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6~予言書のノート

 

 俺は足早に家を出る。

 どうしても歩幅が大きくなる。目的地へと向かう為に。


 そして今更になって気づく違和感。

 まず一点が祠の下に置かれた古びたノートだ。

 ここいらの村じゃ、パピルス紙か羊毛紙が主な紙の主流だ。

 ノートなんて村で一度も、見かけたことがない

 何せ作るコストが高いのだ。


 と、考えると、あれは村の外から持ち込まれた物だと思う。

 当然いったい誰が祠に持ち込んだのかって話だ。


 ノートを祠に持ち込むってことは、誰かに中身を見てほしいということだろう。

 ん? まてまて……おかしいぞ。

 祠を封印するように上下幾重にもロープをグルグル巻いてるのに、その中にノートがあるという理由。


 ノートを見てほしいのか。

 それとも祠から遠ざけたいのか、どっちかまるで分からない。

 ノートを見てほしいなら祠の封印の前に置けばいいだけの話だろ。

 完全にこれは矛盾している。


 ……どういうことだろう? 

 祠を封印した者とノートを持ち込んだ者は別人てことか。

 あくまで過程の話で、いくら考えても推測の域を出ない。




 もう1点の違和感。

 ルクスは秘密基地から、離れた場所で何をしていたんだろうか?

 ルクスの性格からして秘密の特訓て、わざわざ一目につくとこでするハズもないだろうし。

 むしろ自慢気に自分の剣技を、見せつけるようなタイプの人間だ。

 これは本人に聞いてみるよりないか。

 とても理由が分からない。


 道中で、昨日会ったおばさんに会わなかったことをホッとする。

 同じ時間をなぞるようなら昨日のように、ラプラスの悪魔を解放しかねない。


 いいぞ、きっと大丈夫だ。

 未来は平和で、この変哲のない毎日がきっと続いてゆくと、自分の胸に強く言い聞かせ道を行く。


 やがて森に入ったところでまたも重大なことに気づく。

 そういや……レイスが祠の近くにいたんだ。


 どうする……?

 アレに会って勝てるのか?

 逃げることもきっと不可能だ。

 昨日のようにハルカが食い止めない限り。


 結論は無理とすぐ悟る。

 村の中でも魔法の才能に溢れ、その全力を出したハルカが敵わないのだから。

 ラプラスの悪魔こと魔王が言っていた。

 ギルドの裁量でAクラスとなってるが、誰も倒したことがないから実際の強さは魔物ランクSなんだと。

 つまり神話級だということだ。



 運よくレイスと遭遇しなければいいんだが。

 退いても明日は世界の地獄、進むも命に関わる地獄。


 正直怖いぜ、怖いけど進むしかないだろ!

 よしっ……! 気合を入れ自分の頬を両手でパンを打った。


 気持ちとは不揃いな二の足を勇気で無理くり前に出す。



 そして俺は祠の前に辿り着く。

 ラプラスの悪魔が封印された祠。

 丸みを帯びた石造りの祠はコケが生えていて、ロープも切られておらず、何文字か不明の黄色い札も昨日のままだ。


 それにしてもラプラスの悪魔という、とんでもない存在を封印してる割には、祠の作りもお粗末なものだ。造形に素人の俺から見てもだ。楕円のような丸みを帯びたサッカーボール程度の大きさの石の上に、屋根を思わせる三角形の石が上に置かれてるだけ。

 楕円のような下の石に空間があって、奥にノートが眠っている。


 変化なしだな。

 よし! っよし! 軽くガッツポーズし、心の底から安心し安堵のため息を漏らす。


 昨日、完全夢想の再遊戯リバイバルゼロで戻した過去と変わらず、鳥の鳴きや声もなく、森に息づく数多の虫の声もなく、森を吹き抜ける爽やかな夏の風も吹くことなく、辺りを見渡せばただただ静かだ。レイスを一撃で吹き飛ばすような、ラプラスの悪魔が封印されてるだなんて思いもしないほどに。


 辺りにレイスの存在はいないみたいだな。

 おそるおそる足を進める、差し足、抜き足、忍び足の要領で。

 ちっ……まるで入っちゃいけない場所に入った、泥棒にでもなった気分だ。


 そういや……気になるな。

 ハルカが見つけたあのノート。

 ラプラスの悪魔が解放された以上に、驚いてたように思えた。

 そして困惑していた、深刻な表情をして。

 俺達に言えないほどの内容か。


 ハルカが読めるんだから多分、俺にもノートの文字読めるよな。


 ……やっぱり気になる。


 好奇心が俺の背中を押す。

 入っては関わってはいけない場所なのに。

 そうと知っていても、知りたいノートの内容を。


 どくん、どくん、と心臓が高鳴りを上げる。

 それが恐怖によるものか、好奇心からくるものか自分でも判別がつかなかった。

 手に汗が滲んでくる。

 それでも俺は祠の中へ、気持ちとは裏腹に不揃いな足を進ませる。



「大丈夫だ、問題ない」



 ルクスがロープを切ってラプラスの悪魔が解放された。

 ヤツ自身も言っていたはずだ。

 このロープを切って解放してほしいと。


 だからこのロープを切らない限り大丈夫だ。

 俺の中の俺へと言いワケをして、幾重にも張り巡らされたロープを持ち上げ、体をしゃがませ中へと進む。ロープは時の経年変化で緩んだのか、さほど力を入れなくても上に持ち上がった。


 そして、ラプラスの悪魔の祠の前へ。

 楕円の石の真下に、四角形の開いた空間がある。

 ここの奥でハルカがノートを見つけたんだ。

 しかし、良くみつけたな。


 そりゃ空間があれば誰だって気になる。

 だけど、しゃがまないと見えないじゃないか。

 地面すれすれに体をつけ腕を伸ばし、ノートに手をかける。


 ……よっと。

 あったノートの感触だ。

 ノートを見るだけだ、ラプラスの悪魔を解放するほどの影響なんて、世界にはない。


 ちっ……雨風で水シワがついてるし、手にベッタリと土がついた。

 ノートはだいぶ風化しているようだ。

 表面の土を手で払い落とす。


 どれどれ。

 気をとりなおし、パラパラとページをめくる。


 …………

 ………………。


 なんだコレハ?

 何を書いてるんだこのノートは?



 アースガイド王国歴523年。

 ・ラプラスの悪魔が解放される。


 大地に火の上がらない日はなく、人々は飢えに苦しむだろう。

 数多の魔物の出現とともに、大冒険者時代の幕開けとなる。

 冒険者は水を得た魚のように、自分達の生活の事しか考えない。国は自分達だけの利権を守ることに躍起となり、盗賊、夜盗がはびこるだろう。


 力をもたない市民や農民の多くが犠牲となる。

 多くの流れる血と涙と祈りを天秤にかけても、救いの神は現れない。


 そして第十の夜が明けた時に、世界は崩壊への道を辿る。

 本当に酷い時代だ。



 アースガイド王国歴523年。

 ・ジェネシス皇国の王都選定騎士団ワンナイトオーダーの発足。


 主に防衛と魔物退治のスペシャリスト達。

 暗黒の時代に見えた僅かな光明。



 同じく王国歴523年

 ・レゾニア王国の崩壊


 大国ジェネシス皇国が、嵐の日に奇襲作戦をかける。

 鉄の騎士団と魔術部隊によるゲリラ攻撃。


 後にレゾニアに降りた『雷鳴の夜』と呼ばれる。

 残ったのは焼き残った草木と、廃墟と化した城壁に舞う蝶だけ。

 混沌した時代に、降りかかる静かな灰と戦乱の予兆。



 王国歴525年

 ・ジェネシス皇国が世界統一の野心を宣言する。


 混沌とした時代にさらなる狂気の幕開け。

 ジェネシス人種こそもっとも優れた人種である。

 皇国は宣言し、歴史に血を塗ることと地図を広げることを選択する。

 割れた1国と、残った大きな5国の版図を統一へと。


 狂気の脈動は不安と懸念を世界に抱かせつつ、暴走した車輪を進ませる。



 王国歴526年

 ・アルティメシアによる『イカロス計画始動』


 人は脆く、そして壊れやすい。

 人を最終進化へと導くための人体実験と、魔物の製造と魔術の研究。

 そして世界統一政府樹立と、思想から思考までの全ての統一を目的とした支配。


 表に出てこないのと、世界各国に人員がいる為に組織の実態把握には、まだ至っていない。

 裏で暗躍し世界を狂気の雨雲で覆い尽くす。


 彼に内容を言ったのだが、信じてはくれない。

 私は私の出来ることをしようと強く誓う。




 ……なんだよコレ。

 おかしいだろオイ。

 だって今が王国歴523年だぜ。



 これは未来のことを記してある!

 ノートを持つ手が……いや体が地震でも起こしたかのように微かに震える。


 未来人が書いたのか?

 パッとそう考える。

 いるワケないだろ、そんな能力をもつ人間が。

 しかし、そうとしか考えられない。


 現にラプラスの悪魔が、解放されると記してあるんだ。

 だけどやっぱり変だ。


 未来人がいると仮定しよう。

 じゃあ、なぜノートに記して、人気がまったくないこの危険な祠に置く必要がある?

 実際に誰かに、伝えればいいじゃないか。


 つまりノートは誰かに見てほしいとの思いで、ここに置いたのだろう。

 ここで一つの矛盾が発生する。

 危険なこの祠に置くんじゃ意味がないんだ。

 そう、ここには俺達以外に誰も来ないのだから。


 見てほしいのか、それとも隠しておきたいのか? 

 まるで意図が分からない。


 まさか、ラプラスの悪魔がこれを記したのか?

 ……そんなハズはないな。

 これにはいくつか、書き手の感情みたいなのが綴られていた。

 間違いなく人の手によるものだ。


 他のページはどうなんだろうか。

 見てみよう。



 ノートに手をかけるとガサガサっと、草の根を分ける音が断続的に聞こえた。

 思わず身をすくませ、音のした方向へ警戒しつつ振り返る。


 レイスではないようだ。

 人か動物による仕草から発する音のような。

 俺はその方向へと足を進ませる。

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