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二話

よっしゃ二話完成。


 危ない危ない。

 ギリギリ寸前の所で我に返り足の軌道を動かす事に成功した。

 我ながらナイスだ。誉めてつかわそう、私。

 

 この村を消滅させたら、一体何処とファーストコンタクトをするのか。

 この世界は私にとっては分からない事だらけなのだ。この方々が私の靴底の染みになってしまったら、また長い間地面を眺めながら散歩しなくてはならない。

 

 踏み潰すギリギリで思いとどまれた事自体はホントに良かったのだが、私が彼らを踏み潰す寸前だったと言う事は、だ。

 良く考えようか。こっちは先程まで虫けらのように踏み潰そうとしていたのだが、逆に虫けらの様に踏み潰されそうになった方は、たまったものではない。

 実際、彼らを避ける為に私は踏みつける寸前で足を右に反らしたのだが、私の足は彼らの集落のすぐ真横に激しく落ちたのがいけなかったのか、私の足を見上げながら恐怖と絶望で完全に生きる気力を失っている。

 足が落ちた時の衝撃は凄かった様で、土砂は村の住人達の何十倍も天高く舞い上がり、地面を揺らす振動は村の住人達を彼らの身長以上に飛び上がらせていた。

 

 村人達の様子を上から眺めている私は、心の中で「やっちまったーー!」と叫びながら様子を伺う事しか出来ないでいる。

 これ程にも存在として大きすぎる私は、彼らとの力の差がありすぎて迂闊に触る事が出来ないでいた。

 私はあの様な事を平然とやっておきながら言うのは何だが、私にも良心と呼ばれる物は持っているので、彼らに対して何かしてやりたい気持ちは在る。

 だが私が彼ら村人に触りたくても、彼らの何倍もある幅の私の指で彼らを摘まもうものなら、巨大な私の指の恐ろしい程の圧力で簡単に彼らはプチっと、見るも無惨な挽き肉にしてしまうだろう。

 残念ではあるが、私は彼らが自分で落ち着くまで見ているしかできないようだ。

 

 

 静かに村人達を観察しながら落ち着くまで待っていたが、やっと落ち着きを取り戻した者が村中でチラホラ見かける位には現れ始めた。

 村を眺めながら私は「どうやって話しかけようかなーー」と、ファーストコンタクトに失敗した村人達とコミュニケーションを始めようかと頭を回らせる。

 全く遺憾ながら私と村の住人達とのファーストコンタクトは最悪なレベルで失敗していて、この世界の情報を聞き出したい私にとっては、この村人達に私は安全だと伝えなければならない。

 その為には私からの最初の一言が重要になるはずだ。

 村人達にとって恐ろしい存在の私から声をかける事で、この小さな村人達との先程の最悪のファーストコンタクトを挽回する必要があると私は考える。

 私は、この期に及んで村人達に好印象を与えるのは流石に無理だとは理解はしているが、どうにかして村とのビジネスライクな信用の関係は作らないとならない。

 私が村人達にとって恐ろしい存在のままでは、私が彼らから聞き出したい情報を正確に私に提供するとは到底思えない。

 私が恐ろしい存在のままでは、彼らは嘘を言ってでも私を遠くの方へ誘導しようとするはずだ。

 先程から小さな村人達は相変わらずこの世の世の終わりのような表情で私を見上げている。

 私からすると、そんな村人達の反応が何故か面白く感じてイタズラしてみたい気もするが、流石にイタズラなんてすると村人達との関係は絶望的だろうと理解しているので流石に出来ない。

 

 村人達が落ち着きを取り戻すまで第一声を、あーでもないこーでもないと悩んでいた私だが、チラッと村人達を確認するとほぼ全員が私を見上げていた。

 また考え事をしていたら前が見えなかったようだ。

 この世界に来てから私の悪い癖が出てしまう。

 前を見ないのは危ない。特に、今の私では大惨事になってしまう。

 この世界で問題を起こしたり勘違いをされない様にするには、この危なっかしい悪い癖を意識しないと。

 彼らがこちらを見ているのなら、私が話しかけないと。

 さて、落ち着いて。

 先ずはご挨拶から。

 挨拶は第一印象を決める重要な要素だ。

 挨拶の後は先程の弁明と謝罪をして、彼らにこの世界の情報を聞きたい主旨を伝えないと。

 落ち着いて、やればできる私!頑張れ!頭をフル回転させるのよ!

 


 

「こんにちわ!チビ虫さん方♪私は桜といいます!先程はちょっとした誤解なんです。あまりにもセンスの無い踊りと音楽を見てたら可哀想に思えてきて……あんな惨めな事をしながら生にすがるなんて無意味で可哀想な人生じゃないですか!だから、一思いに靴底の染みにして差し上げようかと思ったのですよ……ごめんなさいね☆」

 

 

 

 

 

 やっちまった……

 元気良く心をおおらかにして話しかければ、きっとわかってくれると思って言葉を紡いだのだが、誰がどう聞いても煽っているとしか思わないだろう。

 どうしようか。

 村人達の様子を見ても、全員が恐怖で怯えている。

 

 仕方ない。

 これはどう考えてもこの村と良好な関係は無理だと思うので、私の要件を伝えて彼らの為にもさっさとおさらばしようと思う。

 それが両者のためだ。

 


「私、あなた方に聞きたい事があるの。色々教えてくれる人はいる?あ、嘘は言わない方が身のためだからね!てか、皆のためだね!」

 

 

 仕方なしに脅しつつ、教えてくれる村人は居ないかと聞いてみる。

 暫しの沈黙 の後、村人達の中に一人手を振りながら立ち上がる村人が現れた。

 その村人は、年は16かそこらに見える少女のようで、恐怖で顔をガチガチに強ばらせながらこちらに手を振っていた。

 私はしゃがみこみ、その少女の前に手のひらを置く。

 少女はイソイソと私の手を登って手のひらにやってくる。

 少女が手のひらの中央にやって来たのを確認した私は、立ち上がって手のひらの上の少女に話しかけた。

 

「始めに言っておくと、嘘は言わない方が身のためだよ。貴女や貴女の知人や家族の為にもね。」

 

 私の手のひらの上に座り込んだ少女が顔を真っ青にしながら頷くのを確認した私は、色々な事を小さな少女に聞いた。

 少女の話しから推測すると、この世界はやはり地球じゃないようだ。

 何となくここは地球じゃないとは思っていたが、いざこの世界が異世界だとわると帰れるのか不安になる。

 まあ、帰れるのか聞いても少女には分からないだろうから聞きはしない。

 もう一つ重要な疑問がある。

 私以外に私と似たような存在が居るのかと言うことだ。

 少女曰く、私の様な存在はこの世界には居ないし、歴史は詳しく無いが少なくとも少女は私の様な存在は聞いたことがないそうだ。

 つまり、私はこの世界で色々な意味で一人ぼっちと言うことだ。

 誰とも対等にはなれず、誰ともスキンシップは出来ない。

 その事実が、何故だか私の心に乾いた冷たい風が吹いた気がした。

 寂しさに押し潰されそうになりながらも、その後も私は少女に色々な質問をしていた。

 

 

 一通り聞き終えた私は少女を解放することに。

 

「ありがとね。変な質問ばっかりだったと思うけど、困っていたの。助かったよ」

 

 少女にそう告げた後「下ろしてあげるね」となるべく優しく丁重に扱う。

 私の言葉を聞いた少女は恐ろしい恐怖から解放されたように安堵の表情をしている。

 少女のその表情を見ながら、私は少女を下ろそうと手を下げながらしゃがもうとしたその時、私の頬に風を感じた。

 この世界に来て今まで感じたことが無かった風を体感したことに驚いていたが、ふと私は何か重大な事を忘れている気がした。

 良く考えてみよう。

 村人との身長差から私は千六百七十メートルはある大巨人だ。

 そんな大巨人が体感できる位の風が吹いたら、普通の人間はどうなるのか。

 ハッと私は自分の手のひらの上の少女を見たが、私が確認した時にはもう遅く、少女は紙吹雪の様に飛ばされて私の手のひらに何度も体を打ち付けながら私の手のひらからこぼれ落ちていくのが目に入った。

 千六百メートルという途方も無い高さから落ちていく少女は四肢をバタつかせて藁にもすがる気持ちでもがいているが、無情にも捕まる物や助かる要素は何も無い。

 私は何が起こっているか一瞬理解できなかったが、やっと事態に気がついて体を動かす……

 

 グシャ……

 

 ドゴォォォン!

 

 体を動かした時にはもう遅く、更には誤って踏み潰してしまった。

 私は恐る恐る足を上げて深々と刻まれた足跡を見るが、そこに少女の姿は無い。

 深々とした私の足跡の中には少女が着ていた衣服の色をしたボロボロの布切と、その布切にこびりついた何かの大量の肉片と真っ赤な血溜まりしかない。

 私は少なくない罪悪感から目を反らす様に村の方を見るが、村人達は先程の一部始終を見ていた様で、悲しそうに村中の村人達が先程まで私の手のひらの上に居た少女の名前を呟いている。

 

 私はその場の雰囲気に耐えられず、逃げ出したい一心で乱暴に踏み出して小さな村から離れる。

 私は誰かに責められている様な気がして、一刻も早く村から離れたい一心で足を動かす。

 でも、何か後ろめたさを感じて、私は村から体感五メートル程離れた時、振り返えった。

 

 振り返った先に見えたのは、私が乱暴に歩いた事で出来た深く荒々しい足跡だけ。

 何処を探しても村は無く、村があった場所には酷く地面を抉る、私の靴の形に似た大きな大きな陥没した穴しか無かった。

 

 回らない頭で急いで情報を整理する。

 私は責任から逃げる為に、前に向かって乱暴に早足で前進した。

 そう、前に前進した。

 そして私の記憶では、逃げる前は村は常に私の目の前にあった。

 目の前に。

 

 もう一度足跡を確認する。

 先程の村人達が住んでいた村があった場所は地面が吹き飛び、私の靴の跡を中心に大きなクレーターが出来ていた。

 少女も、村人全員も、多くの人間が私の不注意で皆意識することなく靴底の染みに……

 

 理解した。

 理解した途端 に私の心のどこかに、ぽっかりと穴が空いた気がした。 

 私自身は何も喪失していない筈なのに、何かを喪失したように感じる。

 意気消沈した心のまま、私は先程自分の足で肉片に変えた少女が言っていた港町に向かうため、歩みの方角を変えて歩きだす。

 

 

 

 

 

 港町への道中、恐ろしい勘が頭を過った。

「私は、どこまで行っても怪獣でしか無かったら?私はこの世界では完全に一人ぼっちで、誰とも関わることができないのではないか?」と。

 

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