく、この私だ。
今さらこの世界の住人に安全アピールなどする気は起きない。
現に、目の前に広がる武器を携えた小人の群れを見る限り、戦いを避けるのは無理だろう。
篝火に照らされる槍や剣や弓を持った沢山の小人。
総兵力は万を越えていてもおかしくない数の小人達が、外壁に沿って二列に整列して横陣を組んでいる。
前は前衛の小人、後ろには杖を持った小人。
魔法使いだろうか。
魔法と呼ばれる存在があるのは聞いてはいたが、こんな形で目にするとは、思ってもいなかった。
私は小さな彼らを眺めながら、体感で十メートル程の距離まで近づく。
篝火にと松明で照らされる小人の顔は良く見えない。
彼らは何を思いながら私に武器を向けるのか、私には分からない。
だが、こんなに大きな私に立ち向かうのだ、怖くないわけがない。
私は港町まで五メートル程の距離まで接近する。
その時、小人達の群衆は一斉に私の方に突撃しだす。
彼らの雄叫びは私の耳にも届く位に響き渡る。
驚く事に、声を聞く限り男ばかりではなく女も居るようだ。
港町の四メートルの前に差し掛かった所で、私は待ち構える様に、静かに足を止めた。
群衆は私の足の地揺れでふらつきながらも止まる事なく、我先にと果敢に私の足に向かってやってくる。
我先にと必死に私の靴に向かって走り、一息つくことなく各々の武器で切りつけ始める小人達。
私は静かにその光景を眺めていた。
彼らは皆、必死だ。
右足の靴の爪先を斧で切りつけている大柄な男性も、右足の内側の靴を槍で突いている可憐な女性も、私の靴を必死に傷つけている小人達は皆必死の顔だ。
皆、恐ろしい私から帰るべき家や家族を守りたい一心で、必死に私に立ち向かい靴を突いている。
それに比べ、私はどうだろう。
帰るべき場所も、守るべき物も無い。
大切な人も、支えてくれる人も居ない。
愛してくれる人も居なければ、愛する人もいない。
彼らは、必死に守りたい人の為に剣を振っている。
私は彼らの勇気に心を打たれている。
だが、そんな彼らが必死に剣を振っても私に傷一つ付けられない残酷な現実が、何処か寂しかった。
私は右足を持ち上げる。
彼らは守りたい人達の為に恐ろしい私に剣を振るている。
されど現実は残酷で、私には何の傷も付けられない。
そんな彼らに私がしてあげれる事――
私は彼らの群衆の中心に足を踏み下ろす。
――それは、残酷な現実を突きつけるとしても、彼らのお相手をしてあげる事位しか、私には出来ないから。
ドオォォォォォン……
私の足が、何百……何千かもしれない彼らの頭上に落ちる。
右足の周囲の土は衝撃で舞い上がり、沢山の戦士達が天高く飛ばされた。
衝撃波は地面を伝い、軽々と彼らを吹き飛ばす。
私は一踏みで、彼らの意思を、簡単に打ち砕いてしまった。
彼らは何が起こったのか分からない。
多分、彼らから見たら、私は天変地異だ。
ただ呆然と、彼らは私の足を見上げている。
そんな彼らに私は構う事なく、また右足を持ち上げる。
ドオォォォォォン……
ドオォォォォォン……
ズウゥゥゥゥゥン……
彼らのほぼ全員が私の靴裏の染みに変わるまで、ひたすら足を振り下ろし続けた。
私が足を止める頃には、辺りは陥没し、陥没した穴一つ一つには数百のボロボロの戦士達が着ていた鎧や服が、プレス機で潰したように圧縮されていた。
私は彼らの変わり果てた姿を暫く眺める。
私が潰した目の前の彼らは、昨日まで何も気にすることもなく生きていたのだろう。
家族が居て、友人が居て。
それなのに、私は蟻を潰した時よりも罪悪感が薄かった。
本当に怪獣にでもなったような気分だ。
あれだけの事をしておいて、私は平然としている。
私は暫く彼らを眺めた後、静かに港町に顔を向ける。
港町の門の前に居る沢山の杖を持った者達は、我先にと一斉に一つの門へ逃げている。
彼らは私の圧倒的な力を見ていた様だ。
何とも、みっともない。
私に挑んで靴裏の染みになった彼らとは大違いだと、私は思う。
私に挑んだ彼らと違い、杖を持った者達は戦意の欠片もなく、ただ生き延びたい一心で門へ殺到している。
杖を持った彼らは、先程まで巨大な足で戦士達を踏み潰していた私の力が、今度は自分たちに向くのが恐ろしいようだ。
門へと殺到する彼らだが、どうやら門は閉まっているらしい。
敗走は許されない、と言うことか。
必死に門を叩いて騒いでいる彼らを見ながら、私は数歩で彼らの直ぐ近くまで近づいて見せた。
足元で喚いている意気地無しを無視して港町を上から覗きこむ。
外側で門を叩く彼らと、内側で門を押さえている人達。
門の内側の港町では、灯りに照らされている沢山の人々が私を見上げていた。
大工、商人、子連れ、お年寄り、若者、浮浪者。
皆一様に私を恐ろしい物を見る目で見ている。
私は港町を静かに眺めた後、門を外側で叩くだけの杖を持った意気地無し達を、地均しする様に港町の外壁に沿って靴で磨り潰す。
大きな轟音と振動で揺さぶられながら、外壁の内側からでも見える程大きい靴が速い速度で外壁に沿って移動するのを目の当たりにした港町の住人達は、パニックで泣き叫びながら宛もなく逃げ回り始めた。
小さな女の子が泣き叫び、転けて地面を這いつくばるも、次々と踏みつけられ、更には蹴り飛ばされ山積みの酒瓶に体を打ち付け血まみれになるのを私は無言で眺める。
篝火が倒され至るところで火の手が上がる中、私は逃げ回り泣き叫ぶ住人達に、私自身はこの世界の住人にとって怪獣でしかないと、強く見せつけられている気がした。
泣きそうになる。
この世界に守るべき人は無く、帰るべき場所もない。
私はただの怪獣で、皆逃げていく。
火の手が上がるこの港町を上から見下げる私は、今の光景全てが物語っている気がして私の心に突き刺さる。
泣きそうだ。
泣いて良いのは彼らであって、私じゃないのに。
悲しくて泣きそうだ。
悲しいのは身内が死んだ彼らであって、私じゃないのに。
寂しくて泣きそうだ。
寂しいのは親をなくした彼らであって、私じゃないのに。
無言で混乱の最中の港町を見る。
高い塔の協会や、中央の大きな領主の屋敷、外側にある広い畑と海沿いの沢山の船着き場。
彼らの生活が垣間見える数々の建物を眺めながら、いつしか私は声を殺して涙を流していた。
逃げ惑う彼らが、無性に私は羨ましかった。
入り口付近に目をやると、偶然逃げ惑う彼らの中に、不思議な光景が目に入った。
門の内側の大通りの直ぐ近く。
逃げ惑う人々の中に一人、こちらに向かって手を振る青年と、それを戸惑いながら引き留める計四人の男女のグループ。
命知らずだ。
私はそう感じた。
私に手を振っても、帰ってくるのは凄惨な死だ。
あの村の最後はどうなった。
あの時の村人の少女も、私に手を振っていた。
凄惨な死を遂げた少女と、手を振っている青年が、被って見える。
私は青年と目が合った。
手を振る青年以外の三人は凍りついていた。
誰だって、こんな恐ろしい女には近寄りたくない。
しかし、青年は三人に何かを話すとグループから離れ、一人此方に向かって走りだし私の足元で再び手を降り出した。
私は不思議に思い、一歩下がってしゃがみこむと、手を振る青年を見つめる。
巨大な私に見つめられた青年は、何故か私に臆する事なく左腕で自身の頭を掻いた後、私に向かって話しかけた。
それは、この世界で怪獣である私を救いだした様な気がした。
彼の言った一言、
「んー、悲しそうな顔するな!デカい嬢ちゃん。美人が台無しだぜ?」
なんて命知らず。
暗がりの中で火の手が上がり地獄絵図の様ような港町で、余りにも場違いな笑みを浮かべる青年の、そんな一言で。
読みやすく、更に抜けてる描写を追加しました。
やっぱり栄養不足の頭で書いた小説はひでぇな!